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-8.b Identified Answer : null  作者: 実典
前編:Identified Answer
8/16

2:2:2

 数日後の早朝、僕ら二人は東7ブロックに向かった。

「じゃあ僕は先に行って調達したものを持ってくるから、探検隊の隊員2号浩海君は東1ブロックのゲート前で集合!」

 探偵は探検隊に変更したようだ。

 僕は海斗に言われた通り、普段日用品を持って歩くのに使っているショルダーバッグに作業用の軍手、長靴、飲み物のボトルなんかを詰めたものを二人分持って自室を出た。待ち合わせ場所に来た海斗は、どこからか懐中電灯を調達してきていた。

「それ……盗んでないよね?」

 一応確認する。

「そんなわけないだろ!これはしかるべきツテを使って借りたんだよ」


 東7ブロックに足を踏み入れると、そこは広大な地下空間にある『ホーム』を更に拡張する工事現場で、掘削された巨大な空洞の岩盤がむき出しになった天井を、金属の巨大な支柱が並んで支えていた。かなり湿っぽい空気が充満し、空調管理された地下区画とは全く違う匂いが鼻をついた。とりあえず長靴に履き替えて足を踏み入れる。


「前に来たこと、あるけど何回見ても大きいなぁ」

 僕は壁を見上げる。壁際には工事用の足場があちこち組まれていた。フレデリクが映像で登っていた所だ。

「そう、僕さ、建設業務ってめっちゃいいと思うんだ。だって何もなかった所にものができてくるんだぜ。それに浩海知ってる?ここの地下ってさ、作り始めてからずーっと工事して拡張してるんだってさ。信じられるか?外でもそんなに長期に続けることはあんまりないらしいよ。それにそこの柱、ふっといじゃん。こういう大きい天井を太い柱を並べて支える方法は、すごく古くからあるらしくて、これに似た見た目の古代の神殿なんかもあるんだ」


「そっか、海斗、こういうのが好きなんだ」

 海斗があまり凄い勢いでまくしたてるので少し驚きながらも、目を見開いて笑顔で話す顔を見ると、僕まで嬉しくなった。

「うん、好きだ。実はしょっちゅう見に来てたんだ。それで別の課になったフレデリクとも時々話したりしてたんだよな」

 フレデリクのことを思い出したのか少し海斗の顔が陰る。


「もしかしなくても、フレデリクがどこに消えたのか見当ついてるんでしょ。ここの奥に知らない隠し区画があるとか。で、それが建物が好きな海斗と関係ある、探偵の動機はそんなところかな?」

 目的の一端が分かった気がしたので予想をぶつけてみる。

「うーん、当たらずも遠からずってとこかな。後で話すよ」

 またはぐらかされてしまった。だけど、何か未知の場所へ僕らが向かおうとしているのは確かだ。そう思うと興奮してきて、湿っぽい岩肌に触れる長靴の感触も嫌じゃなかった。拓海は無謀と言ったけど、無謀も案外悪くない。


 少し奥に行くと通常区画の常時点いている明かりも届かなくなって、懐中電灯が必要になった。細い光が照らす先のどこも同じような岩壁を見ていると方向感覚が狂ってくる。といってもまだCCBNを介した施設内のGPS機能が動いているから、それを頼りに進む。


「ここ」

 海斗が斜め上を懐中電灯で照らした。そこには岩壁の上の方、地面から3mくらいの所に人が通れるくらいの穴が開いており、そこに向かって縄ばしごが架けられていた。

「登るの…?」

「そう」

 当然、とでもいいたげだ。どう見ても人が立ち入るための空間が奥にあるとは思えない。秘密の部屋か何かに行くのではという検討は外れそうだ。はしごはグラグラで、拓海を連れて来なくて良かったとちょっと思った。たぶん怖いって騒いで登れないし、怪我したらどうするって断固反対しそうだ。


 意外にも穴の中は人が少し前かがみで歩けるくらいの高さがあったが、道は曲がりくねっていて先が見えない。

「ここ、空洞を掘る前の調査、準備とかに作られた通路らしいよ」

「海斗はデータベースに載ってないこといっぱい知ってるよね」

「ホントに重要な情報は閲覧権限以前にデータに載らないから、口で聞いて、頭で覚える。それが一番」

 …海斗ってこんなにたくましかっただろうか。いつもちょっと雑で、ふざけて、拓海に小言を言われてて、ヘマの後始末の手伝いを僕に頼んでくる、そんな感じだったはずなのに。


 しばらく進むと、ついにCCBNのネットワーク圏外になった。ああ、だからフレデリクと通信できなかったんだと気づいた。そして物心ついてから常につながっていた、人間とクローンの先人達の知識の泉から切り離された僕は途端に心配になった。この暗闇から海斗は間違わずに戻れる道を知っているのか?僕はもうさっぱり方角が分からない。


 しかし、前を歩く海斗は何の迷いもなくずかずかと進んでいく。もう何回も分かれ道を曲がった。鞄が肩にめりこんで少し痛くなってくる。

「ねぇ、海斗……」

「ん……」

「ねぇ、ほんとに大丈夫なの……」

 前を進む足音が止まる。

「大丈夫。事前に地図をしっかり参照して、覚えてきたから。それに、ここならもう話してもいいかな」

「何が」

「ほんとは僕、ここの先に何があるかもう知ってるんだ。これ、たくさんある換気口の一つなんだぜ、浩海は換気口って分かる?」

 カンキコウ…知らなかったので反射的に検索しようとして、圏外なのを思い出した。

「知らない…」

 データに頼ろうとしたのが、なんか負けたような気がする。海斗はフッと鼻で笑って、

「空気を流す穴ってこと、末端の洞窟現場にエアコンなんかつけれないからね」

「待って、どこに空気を流してるの」

 足を止めて顔の汗をぬぐうと土に触れた手で顔が汚れた。


 …………土?

 懐中電灯を回す。さっきとは違う、茶色い壁だ。気づいてなかったけど、なんとも言えない少しすえたような嫌な臭いがする。海斗の方に懐中電灯を向けるといつものイタズラっぽいニヤニヤした顔がある。

「もうすぐ地上だ」


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