第三十六話:孝乃先輩と秋の空
第三十六話
自分が夢の中に居る曖昧な感覚を自覚しつつ、下駄箱を開ける。そこにはラブレターが入っていた。
『放課後、校舎裏で待っています』
普通だったら、ねぇよ、絶対あり得ねぇよと鼻で笑っていたであろう俺は夢の中だからかそのまま大人しく向かっていた。
「来てくれたのね」
「孝乃先輩……」
何となく、いるのは孝乃先輩だろうと思っていたからか驚きはなかった。
「意外だった?」
「いえ、全然。それで、何か用ですか」
「校舎裏で呼び出しなんて一つしかないでしょ」
「……かつあげ?」
かつあげの漢字はどうだったかなぁ……くだらない事を考えながら孝乃先輩を見ると笑っていた。
「馬鹿ねぇ、それなら直接物を見せて買わせてるわよ」
「あ、そうですね」
「納得しないで……今日はちょっと、謝りに来たの」
これから告白シーンだと信じていた俺は肩すかしをくらう。
「謝りに? 雨でも降らなければいいですね」
「この前のことでね」
「この前? ああ、根性無しと言った事ですか。気にしてませんよ」
「そうじゃなくて……」
そこで目が覚めた。
「……キスした事を謝りに来たのか?」
おめめぱっちり、また寝ようとしても眠れなかった。目覚まし時計がなる五分前だったので大人しく起きることにした。
衣替えも既に終わって居てたまに暑い日がくるものの寒くなってきている。通学中でも参考書などを開いて勉強している人が受験する三年生で、諦めたかのような空元気が哀愁漂う三年生だ。
そんな中、どちらにも属さない三年生が校門で誰かを待っているようだった。
「あ、孝乃先輩……おはようございます」
あれから一週間、たまに会う事はあっても挨拶程度だった。話さなかったわけではなく、会うたびにお互い用事があって話せなかったのだ。
「おはよ、冬治」
「誰か待ってるんですか」
「ええ、好きな人をね。ほら、行くわよ」
「あ、はい」
どういう事だろうか。キスまでされたのだ、彼女が好きな人は俺だと言う事は既に分かっている。
「今日のお昼休み、屋上に来なさい」
「あ、はい」
お誘いの言葉を聞いて思い出すのは当然今日の夢のことだ。あれは予知夢の類だったのか。
「何が何でも、来るようにしなさいよ」
「何となく想像付きますけどね」
「そう、だったらなおさらね」
「はい」
今日は学食の予定だったからそっちはキャンセルだな。
そして念願の昼休み。もしかしたら屋上でひと波乱起きるかもしれないと俺は席を立つ。
「あ、四ヵ所君」
「何、南山さん?」
「これから学食行くんだけど一緒に行かない?」
「ぐあ……ごめん、ちょっと先約があって」
「もしかして……北村先輩?」
「ああ」
「そっか、うん、そうなんだね」
なにがそうなのだろうか。
「あ、そういえば私風紀委員会があるんだった。ごめん、どのみち学食にいけないんだ」
「そうか、んじゃ、俺は行くよ」
「じゃあね」
別れて俺は廊下を走らずそのまま屋上へと向かう。
「遅かったわね」
「そう言うわけでもないですよ」
そこにはいつぞやの少し大きめのレジャーシートが広がっていた。お弁当箱が二つ、用意されている。
「そんなところに突っ立ってないで食べなさいよ」
「はい、頂きます」
腰かけて大人しくお弁当箱を開ける。サンドイッチに手作りっぽいおかずたちが俺をお出迎えしてくれていた。
「ミニハンバーグにえびフライ、たこさんウィンナー……子供の頃の遠足を思い出すなぁ。まぁ、大体冷凍食品でしたけどね」
「全部ちゃんと作ってきたわよ」
「すごいっす」
頂きますをちゃんとしてから早速がっつかせてもらう事にした。どれもこれも美味しくて、味の感想としておかしい言葉ながら楽しかった。
「ふぅ、御馳走様でした……じーっとこっちを見てそんなに不安でした?」
「ううん、何とも無いのね?」
「怖い事を言わないで下さいよ」
「そう、それならいいの」
何かあったのだろうか。不安になってきたところで先輩は微笑んでいた。
「膝枕、どう? 不安にしちゃったお詫びよ」
軽く自分の膝を叩く孝乃先輩に俺は首を振ろうとして、出来なかった。
「お、お邪魔します」
「好きなだけ使いなさいよ」
俺の視界の中に秋の空と孝乃先輩が入っている。今見られたら恥ずかしくて目をつぶってしまうんだろう。しかし、彼女が俺のことを見ることはなかった。同じように秋の空を眺めている。
「……冬治、あれから南山さんには告白したかしら」
「いや、全然です」
「何でしなかったの。あれだけ炊きつければしたはずだったのに」
「……まぁ、何というか。根性無しですから」
そういうと孝乃先輩は困ったように笑っていた。ぼーっとしていたからか、それとも孝乃先輩のいい匂いを嗅いでいたからか知らないけども眠くなってきた。
「ちょっとだけ、眠るといいわ」
「はい」
そのまま俺は目を閉じる。
「……大変な事になるからね、つかれないように寝ておいた方がいいわ」
変な事を言うもんだなと思ったものの、眠気には勝てなかった。




