第二十二話:こっちんと強化合宿
第二十二話
夏休みに入り俺は何故だか陸上部の強化合宿に付き合わされていた。
「部活は部活、恋は恋、でも両立したいから手伝ってほしいよ」
なんやかんやで手伝わされることになったのだ。だって、手伝わないと入浴中に突撃するぞとか言うんだもん。
思えばそういう一線を越えてくるような事はしないんだよなぁと陸上部の荷物を持ちながら考える。
「おーい、荷物持ちガンバレー」
「うっせー」
前を歩く女子に向かって両手を振りまわす。男子連中は全員強化合宿をサボりやがった……本当、信じられないぜ。
七名ほどの女子生徒に俺が一人と、女性の先生一人だから拒否されるかと思えば貴重な戦力が増えたと喜ばれた。
俺がテントで、残りの生徒は合宿所ってどういうことでしょうね。…つとを晴らされるよりも先に合宿所の掃除をさせられた。勿論、その間佳苗達は練習を行っている。
「……ほーんと、何で付いてきちゃったんだ」
ためいきをつきつつ、仕事はちゃんとしている。俺がやる仕事は荷物持ちに始まり、掃除、料理の準備、道具の片づけ等等である。
「まるで体のいいお手伝いさんみたいじゃないか……そういえば、陸上部から合宿時に支給されるお手伝いの服があるとか言われてたな」
渡されていたバックを開けると其処には燕尾服のようなものが入っていた。
「これで掃除するのか?」
首をかしげつつ着替えてみた。それから、中に入っている手袋をつけてみる。
「暑い……」
脱ぐか。どうせまだ誰も戻ってきていないし、時間もある。
「あ、本当に着てる」
「本当だっ」
「うおっ」
「マジモンの執事さんだっ」
あっという間に女子部員に……汗で下着が透けてる……囲まれて焦る。佳苗の姿はなかった。
特に喜んでいたのは先生だった。
「ちょ、ちょっとそんなに似合うなんて反則よっ。学生服を着てなかったら男子って本当に変わっちゃうわよね……あ、あの、四ヵ所君、先生のことをお帰りなさいませお嬢様と言ってくれないかしら」
「は? はぁ……わかりました。おかえりなさいませ、お嬢様」
「ぐっはっ。何この破壊力……」
先生、彼氏をさっさと作ってください。
「ふーやっと休憩だー……ん?」
そこで佳苗が戻ってきて女子に囲まれデレデレの俺を見つけたのだった。
「とーじくんっ」
「げ、佳苗……いや、待て、誤解だ。俺はこの服に着替えただけでだな……」
ああ、なんでこんないいわけをしているのだろう。さっきまで俺の周りに居た女子生徒はにやにやして俺たち二人を見ているし。
ひとしきり説教といいわけの応酬をしあっていると先生が割って入ってきた。
「はいはい、痴話げんかしてないでさっさと練習と掃除に戻るわよ」
「だって、冬治君が」
「大丈夫だって、四ヵ所君は立派な執事だから誰の執事かわきまえているわよ」
誰が執事か。
「そう、ですね。じゃ、あたし行くね」
「ああ、頑張って来い。今夜はカレーだ」
カレーだいすきーとかいいながら去っていく佳苗にため息をひとつ。
「あれ? 先生まだ居たんですか? 他の部員もとっくに居なくなってますよ」
「あ、あの、四ヵ所君。最後にもう一度だけおかえりなさいませお嬢様って言ってくれるかしら?」
ため息を二つ目、ついでに本日二回目の言葉を口にするのだった。
燕尾服のようなものからいつもの服に着替え、かっぽう着と白三角を着用しカレーを作り始める。
「ふむ、こんなものかな」
「おばちゃんだ」
「食堂に居そうなおばちゃんがいる」
「つまみ食いだー」
戻ってきた姦しい娘たちをしゃもじで撃退する。
「あいたっ」
「つまみ食いしてないでお風呂に入っちゃいなさい。準備しているから」
「はーい、お母さん」
「誰がお母さんだっ」
陸上部全員を追い出そうとすると最後に佳苗が残っていた。
「どうした?」
「……覗いちゃ駄目だぞっ」
「デザートはヨーグルトにフルーツを入れたものにするか。ちょいすっぱ目がいいかな」
「あ、無視しないで―」
そんなこんなで風呂の時間も過ぎて俺もようやくテントを張れる時間に成った。
「ふぅ、ばたばたしててちょっとおくれちまったな」
「あ、もう張っちゃったんだ」
体操着姿の佳苗がやってきて近くに座る。
「まぁな、簡単だったよ」
「これが二人のマイホーム」
「……テントがマイホームってどんだけサバイバルだよ」
「本当のサバイバルホームは段ボールだよ」
「そりゃ都会に多く潜む原住民の家だろ」
そんなやり取りをしてからそう言えばと思いだす。
「これ、みんなでしてこいよ」
「ん? これは……花火っ。冬治君も一緒にしようよっ」
「ああ、先にしててくれ。食器を洗い終えたら合流するから」
それなりの数があると思っていたが、実際はあっという間に終わったらしい。俺が花火をしているところに向かうとすでに線香花火の時間になっていた。
「あ」
そして、俺の姿に身体を動かした陸上部員のほとんどが同時に火玉を落として何故か怒られる羽目になるのだった。
理不尽である。




