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-8.b Identified Answer : null  作者: 実典
前編:Identified Answer
9/16

2:2:3

「嘘でしょ、だって上に向かって歩いてないもん。東7の空洞が最上層階と同じ深さでも地上まで遠いよ」

「これ、ちょっとずつ傾斜してるんだよ。道がくねってるからあんま分からないけど」


 前に向き直って歩き出した海斗は話続ける。

「フレデリクが言ってたんだ、換気口のうちのいくつかは最後まで人が通れる太さで続いてるから実質外に出れる、って。ただし、どれなのかはどのデータにも載ってない、紙の書類だけに記録されてる。フレデリクはそれを知ってからどうしても外に行ってみたかったって。関係ありそうな業務を積極的に引き受けたりして、先輩に取り入って地図のコピーをもらった。今は僕の鞄にあるけど」

 と膨らんだショルダーバッグをぽんぽんと叩く。


 やっと海斗がこっそり見ていた紙の正体が分かった。しかし新たな疑問も出てくる。初めからそれを知っていたなら探偵ごっこは不要だったはずだ。

「なんでフレデリクの行方を探すフリなんかしてたの」

 海斗は立ち止まって首をかしげる。

「うーん……理由は色々あるな。フレデリクから僕にまで情報漏洩してることは隠した方がいいかなって思ったし。あと、この地図不完全だったから、一般地図のどこと一致するのか調べるのにフレデリクが歩いたルートをしらみつぶしにチェックしたんだな。まあ一番は、探った時の彬さんとか、周りの人の出方を見たかったんだけど」


「前に言ってたね拓海に。同期メンバーがいなくなってるのに何で誰も大して気にしてないんだ、って」

「そう。特に直属の先輩とかはさ、知ってるわけだろ、フレデリクが外に行く道を知ってること。……僕らクローンは外部勤務の特務メンバー以外はこの地下のホームからずっと出ない。この小都市を運営するためにいるってことになってるから。誰かが勝手に外に行ったらまずい訳じゃん」

「当然だね。第一、僕らが教えられてる人間社会の知識では、外に他のクローンとかいないらしいし。それが本当かは置いておいて」

「いや、外にクローンがいないのは本当だと思う。拓海が前に『来客の応対ですごいじろじろ見られて面白がられた』って言ってたし。浩海もだんだん情報を疑うようになってきたな?」


 嬉しそうに話を続ける。

「そう、この狭い世界で聞かされてる情報には、じっくり照らし合わせてみると妙な点が多い。勝手に出て行ったやつを探さないのは、本当は出て行っても問題ないんじゃないか?とか。大体フレデリクの先輩にしても彬さんにしても、なんで簡単に業務外の怪しい行動に協力したり機密情報を漏らしたりしてくれるのか、とか。だから、」

 ふぅ、と海斗は深呼吸して言葉を切る。

「知りたかった。ここの外はどうなってるのか、フレデリクはどうなったのか、僕らはなんでこんな所で閉じ込められてるのか」

「………」

 言いたかったことを吐き出したようなその熱弁に、なんて返したらいいか分からなかった。その意思の強さが眩しいくらいで、海斗を一人であらぬ方向に突っ走ってる奴とみなしていたのが馬鹿みたいだった。


「かっこいいね…海斗は強くて」

「別にそんなに強くもないよ」

 顔を背けて海斗はまた歩き出す。

「色んなことに興味を持ったのだってフレデリクの受け売りみたいなものだし。それに本当はすっごく怖い。取返しがつかないことに足を突っ込んでる自覚はずっとあったから」

「フレデリクも僕らも外に出た瞬間にパーンって撃たれて殺されて終わりかもしれないしね」

「うん。だから、浩海が僕の考えてること、馬鹿にせずに付き合ってくれて嬉しかったし、一人だったら結局ここまで実行しなかったかもしれなかった。……浩海だって強いと思うよ。普通、どうなるか分からないのについて来れないよ」

「………」

 強い…?度胸があるみたいな…?そうだろうか。


 一時間ほど前、部屋を出るときのこと。隣のベッドで寝ている拓海からは寝息が聞こえなかった。本当は起きているのかもしれないと思いながら、部屋を出かかった時に、聞こえないくらい小さい声で話すのが聞こえた。

「心配だけど行ってらっしゃい…僕は…ごめん…これ以上関わるのは怖いから…だって……ここはそんなに優しい所じゃないから……僕は…………

いや、忘れて。寝言だから」

「随分大きい寝言だけど」

「そうだね。自分が怖くて逃げておいてなんだけど、さっき海斗に頼んだんだ、浩海をちゃんと連れ帰って来てね、って」

 予想外すぎる発言だ、言い間違いじゃないのか。

「え?逆じゃなくて?」

「君の方が…ずっと危なっかしいから…ちゃんと帰ってこないんじゃないかと…」

 その後はわざとらしい寝息になった。寝言は終わりのようだ。その発言の意味も気になったが、そのまま僕は部屋を出たのだった。

「行ってきます」



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