世界は変わる
夕日が落ちた部屋の中で、彼女はじっと考えていた。
明日のことを考えていた。
きっと明日も楽しいはずだって思うけれど。
暗さが増していく部屋にいて、なんだか心も沈んでいく気がしていた。
人の心は思い通りにならない。そして変わりやすい。
それは今までに何度も経験してきた。
分かっているよ、とひとり呟く。
何よりも虚しく思うのは、清くいようとすればこの世の人々とすれ違っていく。
自分がいつも正しいことを示したいわけではない。
何もしていなくても、おとなしくしていても、存在を疎まれることが辛かった。
だけれど、彼女は汚濁にまみれる強さも持たなかった。潔癖だったのだ。
他人を批判する烈しさは持たない彼女は、じっとこらえていた。
どんな時も、うまくいく方法を考えていた。そして実行に移していた。
人は変化を好まない。そして楽をしたがる存在だ。
彼女はよく疎まれた。きっと眩しくて、周りを刺激しすぎたのだ。目立たないようにしていても、なぜだか人目を引いた。目が離せなかった。
川辺に咲く名もない花のようで、キラキラとお日さまに照らされているような輝きがあった。
彼女は辛抱強かった。殻に閉じこもりながら、じっと耐え忍んでいた。
もう飛べなくなったと泣いた。無気力になる日もあった。周りの全てがまるで敵になったような。そういう日を超えて、ある日気づいた。
周りの意見は、儚い桜みたいに散りゆくもので、いつしか季節が移り変わっていくように。
もう新緑のさざなみが目の前に広がっている。全ては変わってしまった。
ああ幻想の中にいたのだと、彼女は理解した。
もうすっかり夜が来て、また明日のことを考えていた。
朝は来るから、世界は変わるから。
彼女はふさいだ心に手をあてて、新緑の鮮やかさとざあざあと揺れる音を思いだした。
怯えることはない。どんな命も、お日さまの光に包まれている。
大きな存在に愛されている。
明日は今日より優しくなれるような気がする、と彼女はつぶやき、かすかに微笑んでいた。
彼女の背中で、青白く美しい蝶がひらりと止まった。