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その時、何か風のものとは違う音が聞こえた気がした。笑うのをやめて僕らは顔を見合わせる。
「何か聞こえないか?」
「聞こえる、けど小さくてよく分からない風じゃない?」
「ゴーって感じの…待って段々大きくなってるぜ」
「あっちだ!!」
僕が指さした先を、望遠鏡をひったくった海斗が覗く。
「何だろう、なにか動いてる」
「僕にも見せて」
小さな覗き穴を凝視する。横に長く細いものが、地面にへばりついたまま、滑っていく。 それは銀色の列車だった。
「列車だ!!」
「ほんと!?」
列車は、僕らが這い出した土穴の遥か先で土ぼこりをもうもうと舞い上げて、そして再び遠ざかっていった。
「すごいや、やっぱり人間住んでたね。あはは、良かった、僕らだけじゃ広すぎると思ってたもん」
どこかで誰かが活動してる様子に、海斗はどっと安心したようだった。
「そうだな、半分くらいは人間に譲ってやってもいいな」
尊大なフリをする海斗の頬には涙のあとがついていた。
「どうする?戻る?」
海斗がこのまま線路をめがけて大平原に飛び出して行かないかと危惧して尋ねる。そうなったらついて行って引き留める気だった。
「行かないよ、外のことだってホームで色々調べたらわかるかもしれないし、僕はここで干からびたくないぜ。……………浩海」
彼はしばらく何か考えるような間があけてからこっちを見た。いつもの悪ガキの目だ。
「ん?」
「僕、見つけたよ、『問い』の答え」
今日一番に嬉しい知らせだった。
その後、全身泥だらけで朝食に遅刻して戻った僕らを、拓海は最初に見つけてすっ飛んできて、洗い立ての白いシャツが汚れるのもいとわず抱き着いてきてわんわん泣いた。二度と戻ってこないのではと思い、今日の昼までに戻ってこなかったら探しに行かせてくれと彬さんに泣きついていたところだったらしい。
「なんだよ、そんなに心配なら、行く前にもうちょっと言うことあっただろ」
海斗は外では泣きじゃくっていた癖に、余裕こいて皮肉たっぷりだ。
「ばかばかばか!帰ってこれなくなったらどうするつもりだったんだよぉ…」
ぽかぽか殴ってくるのがちょっと日焼けした肌に痛いけど、拓海が本当に心配してくれていたことが分かって、胸が熱くなった。よかった、仲直りできそうだ。
「後で、見てきたこと、教えてあげるよ。データ共有じゃなくて、言葉で」
先輩達にも、「自由に行動することはいいと思って放任していたが、流石に危険な真似をしすぎだ」と散々怒られた。
その少し後、海斗はフレデリクのいた部署に異動した。それはつまり、僕らに課されたアイデンティティの『問い』をクリアしたことを意味する。僕は尋ねたりしなかったけど、彼はあの後何と回答したのだろう。三人で過ごした部屋を出ていく海斗の顔は、この上ないくらいの笑顔をしていて、それが僕もこの上なく嬉しかった。