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第十三話:アオインとある薬

第十三話

 たとえ好きな女の子が居ても別の欲望が優先されればそれはそれ、これはこれ。

「……いい眺めだな」

「ああ、そうだな」

 南山さんが二人三脚の紐を取りに行っている間、俺はグラウンドの隅っこで友人とともにグラウンドを眺めていた。

「汗を流しているのを見ると本当、青春って感じがするよな」

「この学園にブルマが残っているって本当にすごいよな」

「そうだな、見ろよ、学園一のあの胸」

「拝んどくか?」

「後利益があるぜ、きっと」

 乳を拝んで何が悪い。まして、それが巨乳と言えばなおさらである。

「ごめん、四ヵ所君。待った?」

「冬治……お前ってやつはもしかして南山さんというものがありながら……」

「さて、南山さん。俺の方はばっちり興奮……ではなく、身体と心を温めていましたんで練習の方、はじめましょうかい」

 立ち上がって両頬をぱんぱんと叩く。

「よかった、これだけやる気があるのなら頑張れるね」

「うっす」

「騙されちゃいけない南山さん、こいつは……」

 近づいてきた友人の肩に手を置いて耳打ちする。

「……写真部からある写真集を譲ってもらった。今度貸すぜ」

「南山さん、こいつってばsquatを一生懸命やってたから期待しておいていい」

 ぐっと親指を南山さんに向けて、去っていった。

「そんなに頑張っていたんだ」

「ああ、そうだね。持つべきものは友達……かな。ま、二人三脚やるんだから今必要なのはあいつじゃなくて南山さんだけどね」

 そして、俺と南山さんは足を縛って二人三脚を始めるのであった。

「まずは外側からでお願いするね」

「わかった」

 こういう時にリーダーシップをとりたがるのか、それとも彼女の本質なのかは不明だ。ヘッドが二人いてはお話しにならないので大人しく従う事にする。

 まずまずといった具合で練習を続けて三十分経ったぐらいで休憩に入る。

「ふぅ」

 スポーツドリンクを飲む南山さんの横顔を見て俺はため息をついた。

 今手元に惚れ薬があればすぐに飲ませられたんじゃないかな―と。

「ん? どうかしたの」

「いや、えーっと、飲み物忘れちゃってね」

 嘘ではないものの、そこまで喉は乾いていない。

「そっか、じゃあこれ飲む?」

「え? いいの?」

「うん」

 ここでもらわないのも流れとしておかしいだろう。大人しく頂戴しておいた。

 飲んだ後に間接キスかぁ……と、気付いても特に感慨もなし。中学生でもないからいちいち気にする事もない。

「……」

 と、俺が思っていてもガン見されながら見られるのは非常に飲みづらい状況だ。

 飲み干してしまった事に気づき、慌てて手を合わせる。

「ご、ごめん。全部飲んじゃった」

「ん……別に良かったけど何とも無いの?」

 そう言われて首をかしげる。

「何とも、とは?」

「うーん、やっぱり怪しい薬なんて信じるものじゃないかなぁ。足が速くなる薬を入れてみたんだけど」

 一服盛ろうとしていた相手に薬を飲まされるとは思いもよらなかった。

「えと、そんなものを一体どこで?」

「風紀委員で持ち物調査をしていたからね。本人はもういらないからって私にくれたから四ヵ所君の足が速くなってくれるといいなぁってさ」

「……あのさ」

 そんな危険な物を俺に飲ませたのかよと口に出そうとして飲み込む。何せ、南山さんは先に試して無事を確認しているのだ。

「何かな?」

「御馳走様」

「気にしないでよ」

 そして、体育祭当日……俺と南山さんはトラックに立って紐で足を縛り合っている。

「あれから練習できなかったね」

「そりゃあ、お互い忙しかったから仕方がないよ」

 主に南山さんは風紀委員と体育祭開始に向けての準備、俺は帰宅部で家に帰り家でゴロゴロするのが忙しかった。

 スタートラインに立って他のメンツを見る。どう見ても、いちゃついているようにしか見えないカップルばかりだった。

『さぁ、始まりましたこの学園の名物いちゃつき二人三脚。勝ちに来ているチームからいちゃつきたいだけのカップル、見せつけたい父兄の飛び込み参加も受け付けておりますっ』

 放送委員の声が聞こえてきて始まったのだなと両手で頬を叩いておいた。

「よしっ」

「気合十分だね」

「そりゃあね。らぶらぶしている連中にだけは負けたくないよ」

「私も、そうだね。風紀委員としては清く正しくあってほしい」

 そして、俺と南山さんの順番になった。

「いちについて、よーい、どんっ」

「っ」

「いくよっ、四ヵ所君っ」

 他の組が遅めのスタートを切った中、俺と南山さんは信じられない程の早さで駆け抜けていた。

「……嘘だろ」

「あれ? もう、ゴールなの?」

 瞬きを三回する間もなく、気付けば俺たち二人はゴールテープを切っていた。学園生、父兄の方々は一旦静かになってすぐさま凄い歓声が追い付いてくる。

『圧倒的な速さでゴールしてしまいましたっ。これは一体どういうことでしょうかっ……勝ちに来ているこの二人の活躍に惜しみない拍手を―』

 この後、俺たち二人が陸上部に勧誘を受けたのは言うまでもない……しかし、もう一度走ってみたところで良くて中の上程度だったので結局はいる事はなかった。

「うーん、薬のおかげなのかな」

「どうだろうね」

 試しに二人三脚してみると一人で走るより結構速く走れたのだった。

「あの薬って本当だったんだ。すごーい」

「……オリンピックでも目指してみようか」

「うん、これは本当に狙えるかも」

 真面目に考えているようなので俺はため息をついた。

「いや、ないから」

 そして、俺の心の中で惚れ薬に対しての信頼度は更にあがっていくのだった。間違いなく、あの薬を眼の前の女子生徒に飲ませればイチコロリである。


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