第三十四話:こっちんと記憶を捜して
第三十四話
惚れ薬の効果が切れて尚、俺のことを好きでいてくれる俺の元彼女東風平佳苗。佳苗が求めているのは俺との……いちゃいちゃした記憶らしい。
「同棲してるぐらいなんだから人様には言えない事があったよね」
「疑問じゃなくて確信かよ」
「そりゃあそうだよ」
二学期が始まって数日が経って俺たちはいろんなところに行った。最初に断っておくけれども、すけべなことは殆どしてないからな。
何となく思い出しそう。
あ、この光景どこかで見た。
何だかこの商店街歩くの恥ずかしいな……。
こんな感じで佳苗はあと一歩というところで記憶を思い出すには至っていない。
「家ではどんな事があったの?」
「そうだなぁ……風呂上がりの姿にどきどきしてたらからかわれたり、ふとした時に無防備な状態でテレビ見てるからいい尻だなーと……いや、忘れてくれ」
「よし、実際にやってみようっ」
そういってお風呂にそのまま直行していった佳苗を見て俺は思う。
「……今も変わらないんだがな」
記憶を失ったと言ってもあくまで俺についての記憶だけだ。元の人間性がかわるわけではないので、タオル一枚の状態でちら見せなんて余裕である。
それから四十分後、夕食を作っていた俺の後ろから忍び寄る足音が聞こえてきた。
「ぬきあしさしあし……」
「……口に出しちゃ駄目だろ」
「あれ? わかっちゃったんだ」
「とかいいつつくっついてくるなよ。俺が濡れるだろ」
後ろから抱きしめられるような形になって自分の身体が硬直していくのがわかる。
「ひ、貧相な胸があたってるぞ」
「へへーん、冬治君が『最近は貧乳もいいな』って友達に話してるの聞いちゃったもんね」
「ぐあ……」
「ほれほれ~」
結局、俺が負けを認めることとなり(何の勝ち負けかは不明)、夕食の時間になった。
「冬治君のご飯食べるの久しぶりな気がするよ」
「そりゃあ、佳苗が俺の家に来てからちょっとしたら佳苗が作り始めたからな。最初の頃は料理できなくて消し炭食ってたぜ……っと、お前は覚えてないんだよな」
罪悪感を覚えて愛想笑いを浮かべてしまう。
「うん、覚えてないけど実際にあたしがやった事なんだよね。だったら聞いておきたいな」
記憶がないけどやっただなんて別人のことなんじゃないか。
「全く、俺のせいで佳苗は本当に面倒な事に巻き込まれちまったんだよな。惚れ薬を間違えて飲んじまって、俺の事が好きになって……キスされて、気付けば同居してて……惚れ薬の効果消された上に記憶まで消されているんだからさ」
「本当、全部冬治君のわがままに付き合わされてるんだよね」
困ったもんだよとお茶を飲んでいる。俺も習ってお茶を飲む。
「でもま、おかげで好きな時にキスできるようになったからラッキーかな」
「ぶっ!!」
お茶をはいてしまった。
「あたしとしてはもうちょーっとだけ積極的にキスする回数増やしてくれればいいんだけどなぁ」
「け、結構してるだろ。朝起きた時だろ? 行ってきますのキスに、御帰りのキス、ふろあがりだって……」
「冬治君からだよ」
真面目な表情で言われて視線をそらしにくくなった。
「いや、しかしな。今の佳苗は……ほら、俺の彼女じゃないだろ?」
言ってしまったと思うけど、もう遅い。
「へぇ、冬治君は彼女でも何でもない女の子にキスするんだ」
「……か、彼女だな。うん、自他共に認める彼女の女の子だ。俺はだな、ただ単にそういう事はもうちょっと大切にしたいだけなんだよ」
「なるほど。罪悪感とかは?」
「……今はないな。佳苗が俺との記憶を思い出したいって言ってくれたから」
「うん、それでいいんだよ。さ、食器洗うから片付けて」
「ああ」
エプロン姿の佳苗を見て居たら何となく抱きしめたくなった。
気付けば抱きしめている状態だ。
「……」
「俺、お前の記憶絶対思い出させてみせるよ」
「……思い出させないと許さないからね」
「……わかってる」
もしも、間に合わなかったらどうなるんだろう。今のこの状態はなくなって、この家から佳苗は居なくなってしまうのだろうか。
いや、マイナス方向に考えるのはやめよう。俺がやるべきことは佳苗の記憶を思い出させる事だけなのだ。




