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第十一話 トワの森1


 「永遠の愛なんてものは存在すると思うかい?」


 それ、いや、彼は突然そう問うた。

 「永遠とは『いつまでも果てしなく続くこと』だ。だけど、そもそも人は永遠じゃない。なら、永遠の愛なんて実在するはずがない。―――いやいや、僕は何も哲学的な話をしているわけじゃないんだよ。でも、たとえ人が永遠なものだとしても人は飽きる生き物だ。一人の人へ愛を向けることに飽きることがないとも言い切れない。―――おっと、勘違いしにでおくれ。僕は何も愛に否定的な人間じゃない。むしろ、全面的に肯定する。愛ほど素晴らしい物はない。愛こそこの世の真理! 愛無くして世界はない。言い切ってみせるよ。―――だからこそ、思うんだよ」

 にっと彼は笑った。いや、笑ったように見えた。

 それから、さらにもうもう一度問う。

 「永遠の愛なんてものは存在すると思うかい?」

 そして、さらに話を続けた。

 「まあ、今までの僕の言葉だと『ない』と答えたくなってしまっても仕方ないだろうね。でも、この世界から永遠の愛がなくなってしまっては、なんと味気ない世界だと思わざるを得ないことだ。だって、おとぎ話は終わらないし、恋愛小説は盛り上がらないし、恋人たちは神の前で誓うこともできないんだから。なんてつまらない世界になってしまうんだろうね。だから、僕はこうしているんだ。僕は永遠の愛を体現しているんだよ!」

 そう―――そして、彼はのたまった。


 「はじめまして、お嬢さん。僕はエリト。ここでもう百年永遠の愛を証明しているものだよ」



 ※※※※



グシェルの街での夜、イリスは大きな選択を迫られていた。

 街道を行くか、森を行くか。

 聞いた話は本当らしく、移送ギルドに確認を取れば、最低一か月待ちを言い渡された。既に馬車を確保している人への伝手か特別急ぐ理由があればすぐにでも王都行きの馬車に乗れるのだが、イリスはどちらにも当てはまらない。もしかしたら、ジジに頼めば支部長権限で割り込ませてくれるかもしれないが、それでは他の同じように待っている人に示しがつかないだろうと思い、その案を却下した。

 だから、イリスが取ったのは歩いて王都まで行くという方法だった。王都まではしんどいだろうが、多少道のりは長くても王都まで山もなく海もなく農地ばかりの平たんな道のりだ。野盗も出ない。昨日出たのだって相当珍しいのだ。出来ないことはない!

 ―――というわけで、街道か森か。イリスは拾った小枝に運命を託した。

 「どーちーらーにーしーよーおーかーなー」

 天の神様の言う通り。


 そして、神様の示した道―――森の入り口で、イリスは出会った。


 喋る石に。



 ※※※※



 「いやぁ、でもお嬢さんに出会えてよかったよ。愛を証明し続けることに何も不満はなかったんだけどね。それでも、話し相手がいないのがさびしくてね。独りはつらいんだよ? リスに話しかけようとも、リスの言葉はわからなくてね。鳥は僕なんかに構ってくれないし。どれだけ人に会えることを願ったか! 僕はウサギじゃないけれど、寂しさで死んでしまうかと思った。百年経ってようやく人に出会えるなんて! まさにお嬢さんは僕の救いだよ。―――お嬢さん、名前は?」

 永遠の愛について語ってから、ふと、喋る石はフレンドリーに尋ねてきた。

 「イリスよ。だけど、エリトはもう百年も誰にも会わなかったの?」

 和やかにあいさつを交わし、イリスは軽く頭を下げた。自分の両手に収まるほどの石は嬉しそうな声をあげ、「よろしくね~」と笑った。笑った?

 「残念なことに、僕の後ろにある森が原因なのさ。この森は【永久とわの森】と言われていてね。一度入ったら永遠に彷徨い続けるという触れ込み付きの森なのさ。おかげで、狩人さえこのそばをびくびくして通りかかるだけ。めったに人は来ないし、来ても森が怖くてさっさとここから離れようとする。そんな森の前にいる僕を気に掛ける人間なんていなかったんだ」

 ずぅぅぅんと沈み込む石。今にも泣き出しそうだ。

 (目も眉もついていないのにどうしてか表情がわかる。というか、口もないのにどうやって喋っているんだろう………?)

