第四十話:孝乃先輩と覚醒冬治
第四十話
何とか起こしてもらってそのままお昼からの授業を受ける。きりりとした表情だったからか良く当てられたりもしたけど絶好調の俺はどの解答もすらすらと出てきたのだった。
「どったの、冬治。今日は寝てないじゃん」
「いや、普段から寝てないから」
「覚醒冬治君かぁ」
「何だかイタいからやめてその呼び方」
友人と七色と一緒にくだらない話をしてから下駄箱で別れる。
「ん?」
既に二人は部活に行ってしまったようで覗かれる事もなかった。下駄箱の中には手紙が入っている。
夢と同じだ、そう思った。
「宛先人は……無しか」
夢の事があったので何となく想像がついていた俺はその手紙をもってそのまま校舎裏へと向かっていた。
「来てくれたのね」
夢の中と同じ言葉が投げられた。
「やっぱり」
「やっぱり?」
「何となく、孝乃先輩だと思いました。というより、字をよく見れば孝乃先輩だって気付けたんですけどね」
もしも夢と違うやり取りをしたら違う結果になるのだろうか。でも、俺の場合は結果を知る前に起きてしまったから結果が変わってもわからない。
「今日は冬治に謝ろうとして呼び出したのよ」
「……キスのことですか」
これ以外は思いつかなかったので尋ねてみた。
「ううん、違うわ。今日の昼休みのことよ」
「昼休み?」
思い出されるのは孝乃先輩とのお昼御飯だ。
「味付けで失敗していたと? たこさんなのに足が八本なかったとか?」
俺のボケを孝乃先輩は一切きいちゃいなかった。
「あのお弁当の中には惚れ薬が入っていたのよ」
「え……」
そういえば、孝乃先輩は俺のことをじっと見ていた気がする。
「っで、でもっ、俺はなんともありませんよっ。もしかして時雨先輩に使おうとした分がまだ残っていたから使ったとか? だ、だったらもう薬の効果自体が無くなっていたんじゃないんですかね」
風化してしまったのではないか。何故だかそうであってほしかった。
「そんなことあるわけないわ。黒葛原深弥美に新しくもらったものの半分だもの。特別製をね」
「なんで……薬なんか使って俺のことを好きにして……空しくないんですか。薬のせいでおかしくなった相手に好かれても、嬉しくなんてないでしょう?」
「ううん、確かめたかったのよ」
「確かめたかった?」
「そうよ」
言っている意味がわからない。
俺の心を読んだのかかすかに笑いながら孝乃先輩は口を開いた。
「冬治に使った惚れ薬は相手の事が好きだったのなら……全く効果が出ない薬よ。もし、嫌いだったらその場で押し倒すほど過剰な反応を見せる劇薬と言ったところかしらね」
ああ、だから広いレジャーシートだったのか。
「そ、そんな……これじゃ、俺……」
「キスをした後から好きになったみたいで嫌だ?」
「そう、ですけど……」
あれから孝乃先輩とのキスを忘れる事なんて殆どなかった。会う度、目が覚める毎にキスを思い出すのだ。
身体が目的で好きになった、と思われるのは嫌だった。
「正直言うとね、動物園で一緒に食べた時にもあの薬、入っていたのよ」
「え」
「だから、あんたは別にキスをされたからあたしを好きになったんじゃなくて……あの頃から好きだった事になるの」
「……」
思考が完全に停止してしまった。
「話は、それだけ……あたし、もう勇気を出して告白する気もないから冬治が今度はあたしのことを呼び出して。良くても悪くてもそれだけは絶対にやってね」
「……わかり、ました」
「じゃあね」
俺は南山さんの事が好きではなかったのだろうか。
でも、みやっちゃんの薬という事は……確かにそうなのだろう。効果は疑いようがなかった。
少々混乱している頭では二人のことを好きだと言う事を楽観視することは出来ず、覚醒冬治と呼ばれていた俺はどうやって家に帰ったかさえもわからない程だった。




