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車の振動に揺られて目を閉じると、これまでの記憶が昨日のことのように鮮明に思い出される。
Q:あなたが与えられた個性、『自分と言えるもの』はどんなものですか?
長い間何度も思い返した問いを呟く。
僕らは、そんな哲学みたいな問いを投げかけられて育った。
「IBTP-8-B2号、当該の訓練生の一般訓練過程修了をここに認め証明する、以下同文」
僕は一礼して、手渡された証書を手に座席に戻った。並べられた椅子には、一見すると見分けがつかない同じ顔の少年27名が座っている。他のメンバーが呼ばれて証書を受け取っている間、自分の証書をまじまじと眺める。紙の書類なんて見るのはこれで数回目だ。この『儀式』は人間が受けている教育に則ったものらしい。
少しざわつく僕たちに、前に立つ教官がパンと手を叩いて注目を促す。
「さて、おめでとう!皆さんはこれでほぼ一人前です。成長が早いクローン人間が肉体年齢と同等の身体機能、頭脳を身に着けるための基礎訓練は終了し、今後は配属先で各自が業務を行いながらクローン兵として研鑽を積むことになります。G7号、各自が異なる業務に従事する意義は?」
指名された一人は起立して答える。
「はい。私達は、同じ一人の人間、オリジナル・ワンをベースとするクローンではありますが、集団として均一になりすぎないよう多少のチューニングが施されています。ただし、チューニングによる個々の特性は多様な社会経験によって増強され、当人が自覚して初めて意味があるからです」
モラトリアムなんて言葉が人間社会にもあるらしいが、皆同じ者である僕らには『自分探し』が半ば至上命題とされていた。何でもその答えが認められたら、本当に一人前扱いしてもらえるとか。
「その通り。配属はこの後、CCBNの接続許可処理が終了したら分かります。N14号、CCBNのことはよく分かっているね?」
「はい、CCBN、Cloud-Clone-Brain-Networkは、第4技術開発局地下総合研究所の同型クローンの僕たちが他の個体と情報を同期するためのシステムです。
一定の周波数の電波に乗った特定形式の情報を、訓練により目や耳で知覚するのを同じように認識可能にすることで実現されています。
頭蓋に搭載した発信装置との併用で、ほとんどの知識と記憶はクラウド共有ストレージに蓄えられ、僕たちクローンの活動に役立てます」
「教官!僕らそんなことも知らなかったら卒業できてません!」
R18号が茶化し、部屋が沸いた。
「はい、そうですねぇ。君達はこれまで訓練生専用のローカルネットワークに接続していましたが、これからは全体CCBNにアクセスできるようになります。
もちろん最初はアクセス権を持つ情報は極限られたものですが、機密事項を扱うことも出てくるでしょう。定期送信データにロックをかけるといった作業も日常になり…」
以前既に聞いた説明を聞き流していた僕の頭にピーと警告音が聞こえて、一瞬頭がぐらっとした。周りも同じように頭を押さえたり、首を振ったりしている。それが脳に直接繋がれたネットワーク回線の開通信号だった。
「ちょうど処理完了ですね、お話はここまで。それでは各自所属リストを確認し、配属部門に向かって下さい。」
同じ顔の僕らは、同じ時に生まれ、全員同じ教育を受けて、同じ場所で育って、でも今日からは同じ生活じゃない。