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閑話 私のかわいいお嬢様〜ミーシャ視点〜

まったり薬師ライフの前に、閑話をはさみま〜す。


 私が10歳のときからお仕えしているお嬢様に、好きな人ができました。エンデ・コロンナ。侯爵家の5男です。

 確かに、絵本に出てくる王子様のような外見ですが、軽薄そうで私は好きではありません。


 お嬢様より二つ年上のエンデ様の周りには、いくぶん大人っぽい令嬢が取り巻いていました。それを見たお嬢様も濃いお化粧やら肌を見せる大人のデザインの服やらを選ぶようになりました。

 私は反対しましたよ。だって、お嬢様は綺麗というより可愛らしいお顔立ちだし、大人っぽくするよりもふわふわフリフリのお洋服のほうがお似合いですから。私の好みがそうだってだけじゃないですよ。ええ、決して。本当にお似合いですけれど。


 それでもお嬢様に、涙目でエンデ様に釣り合うようになりたいからってお願いされれば、折れるしか無いじゃないですか。それにしても、うるうるの瞳のお嬢様の可愛らしいこと。

 大人びたお化粧とドレスに身を包んだお嬢様は、やっぱり背伸びをしてる感が拭えません。エンデ様は大げさに褒めました。まあ、お嬢様ったら顔を赤く染めて。……本当にエンデ様のことをお好きなんですね。

 でもエンデ様の取り巻きは許せません!確かにお嬢様は背伸びをしています。それを馬鹿にしたように笑うなんて。みなさん貴族令嬢らしい上品な笑いでしたから、まだ心の純真なお嬢様は気づかなかったようですけれど、私にはしっかり分かりました。侍女ネットワークを通じて、お名前、家柄、好きなもの、嫌いなものの情報を仕入れてやりますわ!



 でも、お嬢様はまるでつきものでも落ちたかのように、エンデ様への恋心を無くしました。体調を崩された時は、本当に心配しましたが、頭にいた寄生虫でもいなくなったんでしょうか?お化粧や、大人っぽいドレスを止めて、可愛らしい装いをするようになられました。髪だって、アップにするのを止めて、背中にふんわりと髪を流して、前髪をリボンで止めています。お似合いですうううう!!!はぁはぁ。

 エンデ様とは婚約まで秒読みでしたが、旦那様が喜々として白紙に戻してくださるそうです。相手は侯爵家ですから、面子を傷つけないようにしないといけませんが、貴族院でも敏腕と名高い旦那様でしたら、そんなのはおちゃのこさいさいですわね。期待してますわよ!



 そんな旦那様の勧めで領地に行くことになりました。エンデ様と距離を置くというよりは、奥様と距離を置くためのようでした。あの夫婦、本当に不思議ですわ。奥様は旦那様に悪態をついてばかりですのに、旦那様はそんな奥様を愛おしんでいるようです。私なら、夫となる人には優しくします。そして夫となる人からも……きゃあぁあああ!はっ、妄想が膨らんでしまいましたわ。

 旅は、お嬢様が安全に過ごせるようにと、最高の警備が整ったものでした。護衛の方も、普段は旦那様を警備なさる、伯爵家でも特に腕の立つ方ばかりでした。

 旅が楽しかったのか、お嬢様は王都では見ないくらいリラックスなさっております。お茶を飲んで「ぷはーー」なんて言ったり、階段を「よいしょ、よいしょ」なんて言いながら昇り降りしたり。ご本人は気づいてないようですけれど。ちょっと、ババ臭い所作の幼女もなかなか乙なものですわね。

 それに立ち寄った街や休憩のための時間では、お嬢様とお買い物です。

 あらあら、そんな小さな器やスプーン、何に使うのでしょう?え?お薬を作られるのですか???そんなお勉強なさったことは無いはずでしたが……。

 はっ!!!

 お嬢様!それはおままごとのお誘いですか?私、患者さん役ですか?それともお医者さん役ですか?


 森での散策も楽しゅうございました。草花を摘んでお遊びになるお嬢様。無邪気です。天使です。

 かわいいピンクの根本が膨らんだお花はとても可愛らしく、お嬢様は領地に持って帰ってお育てになるつもりなのか、株ごと欲しくなられたようで、白い指を土に伸ばしました。

 私が声をあげる間もなく、付いてきた若い護衛の方がお嬢様を止めて下さいました。そして、ナイフで土を掘り始めました。

 なんて気が利くお方なんでしょう。私も見習わなくてはいけませんわね。

 私はそっと二人から離れて、近くの水辺で懐紙を濡らして戻りました。ちょうど株を掘り出したところでしたので、濡れた懐紙をを差し出しますと、お嬢様はとても喜んで下さいました。私も嬉しいです。


 馬車へ戻る道で、なんだか魚が腐ったような匂いがしました。護衛の方が、私達を下がらせて身構えています。

 きゃーーー!ゴブリン!!!

 お嬢様を守らなきゃ!私はお嬢様に覆いかぶさるように抱きつきました。貴族令嬢のお嬢様はゴブリンがどんな生き物なのか、特に女性にはどんなにひどいことをする生き物なのかを知らないようで、眉をひそめただけで平然としておりました。私なんて、足がガクガクしているというのに。

 ザシュっという音に恐る恐る振り向けば、護衛の方がゴブリンを切り捨てたところでした。肩から反対の脇腹まで切られて内臓がこぼれそうになっています。ゴブリンは私と目が合ったまま、ゆっくりと白目になりました。長い舌が口の端からこぼれます。腐った魚のような匂いが、我慢できないくらいに強くなりました。

 ああ、気持ち悪い。

 胃の中のものが出てきそうになります。急いでお嬢様から離れました。

 数歩離れたところで、何か温かいものに体がすっぽりと包まれました。


「大丈夫?」


 私、護衛さんに抱きしめられました!


「ひゃ、ひゃい!だ、大丈夫です」


 きゃーーー、至近距離です!クリクリとした茶色の瞳がすぐ近くです!息!息かかってます!

 私、男の人に抱きしめられたの初めてです。男の人の腕も胸もとっても硬いんですね。

 胸が……ドキドキします。




 私、あっさりと恋に落ちました。


 



ミーシャ、できる侍女なのに実は残念な子です。


今まで毎日更新してきましたが、次からはゆっくり更新にしますm(_ _)m

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