 深くは考えないでおこう。生命の神秘。この世の不思議。こんな広い世界だ。摩訶不思議なことは山ほどあるはずだ。

 「それこそ永遠の時だと思えたよ。寂しさを埋めてくれるのは、やっぱり愛でね。僕は彼女の愛だけでこれまでの日々を過ごしてこられたと言って良い」

 (彼女………)

 石にも性別はあるのか。

でも、目の前にある(いる?)石は「僕」と言っていることもあり、男性という感じがする。

 (きっと、雨か何かで隣り合っていた石が動いたんだろうね……)

 勝手な補正が頭の中に入り込んで、感動的な話に思えてきた。離れてしまった恋人を思い続ける。その愛情が決して薄れないと、一人恋人の帰りを待ち続ける。一つの恋物語のようだ。ただし、石だが。

 「時に、イリス。君が森に入るつもりなら、僕は全力で止めるよ。迷信なんて馬鹿らしいと思うけれど、迷信ができるには何かしらの理由があるものだからね。森に入れば彷徨い続けるというのは、磁場が特殊で方向感覚を狂わすのか、それとも凶暴な魔獣でもいるからだろう。森に入るのは止した方がいい」

 石が至極まじめなことを言っている―――なんて思わない。

 3歳児の寝言だって本気できくイリスには、相手が喋る石だって丁寧に聞く。怪しい宗教勧誘だって聞くだけ聞いて、「あたしそちらの神様とは気が合いそうにないです」と言って断るのだ。

 人並み外れて我が強いため、結局のところで人の話を聞いているのか怪しいのだが。

「大丈夫。天の神様はこっちだって言っているから」

「天の神様? 誰かは知らないけれど、信用なるのかい?」

「さぁ? でも、信用すれば信用で返してくれるって言うし」

 どういう理屈だとマイラならツッコんだ言葉だった。

 エリトも、イリスは少し頭の螺子が緩んだ女だと思う。


 「そうだね。もしかすると、財宝が隠されているから入ってほしくない権力者たちが言いふらしているだけかもしれない。これはチャンスだよ、イリス! 僕らは一躍大富豪だ。山分けしないかい? 僕はこれで彼女を探しに行ける!」


 ―――なんてことはなかった。というより、エリトも負けず劣らずのゆるゆるの頭をしている。

 どこをどうやったら、森から突然財宝が出てくるか。けれど、イリスの方も「いいね。あたし今仕事していないから収入無くて困っていたのよ」と鵜呑みにしていた。しかも、二人とも大富豪と言う割に贅沢をしようという考えは思い浮かばないらしい。

 「それじゃあ、早速森に入らないと。暗くなったら動けなくなるもの」

 「そうだね。善は急げ、だよ!」

 声を上げる石をイリスは持ち上げた。

 (う……)

 地味に重かった。

 「エリトは鞄の中に入ってくれる?」

 「そうだね! 僕は重いから、イリスの腕を痛めてしまうね」

 何気にフェミニストな石。うるさいけれど、その割に物腰?は柔らかい。なんだか残念な気がした。

 イリスはエリトを荷物袋にしまった。

 けれど、視界?を覆ってしまうのは申し訳なくて、それに呼吸?のことも考えて、上半身だけでも外が見えるようにしておく。

 「おおっ、急に目線が高くなった。身長が伸びたみたいだよ」

 「そう? 見えにくくない?」

 「いや、よく見えるよ。うん、楽しいね」

 「そっか。それは良かった。じゃあ、行こう」

 「そうだね。楽しい探検になりそうだ」


 そうして、二人?は永遠に彷徨うと言われる森へと入って行った。




お久しぶりです、約一か月半でしょうか。難産でした……。

やっと生まれてくれたので、更新再開します。前と同じように月水土の0時で。

さっそくおかしな生物?が出てきていますが、優しい目で見てやってください。

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