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-8.b Identified Answer : null  作者: 実典
前編:Identified Answer
10/16

2:3:1

 その後は僕らはそれ以上何も言わずに土壁の迷路を進んだ。僕もフレデリクと海斗を夢中にさせた何かを一分でも早く見てみたくて仕方なくなっていた。四本の足が土を踏むリズムが速くなる。自分の四方八方を囲む土が、温かくなって、段々暑いくらいになってくる。


「見えた!!!」

 奥の方に上から光が注いでいる場所がある。僕らは思わず走ってその光に飛びこんた。迷路の天井が円筒形にくりぬかれたそこを見上げると、筒の側面にはコの字の金具が突き刺してあり、登れるようになっていた。出口は金属の柵で蓋をされているが、その向こうは青い。『青空』だ。

 切り取られた小さな丸が、初めて見る本物の空だった。


 鞄からいくつか持ってきた工具を確認しながら慌てて登る。地底育ちの僕らには目がくらむくらい強い日射しに晒される。柵は金槌で叩くと、簡単に外れた。

 海斗に続いて這い出した僕の目に飛び込んできたのは、草と少しの木だけがある大地が霞んで見えるくらい遠くまで続く世界だった。


 呆然として二人でしばらく立ち尽くす。振り返っても360°まるで同じ景色しかない。太陽が頭に、首に、痛いくらいにささる。これまで知識を持っていた、映像で見た、言葉で聞いた、人間が住んでいる場所のどことも違う。強いて言えば、授業の『人の手が触れていない自然』みたいな単元の映像で似たものを見たことがあるかもしれない。


「なんだよ…これ…」

 横で海斗がうなだれてしゃがみ込む。

「こんなの…勝手に逃げたフレデリクを誰も探さなかったのって、外に歩いていっても放っておけば死ぬからなのかな……」

 そういう声の端が震えている。


 僕はフレデリクの安否よりも風景の意味について思考を巡らせる。なぜ草に土と岩しかないような平原が広がっているのだろう。いくつか理由を検討してみる。


1.人間がこの辺りから引っ越した

→少し遠くに見えるホームの構造物と思しきブロック状の建物以外に人工物やその痕跡は見当たらない。たぶん違う。

2.僕らのホームは最初から人のいない場所に作られた

→あり得るけど、しょっちゅう外部からたくさんの人間が出入りしてるのに、その人達はどこから来るんだろう。

3.外の世界のどこに行っても人間はいない


 ……割と最悪な考えが浮かんでしまったと思ったが、十分にあり得るのではないか?何せ僕らは地球上の自然や人間社会について多くの知識を与えられてはいるが、実際に見たことはほとんどないのだから。


「あのさ……ほんとにこの外には人間が住んでるのかな?」

「へ?」

 しゃがみ込んで顔をうつむけていた海斗が顔に恐怖を浮かべながら見上げる。

「だってさ、僕ら『外部から来た人』がどこから来たのかなんて知らないじゃない。ほんとは地下の地続きの遠い所から来ただけかもしれないじゃん。ホームにCCBNデータに載ってない区画があることは今回実証済だし。まあ今回は泥山だったけど」


 思いついたことを述べたまでなのだが、海斗がみるみる泣きそうな顔になっていく。

「やめろよ!そんなの…フレデリクが実際は死んでるかもってのは覚悟してたけどそれは…流石に……むしろなんで浩海は平然とそんなこと言えるんだよ」

「ごめん…」

 海斗はもう精神的にいっぱいいっぱいに見えた。まずい、言いすぎた。今度は拝借してきた便利グッズの一つ、簡易の望遠鏡を目に当て、また周りを見渡す。


 何もない。

 延々と平原が広がっている。

「でもさ、人間が住んでないなら僕たち自由に好きなところ探検できるよね、クローンだから一般の人に見られたらダメ~とか気にしなくていいんじゃん」

 口にしておいて自分でも突飛なことを言ってるなという気がした。しかしそれは海斗をことのほか元気づけたようだ。

「うん、そうか…そうだな!これだけ広い土地があるんだ!いくらでも好きな建物を作れるんじゃん!それこそ一辺数百メートルの建築物だってたくさん好きなだけ作れる。

 僕さ、古代建築が好きなんだ、パルテノン神殿みたいな大きいやつをさ、いっぱい奇抜なデザインで作るのさ!

 ホームよりサグラダファミリアよりずっと時間をかけたっていいんだ!だって誰も邪魔しないんだから!」

 段々大声になって、見てろよ大地、とでも言いたげに言い放ったことで、海斗は何か吹っ切れたようにも見えた。


「いいね、応援してる。そしたらさ、その時は僕に偉い役職をよろしくね」

「よし、山澤浩海くんを副監督に任命。僕は監督ね。あれ、建設現場ってどの順に偉いんだっけ?」

「知らない」

「でもここには便利でお節介な」

「「ネットワークもない」」

 何だか無性におかしくなって、二人で笑い声を乾いた空気に響かせた。


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