第二十七話:本入道と収束
第二十七話
国家権力に屈した俺は紗生とともに派出所から出てきた。
「すみませんでした」
ああ、俺の人生終わったなと思っていたところ、紗生が機転を利かせて『バカップルが別れ話を拗らせた』という事にしてくれたのだ。
足を向けて寝られないな、本当。
派出所から離れて近くのファミレスへと入る。
「二名で」
「こちらへどうぞ」
無言のままついてきた紗生と一緒に腰をかけ、俺は紗生に頭を下げた。テーブルにべったりと顔面をくっつけて。
「すまんかった」
「……よくはないですけど、もういいですよ」
乙女の初キッスを奪ってしまったのだ。キスだけで済んでよかったと思ったほうがいいだろうな。みやっちゃんが現れて薬の効果を消してくれたから、今の紗生は惚れ薬から解放されている。
それはそれで残念かなと思ったりするけどさ。好きだ好きだと迫られるのは男冥利に尽きるってやつだ。
「明日からはただの先輩と後輩ですね」
「だな。今回の事件の埋め合わせはちゃんとさせてもらうよ」
「図書券とか送ってくださいね」
「う……」
こうして、俺と紗生の惚れ薬事件はみやっちゃんと国家権力の介入によって終わりを迎えたのであった。
「へぇ、惚れ薬の効果切れたんだ」
「ああ、本当に大変な目に遭ったぜ」
「それは紗生ちゃんのほうじゃないの?」
「そう言われると……そうだよな」
久しぶりに七色と一緒にお昼ご飯を食べている。場所は中庭、友人の奴は購買にジュースを買いに行っている。
「二学期になってもなお、暑いよなぁ……ここまで引っ張って居たら逃げていたかもしれん」
「それ紗生ちゃんが聞いたら泣くよ……これで惚れ薬はこりごりだよね?」
「ああ、もう二度と使わん」
失敗した時のリスクが大きい。一学期分時間を無くすとは想像しなかったぜ。
「西牟田さんとはあれから遊んだりしてないの?」
「元からそう接点ないしな。彼女は巻き込まれただけだし、メールしたりもしないよ」
「じゃあさ、今度の日曜日ぼくと冬治君、友人君と紗生ちゃんと一緒に水族館にいかない?」
「水族館かぁ」
何でお金払ってまで魚を見ないといけないのだろうか。
「そんなめんどくさそうな顔をしないでさ」
「えー……ん?」
「どったの?」
「視線を感じたからさ」
「ふーん? きっと友人君が水族館に行きたいんだよ……冬治君と二人きりで」
「……それは絶対に嫌だな」
この話は放課後まで続いていた。
「行こうよ水族館」
「しつこい……っと?」
下駄箱を開けると手紙が入っていた。
「え? 何それ不幸の手紙?」
「あれじゃね、ラブレター」
「冬治君がラブレター……?」
「いや、そんな世界が滅亡するんじゃないかって顔するなよ。地味に傷つくぞ」
「だって惚れ薬に頼るような人だよね?」
惚れ薬なんて非日常単語は使わないで下さい。
心の中で突っ込んで俺は二つ折りの紙を開いた。
いかがお過ごしでしょうか。
つまらないお手紙すみません。
もうどうしようもなくて。
見てほしくなりました。
てが震えてます。
またお手紙送ります。
すみません。
「怪文書だ」
俺の一言に七色も頷いていた。
「そういえばこの前友人君の下駄箱にも『この前の下着泥棒はお前が犯人だろう』という手紙が入っていたよ」
「それは……事実ではないだろうか」
丸めて捨てようとしたら七色がそれを邪魔してきた。
「何するんだよ」
「ここじゃ捨てないほうがいいよ。誰が見ているかわからないから」
「……そんなもんか」
「うん、多分ね」
結局くしゃくしゃにした手紙が鞄の中に放り込んで七色と一緒に帰ることにしたのだった。




