第十話:こっちんと告白
第十話
都市伝説ではないかと言える下駄箱のラブレター以上の存在、朝早くに女の子から手渡しでラブレターをもらうなんて一生に在るかないかだと思う。
その前に、その女子生徒に惚れ薬を飲ませた俺の方がもっと非常識かもしれない。
「ここはみやっちゃんに助けてもらうしかない」
原因が惚れ薬だけにどうにかするには薬をくれた相手にすがるしかないのだ。
飲ませたその日に助けを求めるべきだった……キスの衝撃でそんな事は頭から吹き飛んでいたのだから許してほしい。
休み時間にケータイから連絡を入れる。
『……もしもし』
「あ、俺だよ。冬治だよ。みやっちゃん、大変な事になったんだ」
これこれかくかくしかじかと事情を説明するとみやっちゃんから絶望的な答えが返ってきた。
『……とりあえず南山葵に惚れ薬はもう使えない』
「ま、マジか……まだ惚れ薬自体はあるけど?」
『……この状況下で南山葵に使用すると三角関係に発展する』
男が一度はやってみたいシチュエーショントップ十には入る三角関係が出来ないとか残念だなと思って提案しようとするとみやっちゃんが更に口を開いた。
『殺傷沙汰になるから』
「そ、そうか……」
近々そっちに行くと言う言葉を残し、切ろうとしたので尋ねてみることにした。
「今日の放課後その東風平って子から呼び出しを受けているんだ。ここは断ったほうがいいよな?
『……ううん、それは受けて』
「え? 何で」
『……その東風平という子は依存症みたいなものだから冬治が無理に反発したりすると昼夜問わず付け狙われる』
恐ろしい言葉を聞いた気がした。
『……よっぽど薬と相性が良ければね』
「そ、そうか……わかったよ」
通話を終えて、俺はため息をついた。
「何でこんなことになったんだ」
俺が惚れ薬を使ったからだっ。
運がなかったからなのだっ。
放課後って学園生徒にとっては夢みたいな時間だよな。
部活に忙しい、家事に忙しい、家に帰るのが忙しい……人それぞれ自由な時間が共有される学園の場所から始まるのだ。
俺は東風平佳苗に呼び出されているから大人しく指定された場所に行かなくてはいけない。
従わずに中庭を突っ走って家に帰ってもいいはずなんだけどね。それだと話が終わらないし、そうしたとしても俺が放課後指定され場所に行かない限り毎日手紙が入っていそうだった。
指定され場所の校舎裏へやってきて、辺りを見渡す。
「俺の方が早かったか」
一息つく為に買ってきた缶コーヒーを飲む。
軽く飲み干してため息をつく。
「……惚れ薬なんて使うもんじゃないな」
薬がどれだけ人に影響を与えるとか想像もしてなかった。成功しか考えていない人間が挫折を知ったら相当、くるもんがあるんだな。
こうやって人間は成長していくのだ……えろいひとが脳内でそんなことを偉そうにいって頷いている。
「来てくれたんだ」
「……ああ」
相手にとっては結果のわからない、俺にとっては既に結果が分かるようなやり取りだ。
夕日を背に浴びている彼女は少しだけ暗い印象を与える。それでも、圧倒的な元気っ娘ではないかと俺に考えさせていた。
「男っぽいな」
「よく、言われるよ……ちょっと、傷つくけどね」
「あ、悪い。その、そう言うつもりで言ったんじゃないんだ」
「そう言うつもりって?」
「傷つけるつもりじゃなかったんだ」
「この前無理やりキスした事、許してね」
「……」
そうだったな。俺のファーストキスは惚れ薬のせいで無くなったんだった。
「わかったよ」
自業自得だ。
東風平は何故か膝頭をはたいて真正面に俺を見てきた。
「回りくどいのは苦手なんだ」
「へぇ?」
「……好きです、つきあって」
伸ばされた右手はどういう意味か?
それを掴めばいいのかと俺はその右手を掴んだ。
前から決めていた言葉だ。
ふと、脳内で南山さんの顔がちらついたけど、目の前の女子生徒に対して俺は最低な事をしてしまっている……もっとも、南山さんにしていれば悪い事だとは思わなかっただろう。
「俺でよければ」
「嬉しいよっ」
東風平佳苗にいきなり抱きしめられて驚くと相手に伝わったらしい。慌てて離れた。
「ご、ごめん。身体が先に動くタイプなんだっ」
「この前実際に体験したからな。今更驚かないよ」
「き、嫌いになったかなぁ?」
これ以上嘘はつきたくなかった。
「……そうだなぁ、場所をわきまえてくれるんならそう言う奴もいいんじゃないかな? さすがに人前でしちゃったら先生の耳に入って下手したら指導されるかもしれない」
首をすくめると東風平も頷いてくれた。
「そだね、気をつけておくよ……呼び方だけどさ、どんな呼び方がいい?」
「呼び方か……うーん、呼び捨てでいいぜ」
「冬治かぁ、うん、いいね。でももっとなれなれしい呼び方もいいよね。とうちゃん……父ちゃん?」
「色々と気が早い」
「じゃあ、あたしのことはかなちゃんで」
眼を輝かせてこっ恥ずかしい呼称を要求されるので首を振っておいた。
「却下だ。佳苗と呼ばせてもらうよ」
「スタンダートすぎる、ノーマルすぎる、普通すぎる、王道過ぎる」
「いや、いいだろ別に。普遍のどこが悪いんだ」
これは本当に恋人がするような会話なのかと首をかしげる。
割り切って、南山さんと付き合った時のための勉強にしようなんて最低な考えが頭に浮かんでたちきえる。
「通用するわけもないか」
「ん?」
「ああ、いや、こっちの話……とりあえず、今日はもう帰ろうぜ?」
「うん」
告白自体はあっさりと終わった。あとは、目の前の女子生徒を普通の学園生活に戻す方法を探すことが必要なのだ。




