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第七話:本入道とうそつき

第七話

 粉末状の惚れ薬が失敗に終わり、今後どうするか考えていたら七色に呼ばれた。

「ねぇ、冬治君」

「ん?」

「西牟田紗生って子、知らない?」

 転校してきたばかりの(とはいっても既に二週間は経ったが)俺にこの学園の生徒の事を聞いたところで良くわかるわけもない。ようやくクラスメートの名前を覚えてきたばかりだ。

「知るわけがないだろう。この教室ぐらいしか名前まだ覚えてないよ」

「そっか、そうだよねぇ。冬治君はあんまり図書館にいかなさそうだしねぇ」

「それって何だか馬鹿にされた言い方みたいだ……事実だけどさ」

 うーんと唸った後に七色は携帯電話を取り出して俺へと向けた。

「この子なんだけど」

「……」

 見覚えが、あった。

 図書館で俺が間違えて惚れ薬をぶつけた相手だった。

「そ、そうか、西牟田……紗生って言うのか」

「知ってるんだね?」

「名前は知らなかった。嘘じゃないぞ」

「うん、いいけどさ……あの、ちょっと会ってくれないかな?」

 懇願といった調子である。七色には良く宿題を見せてもらっているので無碍にできないものの、惚れ薬の影響に在るかもしれない相手に会おうとはしたくなかった。

「えーとさ、もしかしてその子って……俺の事が好きなのか?」

「しね、自意識過剰男っ」

「転校生だからって甘んじてんじゃねぇぞクズっ」

 クラス中の男子生徒が聞き耳を立てていたみたいで罵詈雑言が飛んできた。何という連中だろうか、俺は真面目な話をしているのに。

「当たらずも遠からずだね」

「マジか」

「あんなクズみたいな奴を好きになるとか……この学園なんて消えちまえ」

「いやまてみんな、これで奴は南山さんルートを蹴ったということではないか?」

「ライバルの自動消滅か……そう考えるといいな」

 わいわいと言い始めた男子どもを無視して首をかしげる。

「どういうこったい」

「だから、会ってほしいんだ」

 結局、惚れ薬の影響があるんじゃないかと気になって俺は放課後、西牟田紗生とやらに会う事になったのだった。

 放課後が近づくにつれて、胃が痛くなってきた。

「四ヵ所君、大丈夫?」

「あ、あはは……南山さんに心配されるなんて嬉しいけど、大丈夫だ」

 きりりといたむ胃を引っ提げて、俺は教室を後にする。

「じゃ、いこっか」

「おうよ」

 廊下で七色と落ち合い、学園近くのファミレスへと入る。

「連れがいるので」

 そういってそのまま入口を素通りし、本を読んでいる根暗と思われる少女の前に二人して座った。

「お待たせ、紗生ちゃん」

「あ、七色先輩と……」

 俺を見て表情し難い顔をする。

「本人を連れてきたけど、どうかな」

「は、はい、えっと、鏡を……お願いします」

「鏡、ね」

 そこで何となくピンときた。

 鏡に映った俺を見るや、恋する乙女の表情へと変わったのだ。

 恐ろしいのは惚れ薬、鏡の中の俺にこの女の子は恋したらしいのだ。

「あ、あのぅ、変な事を聞くようなんですけど……この前の粉は惚れ薬だったんですか?」

 顔を真っ赤に染めて、鏡を見ながらそう尋ねてきた。

 どう答えるべきかと悩み、口を閉ざしてしまうと肯定したととられてしまった。

「やっぱり、そうですか」

「あー……何というかだな」

 七色がいるから変な事は言えない。まさか、惚れ薬みたいな怪しい薬を南山に使おうとして失敗し、無関係の女子生徒にぶっかけたなんてばれたらあの学園に居る事は不可能になるだろう。

 噂はネジ曲げられ、こうなるはずだ。


『四ヵ所冬治は図書館で少女にぶっかけた』


「一発退場だな」

「ん?」

「いや、こっちの話だ」

 ごまかすにしても急いだ方がいい。

「でも冬治君が紗生ちゃんの事を好きだなんて意外だったよ」

「うん?」

 首をかしげる。頭の中にあったごまかしプランがあっという間に隅っこへおいやられた。

「やっぱり、一目ぼれ?」

 とりあえず惚れ薬の事は不問に成りそうだったのでその場のノリと勢いで頷いておいた。

「あ、ああ。そうなんだよ。だから、絶対に聞かないだろうなぁって惚れ薬を使ってまで振り返らせようと思ったんだよ。いやぁ、俺も駄目だね、眉唾ものの薬に頼ろうとするなんてさ」

 みやっちに心の中で謝って南山さんにも土下座して、七色を拝んでいる状態である。そして、一番の被害者である西牟田紗生ちゃんをまともに見る事も出来ない。

「そ、そうだったんですか……な、何だか照れます」

「あ……」

 今更気付いたけど、そっち方面で押したら当然紗生ちゃんとやらが困る状況を作り出すんだよな。

 こうなったら俺の評価をちょっと落としても構わないから何事もないようにしないといけないはずだ。

「っとに酷い人間だよな、俺ってさ。名前も知らない女の子を好きになった挙句、努力もしないで惚れ薬をさっそく使っちまうなんてさ……」

「冬治君……そこまで一途なんだね」

「だけどよ、俺が女だったらこんな男、正直引くわ。だから俺は……」

「あの、四ヵ所先輩……いや、冬治先輩。わたしにもう一度惚れ薬を使ってください」

 続きを言おうとしたところで紗生ちゃんに邪魔される。

「はい?」

「ですから、もう惚れ薬は無いんですか?」

 あるにはあるけど、同じ人に続けて使っていいのか疑問が浮かぶ。

「業者に今度連絡してみる。惚れ薬をどうにかするのも聞いてみるよ」

「お願いします」

 はてさて、これからどうなるか……この子の事を放っておいて、俺が惚れ薬を使用すれば本当に学園に通う事は出来なくなるんだろうな。


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