第九話:アオインと体育祭の競技
第九話
気になるあの子のハートが欲しいからと言って、スナイパーを雇うわけにもいかない。
悩んだ末に、彼女の行動をよく知ったほうがいいだろうと脳内会議で結論が出た。
「惚れ薬の使用は先送りだな」
思えば南山さんの事をよく知らなかったりする。
外面的な事なら(成績とか、身長とか、スリーサイズとかね)知ろうと思えば知ることが出来る。しかし、此処はやはり彼女の本質を知るべきだろう。
六月頭に開催される右羽津体育祭で南山さんのことをよく知る機会が訪れるはずだ。何せ、彼女は風紀委員……何か面白い事が起こってくれるに違いない。不正とか、白組から紅組へのハニートラップとかさ。
「冬治君は何の競技に出るの?」
「ん? 俺は二人三脚だよ」
出る競技も決まり、放課後になると七色と友人が寄ってきた。
「二人三脚かぁ……相手は?」
「まだ決まってないだろ? いつ決めるんだ?」
俺のこの答えに友達二人は一人が絶句、もう一人は笑っていた。
「おいおい、冬治……二人三脚は個人競技だから自分で決めておかないと大変な事になるぜ?」
「大変な事?」
「ダッチワイフと走るか、マネキンと走るか、他人には見えない嫁と走るか好きなのを選ぶことになる」
クラスメートだけならともかく、学園生全て……プラスの父兄の監視の中それは痛すぎた。
「な、なぁ、二人とも俺と一緒に走らないか。汗を流そう」
出来るだけさわやかに笑ってみた。
「ごめん、冬治君」
「おれも無理だわ」
ちょっとだけ想像していたからこの結果はわかる。
「ま、明日になったらクラスメート全員を口説いてみればいい」
「そうだな」
「これは仕方がないからね。知らなかったという事で男子生徒も入れたほうがいいよ。今からだと女子はきついから」
何でも、二人の中を見せつけるために在るようなもので妬みの対象になるらしい。それでも、何組かは本気で勝ちを狙ってきている男子生徒二人という組み合わせもある。
「イケメン二人で走ると女子からすっごい喜びの声が上がるんだけどなぁ」
「奇声は聞きたくないわい」
「大丈夫だ、冬治。お前が男二人で走ったところで男子生徒からうほっとしか言われないからさ」
アホにかまっている場合ではない。
次の日、誰よりも先に(用務員のおじさんよりも先に)学園にやってきて待機する。クラスメートが入ってきたらダメもとで声をかけることにしている。
「なぁに、たった一人でいいんだから楽勝だろう」
七色の話によると、女子は難しいって言ってたなぁ。
でも、意外といけるかもしれない。
「あれ? 四ヵ所君はやいね」
一番目にやってきたのは南山さんだった。
「南山さんにお願いがあるんだ」
「何? 宿題とかは自分でやらないとダメだよ」
「いや、違う。二人三脚のこと」
「二人三脚? ルールについて知りたいんだね」
二人三脚のルールなんて頭に入ってるよ……話の腰を折りたくないので黙って首を振っておいた。
「実はさ、まさか個人競技だなんて知らなかったからまだ相手が決まって無かったんだ」
「じゃあ、辞退すればいいんじゃないの」
「え? 出来るの?」
「うん、四ヵ所君は転校生だからね。そんな事は知らなかったと言えば個人競技だから辞める事、出来るよ。この前の風紀委員会でも話したからね」
おお、何だか知らないけどラッキーである。
「決まったのは昨日だからこれから職員室に行って先生に話をしてこよう? 私もついて行ってあげる」
「ありがとう、南山さん」
ちょっとだけ南山さんと走れるんじゃないかなと思っていたので残念だ。ま、無理に変な相手を選んで失敗するよりは手を引いたほうがよさそうだ。
近年の男子生徒に見るちょっとばかりなよっちい気持ちに流されて、俺は南山さんと一緒に職員室に行くのだった。
「変わりの競技には出ないといけないけどね。男子の綱引きに加わればいいよ」
「アドバイスありがとう。うーん、南山さんって普段は優しいんだよねぇ」
「へぇ、どういう意味?」
「風紀の時は厳しいからさ」
「それはそれ、これはこれだからね。もともと風紀って言うのは生徒のために在るから…失礼しまーす」
職員室の引き戸を引いてそのまま二人で中に入り、担任に挨拶をする。
「四ヵ所と南山か。一体どうしたんだ」
「実は、四ヵ所君が……」
南山さんが説明してくれて、俺もそれに相槌を打つ。
「そうか、確かにそうだよなぁ……事前説明もなかったからこっちの落ち度もあるか」
先生はそういって手を叩いた。
よかった、どうやら納得してくれたようだ。
「でも、それだとおれが悪くなるから嫌だ」
「教師にあるまじき責任逃れを口にしやがった……」
「というわけで、南山。お前が四ヵ所の相棒になってやってくれ」
「わかりました」
「そして二つ返事で……」
あっという間に決まった南山さんが相棒の二人三脚……黙っている俺へ視線を向けて担任教師は笑っていた。
「よかったなー、これで四ヵ所も二人三脚に出られるぞ」
「は、はぁ、ありがとうございます」
「最初から南山を誘えばよかったじゃないか。まだクラスに慣れてないってわけじゃないだろう? もしかして南山が苦手なのか」
教師の言葉に首を振っておいた。隣の南山さんからの視線が痛かった。
「は、はは、そんな事があるわけないじゃないですか」
「……でもさ、さっき私のことを厳しいとか言ってなかったっけ?」
「う……あ、あれは……なんというか」
「ふんふん、そうか。ま、ちょうどいい機会だ。仲良くやるんだぞ」
教師はそう言って俺たち二人を廊下に出すのだった。
今後が不安である。




