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第二十一話 非常事態3

お久しぶりです。

リアルが最近忙しくて更新が遅れ放題ですが、まだまだ続きますのでよろしくしてやってください。


(あらすじ)トワの仲間入りで食糧問題発生! どっかで食糧調達しよーぜーとやってきた砦がまさかの魔物の襲撃で……というところです。


 それは異様な光景だった。

 隣で半壊している家と同じ大きさの黒い物。二重に張られたバリケードを破り、砦の中を今も蹂躙しようとしているかのようだ。

 だが、それは動かない。

 大きな体に剣、斧、鉈、包丁―――思いつくままの刃物を突き立て、六本ある足の三つを落としている。石作りの床を黒ずんだ血痕が汚し、その先に落とされた足が散らばっていた。

 (……何かおかしい)

 そう、普通じゃない。

 凄絶な光景の中、イリスの目に付いたのはあちこちにある人の慣れ果て。

蜘蛛によく似た魔物の死体周辺に所々転がっているのは、白骨化した死体だった。なのに、そこにある蜘蛛は死んだとは思えない迫力を保っている。今にも動き出しそうだ。

 本能的に同じ「生き物」というカテゴリーでくくれないことに忌避が湧く。

 気持ち悪い。気持ち悪い。

 ソラドラは平穏な場所だった。

 畑を荒らす動物と酒場でおふざけの過ぎた貿易商人くらいが困りもので、後は天候も人柄も穏やかで暖かな街で、母一人子一人で暮らしていたイリスたちだがそれでも居心地よくて、母が笑っていて、マイラやカーダたちが騒いでいて、ジジたちが気にかけてくれ、何より、夫がいて―――

 (こんな、場所、知らない……)

 冷たい北の地。皮膚の下にも感じる寒さが、イリスは初めての感覚だった。

 傍でエリトが蜘蛛の魔物について色々言っていたけれど、イリスの耳にも何も入って来なかった。自分一人世界から切り離されてしまったような感覚が、イリスを襲う。

 (あたしは知らない。知らないよ、こんなの)

 知らない。知らない。知りたくない。わからない。

 

 本当に?



 ※※※※



 トワは自分の感性に感心していた。

 (空腹でも、食べたいと思わないものだなぁ)

 視界を塞ぐのは、巨大蜘蛛だ。昔一度食べたが、もう一度食べたいとはどうしても思えなかった代物だ。

 (あの食べた時の舌を突く感覚はいただけない。毒でもあったのだろうな)

 大陸最強種はその辺り鈍感だった。

 イリスがショックを受けるような光景も、ドラゴンのトワにはその程度のものだった。

 今は見た目を同じくしていても、所詮人は人で、トワはドラゴンだ。転がる死体もあー人間の死体だなーという感想しか抱かない。人が道端に転がるねずみの死体を見て感じる程度の認識なのだ。

 ぼーっとしていると、抱えているエリトが一人べらべらしゃべっている声がよく耳に入ってくる。今回はいつもの「彼女が~」ではなかったので、そのまま聞き流すことにした。

 「うわぁ、これはタラントだね。見た通り蜘蛛の魔物で、悪食で有名な奴だよ。雑食の上で大食いだから、成体になると一匹でも集落を襲うこともあるんだ。でも、これ程大胆なことをするのは珍しいね。知能は低いけど、さすがに砦を襲わない程度の危機感はあったはずだけど―――」

 いつものことながら、この石はどこから知識を得るのか。トワには理解できず、細目で手元の石を見下ろした。

 (でも、もしそうなら―――)

 トワの思考を遮るように割り込んできたエリトとの昼の会話。もう少し黙っていてほしいという言葉の意味。

 もしも、エリトがトワの予想通りの存在なら、イリスの傍に置いておいていいのだろうか?

