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 加藤君が言った。

「先輩、こないだ法人税の本を読んでいてふと疑問に思ったんですけどね」

「うん、何だ?」

俺は後輩からたまにこんな質問を受ける。質問に答えられないと先輩の面子丸つぶれなので、俺は少し身構える。

「法人税って要するに法人を一人の人間と見なして課される所得税ですよね?」

「ああ、そうだね」

「でも、法人って個人みたいな権利は与えられてないじゃないですか?例えば法人が選挙権とか持ってる訳じゃないですよね?権利は与えられないのに何で義務だけが課されているんですか?」

「そりゃあ、個人と見なしてはいるけれども、実際には個人じゃないからだろう」

「でも、個人と見なすという名目で課税してるなら、選挙権だって法人を個人と見なして与えられるべきじゃないですか?」

「そう言うけどね、法人に選挙権を与えて一体誰が意志決定をするんだい?社長か?しかしそれじゃあ選挙の平等性が失われるじゃないか」

「社内で誰に投票するかを投票すればいいんですよ。一人一票で」

加藤君はなおも食い下がる。理屈屋は学者には向いてるかも知らんが、サラリーマンとしては単なるお荷物だ。

「そんなことしたら面倒だし、コストもかかるじゃないか。第一法人の中で公平な投票が行われていることをどう証明するんだい?」

「面倒だとかコストがかさむだとかで法律が決まっていたんじゃ租税正義は保たれませんよ。それを言ったら税金の計算なんか面倒の極みじゃないですか。それと法人の中での投票は内部監査か何かできちんと調べてやっておけば良いんです」

この小理屈屋は理屈だけで世の中が回っていると思っているらしい。机上の空論とはまさにこのことである。

「いいかい、それが仮に可能だったとしてもだ。そうすると法人の投票は個人の投票の集まりにすぎないということになる。つまり法人に属している個人がそうでない個人よりも余計に選挙権を持っていることになる。これでは公平な選挙とは言えないだろう?」

「それで良いじゃないですか。法人税は結局法人の構成員が稼得した法人の可処分所得から支払われるわけですから、法人に所属している人はそうでない人よりも余分に税金を払っていると言うことになるわけでしょう?それなら余分に選挙権があったっていい訳ですよ」

「余分に税金を払っていれば投票権が余分に加味されるなら、お金持ちの高額納税者は何票も票を入れて良い事になる。ところがそんな事は法律上認められていない。だから法人の構成員だけが余計に選挙権を持つのは不公平なんだよ」

「うーん、そんなもんですか」

加藤君は不承不承、やっとの事で身を退いた。ここまで言ってやらなければ納得しないなんて、余程頑固な理屈屋に相違ない。理屈や知識など殆ど何の役にも立たぬ。学者や研究者は例外かも知らんが、殆どの人間にとっては荷厄介なだけである。中途半端な知性は身を滅ぼす。「理屈が馬鹿なものであることは昔から決まっていることだ」とどこかで聞いた事がある様な…。実際その通りだ。


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