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第二十八話:孝乃先輩とおデート

第二十八話

 二学期最初の日曜日、天候は曇り、暑さも成りを控えてくれているからこれはこれで嬉しい。

 本日北村先輩とのデートなり……難癖付けられたら面倒なので約束の時間三十分前には到着していた。大きめのバックをもって、俺の事を睨んでいる。

「……」

「遅かったわね」

「いったいいつから居たんですか」

「今来たところ。ほら、あんたもお約束をやりなさいよ」

 ニヤニヤした北村先輩に俺はお約束ってなんだっけと考えながら喉を調える。

「あー、あ~、こほん。ごっめーん、遅れちゃった。どれを着て行こうか迷っちゃって」

「馬鹿やってないで行くわよ」

 すっと近づいてきて自然な動作で腕を絡ませてくる。二の腕辺りに当たる人のぬくもりと慎ましやかな柔らかさにびっくりして声が裏返ってしまう。

「き、北村先輩っ」

「あのね、デートの時ぐらいは下の名前で呼びなさい」

「あ、すんません。え、えーと、孝乃先輩」

「そうそう。人によってはなれなれしいと言うから気をつけておきなさい」

 ケースバイケースか……名字で呼んだら怒られて、名前で読んだら怒られるって一か八かよ。

「それで、デートの計画とかは練ってきたの?」

「いえ、きた……孝乃先輩に完全に頼りっぱなしだったりします」

「馬鹿ね、あんた一応男の子なんだからちゃんと考えておかないとダメよ」

「目的もなくぶらぶらしたいんです」

「いいわけしない。それじゃあ仕方がないわね……動物園にでも行くわよ。相手の趣味に合わせたところに行くといいわ」

 腕を引かれてそのまま駅まで引っ張られるのであった。

 夏は終わったと思ったのにまだまだ電車には人がいっぱいのっていた。

「せ、せめぇ」

「わたしはそうでもないわ」

 それは俺が頑張っているからです。窓際に孝乃先輩を配置し、俺が両手で一人分のゆったりスペースを確保しているのだ。

 地獄のような(きっと死んだらすし詰め状態の電車で地獄に行くんだろうな……)時間を終えて動物園へとたどり着く。

「意外と人がいるんですね」

「日曜だから決まってるでしょ」

 暑さで動物がへばっている様子も見られない。あれは本当、見るとがっかりだからな。かといって、動き回っているわけでもないけどさ。

「冬治、見て、猿がいるわ」

「本当ですね」

「あ、あっちにはカバがっ」

「大きな口開けてますねー」

「みて、ゾウよっ。あれを見るためだけに動物園に来ているものよねっ」

 まるで小さい子のように俺の手をとって北村先輩は突き進み始める。あっちこっちではしゃいで気付けばお昼になっていた。

「ちょ、ちょっと休憩しましょう。あそこに売店があります」

「あっちの日陰に行くわよ」

 最早抗う気力がない……元から抗えないというのは無しだ……のでそのまま大人しく引きずられて行く。途中、子供が俺達を見て『尻に敷かれてるっ』って喜んでいた。

 二人にしては大きいようなレジャーシートに腰掛けて孝乃先輩が大きなバックを軽くたたく。

「お弁当を作ってきたわ」

「孝乃先輩、料理で来たんですね」

「人として当然よ」

 見た目が適当で味も悪いのなら仕方がない……しかし、見た目が綺麗で味がまずというのが一番嫌だ。

「見た目、超綺麗っすね」

「あ、当り前よ。本気出したんだから」

「そうですか、じゃあいただきます」

 酢豚を突く。うん、何のひねりもなくうまいと言う言葉しか出てこない。

「ど、どう?」

「うまいっす」

「御世辞だったら許さないわよ」

「俺が孝乃先輩に御世辞を使う理由なんてないでしょ」

 そんなやり取りをしていたらあっという間に無くなってしまった。

「ふぅ、御馳走様でした」

「寝たら? 少し経ったら起こしてあげるわ」

 ああ、これを見越して先輩は少し大きめのシートをもってきたのか。

 意外と気使い出来る人なんだなぁと思ってそのまま横になる。満腹感のおかげか、俺が夢の世界に辿り着くなんてあっという間だった。

「……ん?」

 目が覚めたら孝乃先輩に膝枕されていた……という事は無く、ただ単に俺の目の前には夕焼けが広がっているだけだった。

「すー……」

「って、え?」

 俺の腕を枕にして、抱きしめるようにして孝乃先輩が眠っていた。

 あ、可愛い……んじゃあない。

「ん……?」

「あ、いや、これは……」

 目を覚ました孝乃先輩は俺を見て可愛らしくあくびをするとゆっくりと立ち上がる。

「もう夕暮か……さ、帰るわよ」

「え、あ、はい」

「ほら、さっさとシートを片づける」

「は、はい」

 首をかしげつつそのままシートを片づけた。

 大きなバックを俺が持ち、今度はすいていた電車に乗る。

「今日一日楽しかったということでもしかしたら肩を貸すことになるわ」

「あの、これまでぐっすり寝てたんで全然眠くないんですけど」

「あんたじゃないわ、女の子の方がよ」

 それは、そうだろうなぁ。

 何か話をするわけではないものの、何だか楽しい時間が過ぎているようだった。

 駅前で孝乃先輩が俺から大きなバックをふんだくる。

「今日の総括をしなさい」

「え、えーと、動物園に行って、動物を見て、ぐっすり寝ました……凄くいい夢を見たような気がします」

「気がするんじゃなくてそうなのよ。ま、次の日曜日は頑張りなさいよ」

「はぁ……わかりました」

 去っていく孝乃先輩を見送りながら首をかしげるしかない。

「動物園に行って寝るだけじゃ、意味無くないだろうか……」

 学園生にとっては特殊すぎるデートの気がして仕方がなかった。


着々と向かいつつあるエンディング。どの作品もそうであるように、最後まで責任をもって終わらせるのが仕事だと思うのですよ。続きを考えられないで停滞しているというのもありますがね。話広げ過ぎて回収しきれないとかさ……とっちらかりすぎてギブアップなんてよくある話です。せめて今回はそうならないようにがんばりたい。

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