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”超常世界の歩き方”というタイトルが大きく書かれた分厚い本は、部室の隅っこにある本棚にひっそりと仕舞われていた。
「・・・やっぱり開けるの止めない?」
「オカルト部規約に書いてあるでしょ、ジャンケンは絶対」
「・・・えー嫌だなー、なんで私が開けなきゃいけないのよー」
俺達が古本屋で見つけた本には、ありとあらゆる超常現象の解説や対処方法等が書かれていた。
超常現象に巻き込まれた時に超便利な本なのだが、欠点がある。
ーーー本を開くと必ず超常現象が起こるのだ。しかもランダムで。
前回の長岡屋事件で開いた時は、写真やテレビの画面から動物が飛び出してきた。そりゃもう、酷いものである。
今回は酷くないモノに当たればいいが・・・。
「・・・じゃあ開けるよ!! そりゃっ!!!」
静まり返った部室を見渡し、異変がないか確認する。・・・・何も変わったことはなさそうだ。
「・・・特に何も変わった感じはしないわね」
「でも、何か変化しているんでしょ? 気を付けないと・・・」
「そうだな。・・・でもまあ、とりあえず本の中身を読もう」
3人はキョロキョロと教室を見渡して、再度超常現象が無いことを確認し、ガイドブックを読み始めた。
「ふむふむ、目次っと・・・うーん、第3章”閉じ込め系”かなー」
章の初めに書いてあるフローチャートを辿り、細かい項目へと燃香の指が導かれる。
「電波は通じますか→NO、電気は通じますか?→NO、外の音は聞こえますか?→NO、外の景色は見えますか?→YES、外の景色は動いていますか?→NO・・・・etc」
「ーーーー”隔離時空間現象” これね。」
「ふむふむ、”この現象は外と完全に切り離させれてしまい、いわば空間が漂流している状態です”」
「”この現象は時間が異なるものを同一空間に置かれることで稀に発生します。即ち空間内の時計を全て元の空間の時刻に合わせれば元に戻ります”・・・だって。」
「なんだ、簡単じゃない。時計を合わせましょう。アタシの持ってる時計は腕時計と携帯電話だけだわ」
「私も時計と携帯だけかなー。ジョーは?」
「俺は時計、携帯、ゲーム機かな・・・・すまん」
「もしかして、ジョーが原因?」
「・・・ちょいちょいゲームの時刻設定を変えてたんだよ。変えないと手に入らないアイテムがあったからさー」
「じゃあ次回ガイドブックを開ける事になったらジョーが開けてね」
「お・・おう」
そして俺達は時刻設定を変えていった。合わせる時間は16時10分。
「よし。これで、10分以内に全て元に戻るぜ」
ジョーはほっと胸を撫で下ろす。
今発生しているであろう”本を開いたことで発生した超常現象”も、”本を開くことになった原因”が解決すれば元に戻る。
超面倒なガイドブックだが、やはり便利な本でもある。
「・・・あれ、元に戻らないぞ」
「えっと・・・あー、壁掛け時計があったわね」
完全に忘れていた・・黒板の上に掛かっている時計の時刻をまだ直していなかったのだ。
「じゃ、ちょいと直してくるわ」
ジョーは壁掛け時計を取りに歩いて行く。
「・・・・あれ、全然時計に近づいていないぞ」
何かがおかしい、振り返ってみると、巨大になっている彼女たちが見えた。
「ちょっと、ジョー・・・アンタ小さくなってるわよ」
「え?」
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・・・確かに、周りを見てみると物が大きく見える。
「おいおいおいおい、こりゃまずいぞ!!!」
どうやら壁掛け時計の方向に行けば行くほど、俺達は小さくなってしまうみたいだ。
この現象から脱出する方法は唯一つ、時計の時刻を直すしか無い。
しかし、どうやって時計の時刻を直す?? 時計に近づけば近づくほど、俺達の体は小さくなってしまうのに。
「どうしようー・・ねえ、半日待ってみる?時計の針が一周すれば、なんとかなるかもしれないし」
「・・・それは危険だわ。”隔離された時間に戻す”と書いてあるから、周回というものは無いと思うの」
「うーん、そうだな。とりあえず他の方法を探そう。半日待つのは、全ての方法を試してからにしようぜ」
俺達はこの超常現象を色々試し、分かった事が幾つかある。まず、時計が掛かっている壁からの距離で大きさが変わるのは俺達3人だけである。俺達に触れていないものは大きさが変化しない。
そして俺達の日常サイズでいられる場所は、本を開いた場所、つまり部室の真ん中である。
部室の大きさは横6m縦8mなので、壁掛け時計まで4mある。机を定規に見立てて測定したことろ、2m近づくと、俺達は1/2のサイズになる。
俺達は1/2になってしまったので、1mは体感的に2mになる。つまり中心から3mの位置では俺達は1/4になっているのだ。
「・・・・壁掛け時計に到達する頃にはアタシ達のサイズはどのくらいなのかしら」
「歩いて壁に到達できるってのも疑問だけどねー・・・」
現在時刻16:50分。まだ彼らは一歩も外に出られない。




