第四十二話:うそつきこっちん
第四十二話
佳苗と一緒に行きたかった場所、それは惚れ薬の効果と俺の記憶を消し去った公園だった。
「またここ?」
「うん、ここ」
「あまりいい思い出ないよ」
「俺もだよ」
あの日は月が異様に大きく見えた。
「俺がそっち側で、あの日は佳苗がこっち側だったな」
「どうだったかな」
佳苗はそのまま近くにあるブランコへと歩き出す。
「座らない?」
誘われて俺も隣に腰をかけた。
「三、二、一……零」
「何そのカウントダウン」
俺の隣でブランコをこいでいる佳苗は首をかしげているだけだった。
「あれから一カ月経ったんだよ」
「諦めたんだね」
「努力はしたさ。でも、約束は守れなかったなぁ」
あの日みたいな喪失感はなかった。
その代わり、ああ、これで終わりなんだなとやけに納得している自分と悔し涙を流しまくっている自分がいた。
「ねぇ、冬治君」
「……何だよ」
隣でブランコをこいでいた佳苗はそろそろ一周しそうな勢いだった。
「あたしに赦してもらいたいかな」
「そりゃあ……出来れば」
「記憶はどうも戻りそうにないね。残念だよ」
「……そうか。なぁ、そろそろ教えてくれないか」
「何を?」
「一カ月で記憶を戻す約束を破ったんだ。その時の佳苗の対応だよ」
俺の気持ちは決まっていた。どんな無茶難題でもこなしてやろう……酷い事をしてきただ。そして、最後には約束まで破ってしまった。
「そうだねぇ……とうっ」
おそらくブランコで引き出せるトップスピードのまま佳苗は飛び降りた。ブランコ前に在る作を超えて一回転し、そのまま着地した。
「これを冬治君にやってもらいますっ!」
「マジかよっ」
何でもやるよと言わなくてよかった。
「勿論冗談だよ」
「目が真剣だった」
「無理かなと考え改めました」
そこまで言われたら男としてやらないわけにはいかない。
「見せてやるよ。パラレルワールドがあったら退魔士になっていた俺の実力をっ」
一気に加速し、そのまま飛び降りる。
「とうっ」
「おおっ」
空中一回転を成功させ、俺はそのまま十点の着地へ……。
こき~ん
「おぼっでだぁあっ!!」
悲しいかな、どうやら飛距離が足りなかったようで俺が着地した場所はブランコ前に設置されている柵の上だった。足で綺麗に着地で来たのならよかったけども、文字通りの着地……柵が俺の股間を完全に捕らえていた。
その痛み、さながらプロレスラーに握りしめられたようなものだった。
「と、冬治君っ」
「ぐぬぬ……」
痛みにもだえる事、数十分。身体中に砂をくっつけながらその場で我慢を続ける。
「ごめんね、ついてないから痛みをわかってあげられないよ。撫でてあげようか」
「……し、下ネタを口にするな。お、俺は大丈夫だ」
痛みを制して何とか笑って見せる。
全く、話を脱線させると碌な事がないな。
「さ、約束を破ったんだ。俺はどうなるんだ」
「うーん、さっきのあれを見せてもなお罰を求めるなんて意外とマゾなんだね」
「んなわけあるか」
「じゃあさ、今日いろんな場所行ったでしょ? これからの休日に連れて行ってね」
「え?」
「約束だよ?」
そんな事で赦してくれるのか? そう言おうとして口を閉じる。
「ああ、任せてくれ」
「さ、家に帰ろうよ」
「おう」
佳苗はあっという間に俺の隣について腕を抱きしめる。
「さっきのムービーで撮っておけばよかったよ」
「……勘弁してくれ」
「じゃあさ、痛いの痛いのとんでけーしてあげようか?」
「効くのか?」
「ばっちり」
それならお願いしてみよう。人差し指でちちんぷいぷいをした後、佳苗はウィンクしてきた。
「とんでけ~」
「んっ……」
そのまま口づけをされる。おそらく、最長の記録を誇るキスだった。
「ぷはっ……どうだった?」
「……飛んでったよ」
「そっか、よかった」
俺たち二人の家についてため息をつく。
「おかえり、冬治君」
「ただいま」
「あのさ、怒らないで聞いてほしいんだけど……」
「ん?」
にこっと佳苗は俺にほほ笑んだ。
「惚れ薬の効果は消えてたんだけどね、記憶は深弥美ちゃんがすぐに戻してくれたんだよ」
「なっ……」
この時の俺の表情はいまだに佳苗のケータイの待ち受け画面である。何度も試しているのに変える事は出来ない惚れ薬が生んだ負の遺産だ。




