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第十八話 トワの森8

遅れましたが、な、何とか……。

この章書きづらい……。


 エリトに報告すると、たいへん喜ばれた。予想通りだが、トワはなんだか苦々しい様子だった。一晩ですっかりエリトが苦手になってしまったようだ。エリトが喋る度に口元がぴくぴくして、イリスはこの大型トカゲが小型犬にでも思えて仕方なかった。

 そして、さぁ行くぞ、という段階になって問題が発生した。

 「トワって王都に連れて行って大丈夫なの?」

 言ってから、そんな馬鹿なと思い直した。

 小さな丘一つが歩いているような巨体をまさか王都に連れ込めば、いやその前に、自警団冒険者剣士が徒党を組んで勇者よろしく討伐に乗り出すに決まっている。もれなくイリスはドラゴンをけしかけた大犯罪者として処刑台行きだ。エリトは珍品として見世物屋に売られるかもしれない。

 目に見える結末にイリスが眉を顰めていると、エリトとトワも渋い顔?でこっちを見てきた。

 「まさかとは思うけど……」

 「このままで行くわけがないだろう」

 エリトの言葉を引き継ぐようにトワが言った。

 「はい?」

 イリスが首をかしげている間に、どこからともなくぼわんと煙が湧きあがって、一人の人間が現れた。

 「え?」

 現れたのは、二十代も後半、精悍な顔立ちをした逞しい男性だった。ダークブルーの短髪、切れ長の目の中の銀色の瞳、確かめるまでもないトワだ。

 「…………どうして狩人姿なんですか?」

 「訊きたいことはそれか」

 呆れた口調で言ったが、丁寧に「最近あった人間なんて狩人くらいしかイメージできなかったんだ。お前と同じ格好をするわけにもいかないだろう」と答えてくれた。確かに。でも、裸で現れなかったのは幸いだが、リュックと剣のオプションがついたのは疑問だ。

 「でも、よく出来た変身ですね。母さんはよく失敗して、人面猫になっていましたよ」

 「…………」

 トワは答えなかった。想像してしまったのだろう。見たことのあるイリスは言える。かなりシュールで、笑うに笑えないものだ。むしろ、ちょっと怖い。

 代わりにエリトが説明してくれた。

 「魔術は基礎理論を理解してしまえば、後は魔力と想像力の問題だからね。ドラゴンの魔力は生物一だし、想像力で何とでもなるよ。イリスの御母君は、想像力が足りなかったんだろうね」

 「つまり、トワの想像力が足りなかったら、人面ドラゴンになっていた?」

 「そうだね!」

 「―――なるかっ!!」

 自信たっぷりに答えたエリトに、トワが怒鳴りつけた。

 (なるの? ならないの? え、どっち……)

 一般人に毛が生えた程度の知識しかないイリスに、魔術の理論も何もわからない。母の人面猫の件があるので、エリトが正しいように思えるのだが。

 「父親が人間だからならないんだ! ドラゴンの姿もこの姿も、そのまま俺だ!」

 必死に弁護しようとする姿は、やっぱりドラゴンのトワと変わらない。だが、見た目が変わっただけで随分印象が変わる。敢えて言うなれば。

 「可愛くない」

 イリスは勝手にトワの年齢を低く見ていた。人間で言うなら、十四、五。反抗期がきた子供だと思えば愛らしく思えたものの、それがジジよりも年上のお兄さんでは可愛いもへったくれもない。

 おまけに、お兄さんはお兄さんでもどこ行けば会えるのかわからないような、色気溢れる美形だ。褐色の肌や吊り上った眉目はどう頑張っても「カッコいい」の一言で、「可愛い」とは似ても似つかない。

 そんな男の人が、人面ドラゴンについて喚いているのだ。ちょっとがっかりだ。

 「まぁ、トワだもんね。仕方ない。行こっか」

 「俺に何を期待していたんだ。―――火を消し忘れてるぞ、危ないな」

 「さぁ、準備はいいかい? あ、トワ、君が僕をもっておくれ」

 

 


 ※※※※



 田舎にしては門の大きなお屋敷の並ぶ高級住宅街、ハウスト。

 長鎚を肩に担いだ男は、何度来ても慣れない風景に口をへの字に結びながら、その中でも一番の大屋敷の門をくぐった。

 顔なじみのメイドに一言断ると、向こうも放っておいてくれる。勝手知ったる他人の家とまではいかないが、それでもよく知った家だ。迷うこともなく奥まで進むと、一室のドアを叩いた。

 「どうだ?」

 主語も述語もあったものじゃないが、部屋の主には通じたようだ。むっすりとした顔を向ける。それだけで答えがわかる。

 「見つからないか。いったいあの馬鹿はどこへ行ったんだ?」

 自信満々に「頼んだよ」なんて言伝されたものだから、すっかり安心していた。一応、と予防線を張れば見事に引っ掛かり、その後はその予防線すら抜け出てしまったのだ。幼馴染の面倒事誘発体質を甘く見ていた、とカーダはジジから連絡をもらった時頭を抱えた。

