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-8.b Identified Answer : null  作者: 実典
前編:Identified Answer
7/16

2:2:1

 あくる日の夜、寝室で僕らは探偵活動の次の計画を立てていた。会話記録をプライベートモードにするなり、海斗はベッドの上に立ち上がって人差し指を立てた手を高く上げ、

「よし!それでは『実地調査』をしよう!」

 と宣言した。

「建設担当課に話を聞きに行くんじゃなかったの?」

「気づいてなかったのか、そういう建前にしとくんだよ。冷静に考えて、これ以上激しく嗅ぎまわるのバレたらはまずそうだからな。

 フレデリクが消えてその後記録映像に映ってないってことは、そこからフレデリクがどこかに行ったと考えるのが妥当だ。新規建設中の岩場の奥に何があるのか、そこに消えたフレデリクが今もどこかで無事な見込みはあるのか。これを解明するのが我らの探偵業の山場だ」


 想定にいまいち一貫性がない。ほんとバレて困るなら、いくら記憶提出していないとはいえ、オンラインの空間で話すべきではない。そもそも、目的がわからない。この間から一体なぜこんなことをしようと言い出したのか、もうフレデリクがいなくなってからかなり経つのに。こいつは本当に大丈夫なんだろうか。追及しようと口を開きかけた時、拓海が部屋に帰ってきた。


「お、遅かったじゃん」

 海斗が慌ててまたこっそり広げていた例の紙を机の下に隠す。ちなみにその紙は僕もまだ見せてもらってない。

「おかえり」

 ドアの方を振り返ると、拓海は怪訝な顔をしてこちらを睨めつけている。

「二人とも、何の話してたの。……聞いたよ、まだフレデリクのこと聞いて回ってるって。馬鹿じゃないの、ふざけてないで仕事しなよ」

 拓海は今まで聞いたことがないくら不機嫌な口調だ。

「いや~出世エリートコースの拓海は忙しいみたいだけど、僕らヒマでさ~」

「……」

 明らかに火に油を注いでいる。

「むしろ、お前は気にならないのかよ。だって数か月前まで一緒に暮らしてた奴が消息不明なんだぜ。」

 海斗は真剣な顔になってベッドに座り直した。僕は黙って二人の様子を見ている。


 拓海は、接待役の手伝いの仕事を任されるようになってから身なりに随分気を使うようになった。しょちゅう髪を切り揃えては櫛を通しているし、洗濯した後の服には必ずアイロンをかけている。部屋の入口で直立不動のまま動かない塵一つない服の拓海と、ベッドにあぐらをかいて頭を掻く海斗は、飼い猫と野良猫みたいな見た目の対比だった。


「気にならない、いなくなったのは何か事情があるんでしょ。調べてくれてるって言ってたじゃない。それに公表されてないなら僕らは知らなくていいってことなんだから。

浩海も海斗みたいにそんな無謀する人になったわけ?浩海は何で海斗のおふざけに付き合ってるの、そこは引き留めてよ。」

「おふざけじゃねぇって!」

 拓海は海斗の抗議を無視した。

 なんで一緒にやってるのか。そう言われると難しい。でも一つ理由はある。

「海斗が心配だし、これだけ熱中するくらいのことって何なんのかなって」

「……それだけ?」

 拓海は呆れている。でもたぶん本当に理由はそれだけなのだ。危なっかしい海斗をほおっておいたらダメだとも思うし、これだけ熱中できるのなら、そこに僕らの至上命題たるアイデンティティの『問い』への彼の答えのヒントがあるのでは?

「意味わかんないよ」

 拓海がつぶやく。僕にもあんまり分からない。それに、三人一緒だったのに拓海を一人にするのは心苦しい。


 無視されてそわそわと身体を揺らしながら話に割り込むタイミングを伺っていた海斗は、我が意を得たりとベットからぽんっと跳ねるように立ち上がる。

「よし!もう良いだろ。堅物はこの中じゃお前だけだ。浩海は僕とこの謎を解明して戻ってくる。お前は何も知らないし、迷惑かけない。これでオッケーだ」

「……勝手にすれば」

 拓海は少しだけ悲しそうな顔をしているようだった。そしてまた部屋を出て行ってしまった。


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