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第十九話:本入道と反転の薬

第十九話

 鏡の中の俺に恋した少女、西牟田紗生。

 その少女をどうにか助けてあげようとして気付けば一学期も終わっていた。

 まぁ、どちらかというとあきらめに近い状況と言っていいだろう。完全に放置状態、七色が時たま俺に声をかけてくるぐらいか。

「おーい、紗生、帰るぜ」

「あ、はい」

 今日も今日とて紗生を誘って学園から出てきている。紗生の教室では俺との仲を誤解している生徒も出ているくらいだ。

「どうしたもんかね」

「あの、先輩はやる気あるんですか」

「ちょっとはあるさ。しかしね、紗生の心が広すぎて諦めも来てる」

 だってさ、何したってこの人幻滅しないんだもん。鏡に映っている俺なら襲われてもいいとか言っちゃうし、エロ本も効果ないし、女性物の下着とかも試してみたんだぜ?

「恋は盲目だな」

「ですね」

「当事者の紗生が言うなよ」

「すみません」

 しょげる紗生に俺はため息をつくしかない。元はと言えば、俺が悪いのだ。惚れ薬をぶちまけた先に居ただけの被害者だ。

「そうだ、薬……」

「え?」

「みやっちゃんに何か効果を消せるような薬をもっていないか本当にないのか聞いてみる」

 携帯電話を取り出して連絡を取る。これまでは何となくみやっちゃんがせっかく用意してくれた惚れ薬で被害者を出してしまったから連絡しづらかった。お手上げ状態ならもはや関係ない。

『……もしもし?』

「俺、俺だよ俺」

『……何?』

「惚れ薬を中和できるような薬はないかな」

『……幻滅させられなかったんだ』

「ああ、どうも相手は兄妹すぎる相手だったみたいだ」

『……苦肉の策として効果を反転させる薬なら、ある』

「おおっ」

 そんなものがあるなら早くに言ってほしかったぜ。

「今度取りに行くよ」

『……惚れ薬の一種類としてそっちが持ってる錠剤の奴を飲ませればいい』

「こんな近くに答えがあったのかっ」

 常に惚れ薬は持ち合わせている為、すぐさま準備が出来た。

「紗生、好きの嫌いは何だ」

「嫌いですね」

 どうだったかな、確か無関心じゃなかったかな。

 まぁ、そんな事はこの際どうでもいい。紗生に無視されるようになろうと俺には関係ないからな。

「こっちが効果を反転させる薬だそうだ」

「はい」

「それで、これはジュースだ。飲んでくれよ」

「わかりました」

 これでようやく鏡の中の冬治先輩を追いかけなくていいんですねと言われた。うん、本当に迷惑をかけたもんだなぁ。

 こっちも南山さんにアピールを開始できるというもの。七色からのちくちくとしたいやみも無くなるはずだ。

「ん? どうした、飲まないのか?」

 錠剤を手にして止まってしまう紗生に首をかしげる。

「この薬を飲んでしまったら冬治先輩のことを嫌いになりますよね」

「そりゃそうだ。しかしな、薬で鏡に映った俺のことを好きになっているんだ……」

 それは異常な事なんだよと言おうとして紗生の言葉に阻まれる。

「……怖くないですか?」

「怖い?」

「はい、だってどうしようもなく好きになるんです。どうしようもなく、嫌いになるということは……もしかしたら、冬治先輩のことを刺すかもしれません」

 安易に想像できる未来に心の中で震えておいた。

「……ばかだな、お前はそんな事を気にしなくていいんだよ。俺が間違えて紗生に薬の効果を持たせた方が悪い……刺されても文句は言えないんだぜ」

 悲鳴は思いっきりあげますけどね。

「冬治先輩……」

 やたら尊敬されるのも悪くないね、うん。五分後ぐらいにはナイフを持って追いかけてくるかもしれないので体を温めるために準備運動を始めておこう。

「……ごくっ」

「どうだ?」

「あ、あれ? 冬治先輩を見ていると何だか………切なくなります」

「……おかしいな」

 効果が反転するはずだろうに。

 うん? 待てよ……? 鏡俺に対して惚れ薬の効果があったわけで、現実俺には興味がなかったんだよな。それの効果が反転して……?

「す、好きです、冬治先輩」

「……マジか」

 全体攻撃の即死魔法を使ったら反射されて『センセーッ』という状態が何故だか頭を通過していった。

「つまるところ鏡の俺を見ても……」

 手鏡に俺を写らせてみる。首を振られるだけだった。

「ときめきません」

「これが反転したっていうのか」

 事態はより一層悪くなったのか……いや、どの道変わりはないのか。


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