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第十四話:こっちんと徐々に埋められていく外堀

第十四話

 彼氏と彼女の関係なんて人それぞれだ。俺の友達の兄貴は『おれの彼女って超モテルんだぜ? 何せ、彼氏が三人はいるんだからな』と自慢していたりする。

 そして、その話を聞いて俺は幸せって人それぞれ何だなぁと考えさせられた。

 俺と東風平……ではなく、佳苗の関係と言えば一心同体とでもいえばいいだろうか。

「待った?」

「それは待ち合わせをしていた時に言うもんだろう」

 あれよあれよという間に佳苗は俺のプライベートのすべてを把握した。三日目で俺の家にやってきて、五日目には合いかぎを俺からもぎ取り、毎日部活帰りに遊びにやってきて、一週間後には晩飯を食って帰るようになった。

 親御さんが怒鳴りこんできたのは二週間後のことだった。

「お前か、うちの娘をたぶらかしたのはっ」

「パパ、真剣なの」

「そうか、お前がそう言うのならわたしも止めはしない……母さんも納得していたからな。それに、見てみると意外と好青年だな。うん、こんな子がわたしの息子になってくれるのもいいもんだな。邪魔をして済まなかった」

「……マジか、親父さん撤収早すぎだろ」

 これはみやっちから聞いていた事だったりもする。何でも、薬と身体の相性が良ければ……それは親子遺伝しているそうで家族もある程度惚れ薬の影響が出るそうだ。もっとも、あくまで二次的な物なので好きになったりはしないけどな。

「……彼女の親父に貞操を狙われるとかぞっとしないぜ」

 向こうの親公認となった今、佳苗を止める者はいない。

「おはよう」

「……おはよう」

 毎朝俺の家にやってきて合いかぎで入り、俺を起こすのだ。今日なんてパジャマ姿でやってきやがったようだ。

「よいしょっと」

「ん? 何してるんだ?」

「あ、荷物をね、片付けてるの。ここ最近物が増えすぎちゃったから」

「そうか?」

 辺りを見渡して驚いた。

「な、なぁ、机がいつの間にか二つあるんだけど」

「学生の本分は勉強だからね。たとえ、身体を動かしていないと死んじゃうようなあたしでも勉強ぐらいはするよ」

 お前はマグロかと突っ込むのはやめておくとして、俺の布団の隣に置かれた布団を見て驚愕する。

「何で、布団が……もう一式あるんだ?」

「あはは、やっぱり気付いてなかったんだ。本当は夜中にやってきて隣で寝てたんだよ? あたしが暗殺者だったら今頃天国だよ」

 惚れ薬なんて使う俺は地獄だよと考えてからぎこちなく首を動かす。

「つ、つまり、佳苗は俺の隣で寝たって言うのか」

「うんっ」

 超さわやかな笑みでこたえられた。

 男女が一つ屋根の下、男女が一つ屋根の下……その言葉が頭の中でぐるぐる回る。

「本当は布団の中に入りこもうとしたんだけどね、狭かった」

「そ、そうか。もうてっきり何かされたもんだと」

「え?」

「気にしないでくれ……っと、そろそろ起きないとまずいな」

 ピンクに成りそうになる頭を振りきって立ち上がる。

「んしょっと」

「おい、おもむろに服を脱ぎだすな」

「はは、大丈夫大丈夫。脱いでも胸、ないから。でもね、なくても誘惑ぐらいは出来るよ」

 今俺を見ている佳苗はさっきの爽やかな顔をしている人じゃないみたいだった。

「いや、それでもお前は女の子だろ」

 既に俺は彼女の雰囲気に完全に飲まれていて眼がはなせていない。軽い音を立てて落ちたパジャマの下に隠されていたきめ細やかな白い肌を、軽く触ればずれてしまいそうなブラが気になって仕方が無いのだ。

「彼女だよ? 下着姿ぐらい見ても興奮しないんじゃないの?」

 無造作に伸ばした佳苗の手が、コップに触れて音が成る。その音で眼が覚めて、俺は慌ててそっぽを向いのだった。

「……とりあえず、部屋出てるから」

 急いで廊下に出て息を整える。危なかった、あのままだったら何かしていたかもしれない。

 そう、彼女はあくまで薬の影響を受けているだけだ。本心から俺の事を好きなのではなく、単なる犠牲者なのである。

 改めて薬の凄さと危険性に気付いた俺は顔を洗いに洗面所へ向かうのであった。

 朝食を食べ終え、鞄の準備をする。

「今日からは一緒に登校できるね」

「これまでだって一緒だったじゃんかよ」

「そうだけどね」

 照れる事無くまっすぐ見てくる佳苗の視線を俺は受け止める事が出来ず、乱暴に鍵を閉めるだけだ。

「……」

「……」

 一方的に話しかけるわけでもない、ちょっとした静かな時間が登校時には流れる。意外な事に、しゃべりっぱなしの人物かと思えば違うようだ。

「なぁ」

「ん?」

「登校のときは喋らないよな? 何でだ?」

 俺の質問に佳苗はほほ笑んだ。

「何だろう……一緒に歩けるだけで幸せだから。その幸せをかみしめてる……って、ちょっと変かな」

「そうか……でも、そろそろ朝練の時間じゃないか?」

「あ、本当だ。ごめん、冬治。あたし行くからっ」

 静かに歩いていた俺の彼女はそのままあっという間に背中を小さくするのであった。

「……本当、元気な人だよな。あんな子に惚れ薬を間違ったとはいえ使っちまったんだ。神様の罰が当たるんだろうな」

 既に当たっているのかもしれないというのは無しだ。


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