 イリスが行方不明となって、既に五日。

 ふつうに街道を歩いていれば、何がしか目撃情報が入るはずだ。なにしろ、それを集めているのは交通の要を司る移送ギルドの支部長なのだから。

 (まぁ、あのイリスが“ふつう”にしているわけがないんだが……)

 イリスが伴侶にあの男を選んだ時点で間違いない。

 危機感とか安全性とか、生き物なら本能的に感じるはずのものをどっかに忘れてきたボケ娘だ。これまで生きてこられたのは、ひとえに自分たちのおかげだとカーダは自身を持って言える。

 「だけど、グシェルから王都に行く道は一本だぞ。どこをどうすれば行方不明になるんだ」

 ここ五日毎日ジジが睨みあいしている地図をカーダも睨みつけた。ギルドでも幹部でなければ持てない詳細な地図だ。

 射殺しそうな勢いでグシェルと書かれた文字周辺を見ていると、ふと、「トワ」という文字が気になった。

 「これ、森か?」

 「ああ、そうだな。トワの森。別名一度入れば出て来れない【永久の森】。現地じゃこっちの方が通りがいいな。狩人だって近寄らない場所だ」

 なんだそれは。

 広い平原を挟んでいるが、そのトワの森はソラドラの―――特に、カルナに近い。

 「討伐出来ないような魔物でも住んでるんじゃないだろうな」

 だとすれば見逃せない。たびたび春先にクマが入って来る森だという認識だったが、自警団で倒せないような魔物がいるなら国に討伐隊を要請しなければならない。ソラドラを頼まれた者として、見過ごすわけにはいかない。

 すると、どこか居心地悪そうにジジはもごもご何かを言い始めた。二十代も半ばを過ぎた大男がしていい動きではない。カーダはイライラとしながらジジを睨んだ。

 「なんだ、さっさと言え」

 年上だろうと遠慮のない男である。

 「あー、なんだ? ……ドラゴンがいるんだ」

 「ドラゴン!? なんでまた、そんなもん国は見逃してるんだ!?」

 それが本当だとすれば、ただ事じゃない。

 ドラゴンなんて、十回生きたって一度見るかってくらいの生き物だが、そうそう見逃して置けるような安全な生き物でもないのはおとぎ話でおなじみだ。昔、東の方で力の象徴として祀っていたがドラゴンの暴走で滅んだと聞いたことがある。洒落にならないことだ。

 「さぁな。ギルドには、近寄るなって厳命が下ってるくらいだ。嘘じゃないんだろ。嘘だとしても、国が何か隠してるものをわざわざ見に行って痛い目みたくもないだろ」

 「そうだな。宮廷魔術師の実験場を誤魔化すためって方がずっとわかる」

 「そうだろ? 庶民は何も知らないでいる方がいいってな」

 お前に言われたくない。そうツッコもうとしたが、敢えてカーダは何も言わなかった。

 アルザス家は領主の家系だ。ソラドラは彼らが治める土地になる。子爵位を持っていて、王都に行ってもそれなりに胸を張れる立場だ。

 それをあまり好ましいと思っていなかった幼馴染がいる。

 身分が原因で友達がなかなか作れず、真っ赤な顔をしてイリスに手を引かれてやって来た女の子のように綺麗な少年。

 もしかすると、ジジも自分の生まれを嫌に思っているかもしれない。

 剣を振り回すのが好きで、あちこち見て回るのが好きな男だ。アルザスの血縁者だからと押し付けられた移送ギルドの支部長という地位は、ジジにとって重荷でしかないのかもしれない。

 (お前さ、もし違う家に生まれていたら―――)

 そんな問いかけは無意味だ。カーダだって、モルツの家に生まれていなかったら鍛冶屋を継がなかったかなんて聞かれても困る。親の稼業を継ぐというのは子にすれば当然で、継がないのは継げない下の子供たちだ。

 (まぁ、酒でべろんべろんにした時にでも訊いてみるか)

 有名な彫刻『悩める人』みたいな風になってしまったジジを見て、カーダはそんなことを思った。とんだ世話焼き体質である。

 酒豪だからこそ出来る荒技だが、ザル相手には通用しないのが難だ。ジジはザルという程ではないが、なかなかの酒豪だからカーダもそれなりに覚悟しなくてはいけない。主に、財布を。

 「ふと思ったんだけどな」

 リリーに小遣い頼むか、と財布の中身を思い出して考えていた時だった。ジジが気になるクッションを挟んでくる。

 何だ、とジジを見れば、何とも言い難い渋い顔をしている。何を思ったんだ?

 「まさか、お嬢この森入ってないよな?」

 「…………」

 イリスの普段を思うと、カーダは否定できなかった。




ジジ、ご明察。

もう少ししっかり書きたかったんですが、「トワの森」はここまで。後々書き直します。


ストックがすっからかんなので、水曜日に更新できるように頑張ります。

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