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第三十九話:本入道と脅しのハサミ

第三十九話

 男は家を出たら七人か八人ぐらい敵がいるらしい。

 俺の場合はその中に紗生が入っていると思われる。

「あー、緊張する」

 可愛い女子の後輩に会うだけで緊張するなんて俺は恋したばかりの小学生かっ……そんな突っ込みを心の中で入れられるのだからまだ余裕があると思われる。

 そんな薄っぺらい余裕は佳苗がよくきれそうなハサミをもって待ち合わせ場所のファミレスに現れた時点で完膚なきまでに飛んでった。

「ひゃっ」

 情けない声をあげた俺に佳苗はどうやら気がついたようだ。そしてウェイトレスが出てくる前に笑みを浮かべて俺の前に座る。

 その笑顔が暗い感じなのは俺の先入観からだ。

 おちつけ、冬治……お前は女の子に刺されて病院送りになるほどへまをふんじゃいないはずだ。

「待たせましたか」

「今来たとこ」

「それならハンバーグ定食食べ終わってないでしょう」

「お約束だから」

 お約束は言えても下手な事は言えない。ウェイトレスもあまりかかわりたくないのか出てこなかったしなぁ……。

「用件は何ですか」

「用事がないのに呼び出しちゃ駄目か……そんな余裕はこれからなさそうだから言っとくぜ」

「わかりました。ではこれから真面目な話に移りましょうか。聞きたい事はなんですか」

 じゃあ、まずはそのよくきれそうなハサミは何かな?

 違うな、これは罠だ。

 ここでこの選択肢を選ぶとヤンデレた紗生たんに『実際に切れ味体験してみますか? 空色ゲージですよ』と頸動脈に突き刺されてデッドエンドだ。

「もうやめてくれ」

「何をですか」

「色々と。わかってるんだろ?」

「惚れ薬をかけたのは冬治先輩ですよ。もう根をあげるんですか」

「そう言うと思ってほら、惚れ薬だ」

 こうなったら元凶の惚れ薬を渡してしまおう。これは七色からの提案でもあった。

「まだ持っていたんですね」

「ああ、これを紗生にやるよ。好きにすればいい」

 原因を渡してしまえばチャラになるはずだ。勿論、代償も大きい。

 当然、俺に使われる可能性もあるし、使ってしまえば誰かが紗生のことを好きになったりする。もしかしたら俺と紗生みたいに加害者と被害者になるのかもしれない。

「本当にこれ惚れ薬なんですか」

「ああ」

「じゃあ、もらいますね」

 そのままポケットに直すのかと思えば、そうじゃあなかった。紗生は一気にそれを飲んだのだ。

 お冷で薬を飲みほして、彼女は俺を見据えていた。

 きらりと光るハサミが俺の血を欲しているようにも見えた。


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