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九時から六時まで会社で働く。その後はまるで時限爆弾が爆発したような唐突な勢いでものを書く。後者が勿論俺の本性だと思っているが、さりとて一日中ものを書いている訳にはいかない。
第一に、芸術をやるためには安定した収入が不可欠だ。芸術は金を使う場ではあっても稼ぐ場ではない。芸術の定義は「利益を追求しない活動」であると言っても過言ではない。大体芸術で金が稼げる等という甘い考えは身の破滅を招く。自分だけは特別だ、等という自惚れやら希望的観測は危険な罠だ。何より金の為に活動するならば、もっと効率の良い活動がいくらでもあるはずである。従って金の為にものを書くなんて馬鹿げている。
第二に、一日中一人でものを考えていたって何も浮かびやしない。専業作家という人種が普段どういう生活をしているのか分からんが、もし社会から隔絶された環境下で人間的交渉もなく、ただひたすらものを書いているのだとしたら、それは余程辛かろう。大作家が多く自殺する訳である。仕事は基本詰まらんものである。芸術はそんな詰まらん生活に差し込む一縷の光でなければならん。にも拘らず芸術を仕事にしたら、光の差し込む風穴を必要に駆られて次々と空けなければならん。それでは体力も尽きよう。そのうち穴をあける余地も尽きよう。終いには穴をあけ過ぎて生活そのものが崩壊しよう。例えそこまで行かずとも、光に目が順応して暗闇が怖くなるだろう。芸術には詰まらん日常が是非とも必要なのである。
そうは言ってみたものの、日常が詰まらん事には変わりない。俺はそんなジレンマを抱えなから今日も筆を進めている。誰かに読んでもらいたいと思いつつ、とは言え知り合いに読まれたらこれほど恥ずかしい事もなかろうと思いつつ…。
書く事はとても恥ずかしい事だ。