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80 扉の外

祝100部 今回のお話で100部(本文は80話)になりました! 長いこと、お付き合いいただきありがとうございます!


 建物の中と庭を隔てる、青銅の重い扉の錠を開けるとそこにはアラン、ダンがいた。


「お嬢様! よかったご無事なのですね!」


 私達にいち早く気が付いたのはアランだ。私の顔を見て一同、ホッとした顔をしている。


「ええ、無事よ」

「中で何やら騒ぎがあったのは分かるのですが、私達には誰も知らせも来ず、かといってこの頑丈な扉のせいで中に入ることもできずにお嬢様達を心配しておりました」

「そう。何があったのか、あなたたちは知らないのね」

「はい」


 と、そこに見慣れぬ男が、鼻の下でくるんとカールしたカイゼル髭を撫でつけながらやってきた。


「ど~しましたか? なんだが中がお騒がしいようでございますね」


 男は私とアリーシア先輩を見ると、一瞬目をみはり、次いで媚びたような笑顔を浮かべた。


「こ~れはこれは、『三人の聖女』であらせられま~すアリーシア様と、オルシーニ伯爵令嬢のユリア様でいらっしゃいます~ね。お会いできて光栄でございま~す。私は、ヴィスラ商会を率いておりますガシリスクと申します。こちらにはリンドウラ・エリクシルの取引でま~いりました」


 男は、細長い体を人の注目を集めるように、気取った仕草で折り曲げた。そうか、仕上げをしたということは、もう出荷できるという意味だ。とすれば、取引をしている商人がもう来ていてもおかしくはない。ただ……なんとなくなのだが、あんなに手をかけた神秘的な薬酒を預けるには、ふさわしくないように思えた。

 アランとダンはというと、私の後ろにいるアリーシア先輩に初めて気が付いたようで、即座に胸に手を当てて頭を下げた。

 アリーシア先輩はおずおずと前に出る。


「あの……皆さん、頭を上げてください。今はそれどころじゃないんです」


 困惑したように、ダンが尋ねた。


「中で何が起こっているんですか?」

「食中毒が広まっているんです」


 焦ったように、アランが私に向き直る。


「食中毒! お嬢様はご無事ですか?」

「見ての通りよ。宿坊の方のみんなは?」


 ガシリスクもも含めて、みんな顔を見合わせる。ダンが代表して答えた。


「……特に変わったことはないようだ。でも夕食の差し入れがあったから。これから症状が出るかもしれない」

「そうね。もし一人でも体調を崩す人が出たら連絡して」

「分かった」

「ヘンゼフとガウスはどうしてるの?」

「ああ、二人とも何ともないよ。ヘンゼフ君は病み上がりだからな。早々に休ませて、ガウスが付き添っている」

「そう……」


 私は胸をなでおろした。病み上がりに、再び食中毒になんてなったら、重症化するのは目に見えている。


「ところで、誰か魔力回復ポーションを持っていないかしら? あったら、分けて欲しいの」


 ダンは、首を振った。


「悪いな。俺たちが持っていたのは、ユリア……様にあげたのだけだ。あれだって、前の討伐依頼の時に仲間のために用意したものがたまたま残っていたんだ」

「そう……」


 そういえば、ダンは私のことをまだ「様」付けで呼んでいる。口調からすると、いっそのこと呼び捨てでいいのに。


「ガシリスクさん、あなたの商会では?」

「いいえ~、ありませ~ん。残念で~す」


 一瞬、ガシリスクの目が揺らいだような気がしたが、気のせいだろうか?


「そう……。アラン、護衛の一人に街まで行って、魔力回復ポーションと体力回復ポーションを買って、できるだけ早くに戻るように指示してちょうだい」

「かしこまりました」


 アランはすぐさま近くの護衛に指示を出した。その護衛も、「お嬢様のご命令なら、この命に代えても!」だなんて、目がギラギラしていて怖い。……信者化していない普通の護衛はいなくなっちゃったのかしら?

 アリーシア先輩が、ホッとしたように「ありがとう」とつぶやく。


「気を抜くのは早いです。一番近い街までも、馬車で丸一日。もしその馬なら、もっと早いでしょうが、戻って来るのは明日の夜中、もしくは明後日の朝になると思います。それにその街に無かったとしたら、さらに遠い街に行かなくてはいけません。日数もかかります」


 まだ何の解決にもなってい事に気付き、アリーシア先輩は厳しい顔で頷いた。


「さあ、私達は病人の看病に行きましょう!」


 アリーシア先輩は、ぎょっとしたように目を見開いた。


「ダメよ! お客様であるユリアさんに看病なんてさせられないわ」

「でも人手が足りないでしょ?」

「ええ……。でもユリアさんが行っても……。私だって、何もできなくておろおろしているばかりなのに……」


 そこでアランが爽やかな笑顔で、「失礼ですが」と割って入った。その笑顔にアリーシア様は、ぽうっと赤くなる。


「アリーシア様と違って、お嬢様にできないことはありません」


 ……アラン、言っていることが失礼よ! それに私はできることより、できないことの方がはるかに多いわ!!


「そ、そうね。じゃあ、ユリアさんも一緒に……。あの……、よろしかったら、あなたも……その……、看病に力も必要になるかもしれないし、男の人がいた方が……」


 顔を赤くしたまま、アリーシア先輩はアランに一緒に看病に行ってもらえないかと頼む。


「かしこまりました。もとよりそのつもりです。お嬢様が行くところ、私もまいりますので」


 アリーシア様が、複雑な顔をして私を見る。そんな顔をされても……。


「心配しないで。アランは、妻子持ちよ」


 秒殺で失恋したであろうアリーシア先輩だった。


……ねえ、ねえ、アラン君。

構成上、この章は、ダンとガウスが活躍する見せ場になるはずなんだよ。

なのに、なぜ君がこんなに出張ってきているんだい?


狂信者に振り回されるのは、ユリアも作者も同じです(´;ω;`)ウッ…

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