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第十五話 トワの森5

 今日も、エリトとのんびり話しながらの冒険となった。

 とは言っても、冒険と言う程冒険しているわけでもない。ちょっと穴を見つけては覗き込んで凶悪そうな猫と遭遇したり、獣道に入っては蛇踏みつけそうになったり、といった程度だ。年頃の女の子なら悲鳴ものだが、生憎イリスはただの年頃の女の子じゃない。ソラドラの中でも田舎なカルナ育ちは、少々自然に強くなるのだ。冬眠開けのクマくらいじゃ驚かない。

 そんなおいたち(主に、夫をはじめとするその家族たちが原因)で、イリスは凶悪な猫と遭遇してもヘビを踏みつけそうになっても、平然とエリトと話していた。

 まぁ、一つ言いたいことがあるとすれば―――どうしてこうなった?


 「フィラディア王家の成り立ちは、面白いことに、その頃一番作物を作るのが上手だったということからなんだよ。武力や経済力、統率力なんかじゃないんだよ。大陸一の農業大国らしいと言えば、そうだけどね? でも、それだけで国は守れたものじゃないよね」


 何故か、街学校みたいなことになっていた。

 長く生きている分詳しいのか、歴史に関するものが多い。

 義務教育卒のイリスには難度が高すぎて、エリトから音楽のように絶えず流れ出る言葉に錯乱をおぼえた。

 しかし、そんなことを知らないエリトは、イリスの鞄の中からさらに授業を続ける。

 「フィラディア王家は、その作物を育てる知識を冬の神に奉げたんだ。代わりに、国を護れる魔法を与えてもらった。おかげで、冬にも作物が実るようになって、国も守れるようになって良いことづくしだね。これは、『フィラディア国史』にも載っているそれなりに有名なものなんだけど、どうして冬の神だったんだと思う? 作物と神様って言ったら、普通秋の神だよね? 収穫祭だって秋なんだかね」

 ぺらぺらぺらぺら。留まることを知らない石である。

 それ程早口でないことが幸いだが、指物イリスも少しばかり鬱陶しくなってきていた。

 「でね、諸説あるんだけど、これは大国との取引を言っているんじゃないかって言うが有力説なんだよ。冬って言うのは、武力は強いけど農業に弱い国を揶揄して言ってるんじゃないかって。よく考えるよね、わざわざ昔のことを。面白いと思うけれど、どうしてそんな過去の事ばかり気にするのかな。むしろ、もっと大切なことがあると思うんだよ! たとえば、愛とか!」

 ―――結局、そこに帰還するらしい。

 (でも……)

 冬の神と護国魔法。

 どこかで聞いたことがある気がするが、気のせいだろうか。

 しかし、どこかと考えても、どこも浮かばない。イリスが知りうるとすれば6歳から4年間だけ行われる義務教育でなのだが、教会で教えるのは簡単な読み書き算術おまけに社会と称したマナー講座だ。女子はなんたるか、男子はなんたるか、国民は国のなんたるか、と耳煩く言われるのだ。イリスは好きになれなかった。けど、不思議と女の子たちには人気で、「将来のために」と言って熱心に授業を受けていたのを憶えている。勿論、マイラは断固拒否で、授業中ずーっとイライラしていた。

 そもそも学のないイリスが知るはずがないのだ。

 (母さんかなぁ?)

 イリスの母は、田舎の魔法具屋の店主にしては知識豊富な女性だ。エリトのような博識と言うよりは、雑学マニアな女性でその知識は掃除の場で活躍を見せていたが。しかし、民話やおとぎ話の好きな女性だから、寝物語に語ってくれたのかもしれない。


 ―――そんなことを考えていたから、イリスは前方不注意になっていた。

 ずんずん歩いていたつもりが、突然ぽんっとざらざら高反発クッションに突っ込んでしまった。

 (? あれ?)

 思い返せば、今は森の中。そして、ぶつかるとしたら樹木くらいなものだ。

 よく見れば、自分の眼前は真っ暗で、しかし周囲は明るい。数歩下がったところにある変にひしゃげた樹が、イリスから一番近い木だった。大きな広場みたいなところに出ていたのだが、すっかりエリトに気を取られ、まったく気づいていなかった。

 (なんとなく、嫌な予感がする)

 長年で培ったイリスの勘が告げていた。

 カバンの中にいるエリトはまだ気づいていない。エリトには、イリスの右手を点に60度程しか視野がないらしい。

 (とりあえず、敵が何か知っておいた方がいいかな)

 ヒトではないし、感触的にクマでもない。二十年にも満たない人生で一番近しい感触は、ロージの家の壁紙だと思う。あの目の粗いざらざら感が一番近い。

 そろり、そろぉり、と一歩一歩下がって、十歩程下がってから、イリスは恐る恐る顔を上げた。


 

 ※※※※



 イリスは見つけた「お宝」に言葉を失くした。

 つややかなダークブルーの全体、大きな銀の双玉、息をのむ圧倒的な迫力と見るからに稀少性の高いであろうそれ。

 一国一城の主だってそうそうお目にかかれないであろう代物だ。まして、一般人のイリスになど、縁遠いものである。まず、一生の内に関わり合うことなどないとイリスは思っていた。

 そう、確かに、一攫千金の大富豪になれる。それこそ国一つ買えそうな目玉の飛び出るようなトンデモな代物だ。

 それが、今、目の前に。


 そして今、イリスの目玉も飛び出そうだった。


 「ど、どどどどど、ドラゴン―――!!」


 イリスの悪運は尽きそうにない。






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