第三十三話:アオインと友達二人
第三十三話
転校が決まろうとしていた時、俺の親は『お前が望めば学園に乗り込んでやるぞ』と言ってきてくれた。ま、面倒はかけたくなかったのでやめてくれと言っておいた。普段は俺のことほっぽり出している癖にこういうときだけ親してくれるんだから……まぁ、感謝してるけどさ。
友達にも……とはいっても、友人と七色にだけ転校の話をしている。元から少ないから悲しいぜ。
「え? 嘘だろ?」
「いや、マジで」
「……本当に転校しちゃうの?」
ファミレスに二人を呼んで話をしたのだ。二人とも驚いていて友人は特にショックを受けているようだった。
正直、女子からいかないでって言われたいな。
「ほ、本当に悪い。おれの責任だ。一発殴ってくれてもいい」
「そうか。じゃあちょっとこっち来てくれ」
「と、冬治君? 友人君も……」
七色が止めようとして居たら頼んでいたメニューが運ばれてくる。その間に男子トイレに連れ込んで目をつぶってもらった。
「歯ぁくいしばれっ」
「っつ!」
お約束のセリフとともに俺の一撃はトイレの壁を思いっきり殴っていた。
「俺は別にお前のことを責めちゃいない。お前のことを友達だと思っていなかったら俺はここに呼んじゃいない」
「冬治……」
「だから、親友だと思っているお前ら二人に俺からの最期のお願いを聞いてほしい」
格好をつけて俺は心の中で泣いていた。思いっきり壁を殴るんじゃあなかった。
かなりいたむ右手を摩りながら二人で席へと戻る。
「と、冬治君? 殴ったりしてないよね」
俺は七色の言葉を無視して話を始める。
「七色にもお願いがある。ヒステリックで有名な女性教師がいるだろ?」
「う、うん」
「俺に対しての噂を流しているのはこいつに違いない」
「どうして?」
「これが下駄箱の中に入ってた」
二人に二つ折りの紙を見せる。それには『転校御苦労さま』という言葉が書かれていた。
「転校するんだろ?」
「そうだ」
「じゃあ、おかしくはないんじゃないの?」
七色の言葉に俺は首を振る。
「まだ夏休みだろ? それに、この事を知っているのは教師だけだ……相手が調子こいているのは間違いない。多分、そのヒステリック女教師がそれなりのミスを消すために生徒を一人転校させようとしているのさ」
俺の言葉に友人が手を叩く。
「あ、なるほど、解答か」
「そうだ。だから、友人にはその女教師からそれを聞きだしてほしい」
「でも無理じゃないの? 証拠もないんでしょ?」
七色の言葉に俺は頷く。
「ああ、ないな。だから本人に自白してもらう」
「自白って……無理だろ。自白剤とかでもないと」
「自白剤は無いけどな、似たようなものは持ってる」
そういって俺は惚れ薬を取り出した。
「何これ」
「惚れ薬」
「え?」
「友人がこれをヒステリック女教師に飲ませてお前の恋人になって情報を聞きだしてもらう……だから、この仕事をやってくれたらお前も責任を感じなくなるだろうしな」
「……やらせてもらう」
そういってその薬を握りしめた。
「それで、こっちが解毒薬だな。話だけ聞いたらこれを飲ませれば解毒できる」
みやっちゃんから今回の為に手に入れた代物だ。惚れ薬をまさか自分の身を守るために使うとは思いもよらなかったな。
二人に計画を話して俺はその日別れたのだった。
あんな手紙を俺の下駄箱によこしたのだ、俺が姿を見せたら少しぐらいは警戒するだろうな……まさか惚れ薬を飲まされるとは思わないだろうが。
「冬治君」
「ん、葵か」
家の前に私服姿の葵が立っていた。
「私服姿も可愛いなぁ」
「なっ……と、冬治君自分が今どんな状況かわかってるの?」
「ああ、わかってるよ」
最初は目の前の少女に告白すらできない人間だったのだ。今ではそれよりも面倒な事になっているから心に変な余裕が出来ている。
「本当かなぁ」
「信頼ないなぁ。なんなら二人でまた二人三脚してみるか」
「うん、来年の体育祭はまたお願いするね」
その言葉に俺は苦笑するしかない。
「それで、俺の家まで来てどうしたんだ。部屋に在る噂の蔵書を確かめに?」
「そんなわけないよっ。ないんでしょ?」
「まぁな」
将来宝くじが当たったら全部エロ本につぎ込んでみるか。
「あのね、冬治君……ちょっと怒りっぽい女性教師がいるでしょう?」
「そいつがどうかしたのかい」
「うん、多分あの人が……噂を流した本人だよ。噂を追いかけて行ったら女子バスケ部の子に行きついてね、顧問の先生が話していたから……って言ってたんだよ。だから、変な噂は流さないで下さいと注意したんだけど」
あまりいい表情はしていなかった。
「今一つの効果だったか」
「う、うん。あとね、変な事を言ってたの」
「変な事?」
「冬治君が……転校するとかなんとか。嘘だよね」
葵に言うつもりはなかったので嘘をつくことにした。
「そうやって噂は広がっていくんだよ」
「え?」
「女子バスケの子が顧問の先生が話していたからと言ってたんだろ? 教えられたんじゃなくて、逆にふと耳にした話のほうが広がるもんだぜ」
「そんな……でも、実際そうだったんだから仕方がないのか」
勝手に納得してくれたようで葵は何度か頷いて笑ってくれた。
「あのさ、冬治君の部屋に入っていいかな」
「……悪い。今日一生懸命掃除してたらすげぇ汚くなって文字通り足の踏み場もない状態なんだ。いつか案内するよ」
「え、もしかしてエロ本が?」
「んなわけねぇだろっ」
ため息をついてお互いに笑う。
「じゃ、私頑張るから」
「おう、俺の名誉のためにせいぜいがんばってくれ」
「うんっ」
走り去っていく葵を見送ってため息をつく。
「足の踏み場がありすぎるって言うのも問題だろうな」
すでに引っ越しの荷造りは完了している。そんな部屋を見せるわけにはいかない。




