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第十六話:孝乃先輩と最後のおいかけっこ

第十六話

 そろそろ夏休みである。

 かといって、俺と北村先輩対霜崎先輩の追いかけっこが終わるわけもない。夏服と言えど、ちょっと走れば汗が噴き出してくるような暑さだ。

 放課後、いつものように廊下を駆け抜けて校門へと向かおうとしたら罠が貼られており、腕組みをしていた先生がいたのだ。あわてて男子トイレへと転がり込んで汗を拭く。

「全く、ついてないわっ」

 嘆く先輩に俺も頷くしかない。しかし、躊躇なく入りこんでくるとは驚きだ……特に、厳しい学園生活のリフレッシュをしている男子生徒の方が驚いているようだけどな。

「そうですね」

「そうですね、じゃないわよっ。何であんなところに先生がいるのよ」

「普通に考えて霜崎先輩のさし金……じゃなくて、最近派手に突っ走ってましたからね。激突しそうになった事もたまにありましたし、現行犯で俺達を捕まえに来たんですよ」

 となるとこれから先の追いかけっこはかなりの難度になるということだ。

 息を整えたところで俺が先に男子トイレから出る。入念に辺りを調べて北村先輩に出てきてもらった。

 先生の隣を静かに通り抜けてとりあえず屋上へと向かう事にした。

「もし、ここにあいつが来たらどうするのよ」

「大丈夫ですよ。この位置なら誰かが入ってきても入れ替わりに校舎内へ戻れますから……実は聞きたい事があるんです」

「聞きたい事? 夏休みはどうやって逃げ続けるかって事かしら」

「違いますよ……俺が聞きたい事は大元の原因です」

 一度言葉を切って腰を下ろす。

「……霜崎先輩が惚れ薬を飲んだ状況を教えてほしいんです」

「何か関係があるの?」

「もしかしたら惚れ薬の効果を何とかできるかもしれません」

「嘘じゃないわよね?」

「はい。俺に惚れ薬をくれた子からその時の話を聞いてほしいって言われました」

 みやっちなら何とかできるはずだ。惚れ薬を奪われ、他の人に飲まされたと言う話をしたら超激怒して大変な目にあったぜ。風呂上がりのマッサージとか、みやっち専用ぱしりとか色々やらされてようやく許されたのだ。

「うーんとねぇ、もう結構前の事だから記憶があいまいなところあるけど、あたしはお弁当に仕込んだのよね」

「ほうほう」

「お昼時に近い場所で待機してたらあの霜崎亜美が時雨君のお弁当を突き始めやがったの。時雨君ってばあきれて霜崎のお弁当を食べてて本当、あたしのお弁当をあげようかって思ったわ。こう見えて料理上手なんだからね?」

「話がずれてます」

 まぁ、状況は伝わってきたからいいけどさ。

「……その、時雨先輩と言う人にあげたかったんですね?」

「そうね、あの人は彼女がいるからどうしても……叶わない恋だから。それに比べてあんたはどうせフリーな相手を落とすために薬を使おうとしたんでしょ? 根性無しね。今もこうやって惚れ薬のしりぬぐいをさせられているんだからもう実らないんじゃないの?」

 くそっ、ここまでこけにされて尚、この人を助けるべきなのか?

 しかし、助けると約束したのだからそこはそれ、きっちり約束は守らないといけない。

「ま、それでもあたしはあんたに感謝はしてるけどね……」

「え?」

「見つけたーっ」

「っ!」

「マジでっ……」

 そして、俺達の前で一つ信じられない事が起こった。そう、金網の向こうから……つまりは窓から壁をつたって登って来たのだ。

「邪魔者がいる愛の方が萌えるってね」

「おそらく誤字かと……というか、どうやって登って来たんですか」

「愛の力」

 恋をするってこういう事か?

 混乱している最中、北村先輩の行動はこれまでとなんら変わっていなかった。

「逃げるわよ、冬治」

「は、はい」

 腕を掴まれて屋上を後にする。金網を昇ってきている霜崎先輩が落下して大変な事にならないか少しだけ不安になったりする。

「大丈夫ですかね」

「大丈夫でしょうよ」

 すぐさま追いかけてくる霜崎先輩の声に安堵しつつ、階段を駆け降りる。そしてそのまま男子更衣室へと入りこんだ。

「よし、ここ。ほら早くっ」

 ロッカーの一つに押し込められ……俺の名前が書いてあった……隣の女子更衣室を乱暴に開ける音が聞こえてきた。

『ここかーっ』

 順番にロッカーを開けて行く音まで聞こえてきた。

「よくあるよくある」

「いや、それ創作ものですから……って、動かないで下さい」

「こっちのセリフよっ」

 もぞもぞするからこっちも動くしかなく、先輩の足が俺の股の間に入ってきた。

「ちょっ」

「ふー、暑かったなー」

「だな」

 そして、信じられない事に誰かが着替えにやってきたようだ。俺と北村先輩は一気に静かになる……暑苦しい中でどれだけ耐えられるだろうか。

「すっぽーんぽーん」

「すっぽのぽーん」

「ぽぽーん」

 ま、男子は女子と違って着替えるのなんて本当に早いからな」

 ああ、これが隣だったなら今頃花園に居たんだろうに……俺の目の前では腰に両手をあてて某ハンティングアクションゲームに出てくるアルビノ系な下ネタごっこをしているアホどもしかいない。

「ぎゃーお。俺のフルフ○金冠サイズ」

「ぎゃーお。俺の方こそイベ猪並みのサイズだぜ」

「ぎゃーお。小さいけど特異個体なんだぜ」

 しかも、未開拓とか新天地とか新分野のわかり辛いネタ引っ張ってきてるし。

 ひとしきり暴れて行った後に連中は出て行ったようだ。

「本当、この歳になっても怪獣ごっこだなんて馬鹿ね」

「……ああ、いや。見えていないだろうからいいませんけど、凄い事やってましたよ」

 おそらく、女子がやったら俺は女性を愛せなくなるかもしれないな。

「ほら、暑いんだから出なさいよ」

「はい」

 押し出されるように更衣室から出てため息をつく。

「……何よ?」

「北村先輩、においますね」

「なっ……あ、あんたねっ、じょ、女子に向かってそんな言葉吐くなんて失礼よっ」

「ごめんなさい。でも、ニンニク臭いっす」

「っつ~!」

 右手を振りかぶって襲いかかってくる北村先輩から今度は俺が逃げる番であった。


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