 (危機感ってもんがない奴だからな)

 ドラゴンを目にして鳴き声について考え出す女だ。今だって、巨大なタラントに悲鳴一つ上げない。後ろにいるはずだが、いるのかどうかもわからないほど静かだ。

 (これでよく旅に出ようと思ったよな)

 数日一緒に過ごして、イリスの危うさを思い知った。ちょっとした谷間だって飛び越えられないほどどんくさいのだ。イリスに言わせれば「人間の女の子ならふつー」らしいが、それなら人間はよく生きている。―――だからこそ、快適に暮らすためにこういう集落をつくるのだろうが。

 せめて腰元まで伸ばした髪の毛と動きにくそうな服装をなんとかすればいいと思うのだが、イリスは「仕方ないのよ」と笑って変えようとしなかった。何か理由があるらしい。

 (そう言えば、イリスは旅をしているんだ?)

 トワは、イリスに誘われて王都に行くことにした。食事の改善が理由だ。

 エリトもイリスに誘われたようだが、あの石は聞く必要もなく「彼女」だろう。

 なら、イリスは?

 後で訊けばいいか、なんてトワは軽い気持ちでいたが、この時声を掛けていれば何かが変わっていたかもしれない。



 延々と続くかと思うエリトの解説が唐突に終わった。どこに転換期があったのかはわからないが、突然「―――で、イリス、今晩どうしようか?」という疑問となった。

 一人でも喋りつづけるエリトのおしゃべりが止まるとなると、トワが口?を塞ぐ強制終了か問いかけくらいしかないから当然と言えば当然だったと言える。

 「………………あれ?」

 考え込んでいるのか、いつまで経ってもイリスの返事が来ない。

 「イリス、イリスー? 考え込むのはいいけれど、何か反応してくれないと辛いよー。無視される辛さはやっぱり一人で百年も耐えているとよくわかるんだ。彼女もよく―――」

 もう彼女話は聞きたくなかったので、手早くエリトを押さえつける。

 「でも、こいつの言う事も一理あるぞ。これじゃあ、まともな食事には期待―――」

 できない、という言葉は続かなかった。

 振り返った先には、何故かイリスがいなかった。

 どくん、と心臓が跳ね上がる。

 (何も、何も言ってなかったはずだ。足音だって! 俺が聞きのがすわけがない)

 本来の姿より多少劣っても視力も聴力もやはり人外で、夜目だって利く。灯りのない夜だけど、トワには昼と大して違いを感じない。

 「トワ! どうしたんだ、トワ! 君が塞いでいちゃ、僕は何もわからないんだ。ちゃんと言っておくれ!」

 感覚的に違和感をおぼえたエリトが声を上げる。

 だが、トワは「どこへ行ったんだよ」と一言ぼやくと、エリトを放り出してアテもなく砦の外へと走って行ってしまった。



 ※※※※



 ごんっ、ごろんごろん……ごつん。

 石床に放り出されたエリトは転がり転がって、砦の壁にぶつかって止まった。

 ぐるぐる回る視界の端で、トワが外へと走って行くのが映る。

 「あーあ、みんな勝手だなぁ」

 誰より自分が一番自由思考なのは知ったことじゃない。

 「でも、若いうちは勝手なくらいがいいよね。僕も色々勝手したし、百年経ってだいぶん丸くなったもんだよ。でも、ちょっと困ったなぁ~。トワがあんなにイリスに必死になるなんてねぇ……彼、イリスが既婚者だって知っているのかな?」

 まぁ、それはいっか。と軽く放り出す。

 それよりも問題はイリスのいなくなり方だ。

 魔物に集中していたとしても、トワもエリトも気づかなかった。それがどれだけ異常なことか。

 「神隠しにでもあったのかなぁ? でも、有り得ないことじゃないよね。あー、イリス名前なんて言ったかな……あれ? 言ってなかったかな? うーん、でも、このままはまずいね。うん、本当まずい」

 エリトは真っ暗闇の中一人うんうんうなずいた。

 イリスのことも、トワのことも、色々と気になることはあるけれど、エリトにとっては何よりの問題が迫っていた。


 「二人とも、僕の事忘れてない?」


 逆さになったまま、エリトは荒廃した砦を眺めつづけることとなった。



今年中にもう少し進めておきたい。

せ、せめてこの章くらいは……

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