表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/24

第一話 旅立ち1

長編が苦手なので、完走を目標に頑張ります。

更新は週1~3回、0時に予約投稿予定。



 あなたが言う。

 「2年待っていて。2年で帰って来るから」

 あたしが言う。

 「約束破ったら許さないからね」

 そう言って、繋いだ手を離した。

 それから二人は笑い合った。いってらっしゃい。いってきます。掛ける最後の言葉は、まるで少し出かけるかのような気軽い言葉で。

 そうして、夫は出て行った。




 「って、2年過ぎているじゃない」

 お決まりの喫茶店で顔を突き合わすのは、幼馴染の一人、マイラ=サディだ。

 季節を無視したホット・カフェを上品に飲み干す。もう8月なのに暑くないのだろうか。

 「うん、明日でちょうど三周年」

 「のんきにそんなこと言ってる場合じゃないでしょう!」

 脳天にげんこつが落ちた。

 「痛い………」

 「馬鹿なことを言っているからよ。でも、まあいいわ」

 さっと肩で踊る切っ先整った髪を払い、マイラはニッと笑う。

 マイラが「イリス」とあたしの名前を呼び、手を伸ばしてきた。

 「あんな馬鹿と離婚して、あたしと暮らしましょう。第二の人生を謳歌するのよ」

 あ、また始まった。

 自立心旺盛なマイラの合言葉は、「男はいらない」。

 20歳という世間一般では嫁ぎ遅れに片足突っ込んだマイラは、その言葉通り自立した生活を送っている。都でも売れっ子のファッションデザイナーなのだ。年収なら街の同世代の男たちの軽く5倍は稼いでいるんじゃないだろうか。おかげで、道すがら男女関係なくふり返る程垢抜けたマイラだけど、おいそれと軟派な声を掛けられるような猛者はこの街には存在しない。

 長い付き合いの彼女が「あたしと暮らしましょう」と言うのはそう珍しいことじゃない。物心ついた頃にはもう言っていたし、その後も何かあるごとに言っていた。男性不信の気のあるマイラは、勿論、イリスが結婚する前にはしつこいくらいに誘ってきたし、夫が出て行って直ぐにも誘われた。

 (おじさんのことがあるからわかるんだけどね………)

 マイラの父親は、代表的なダメ男だ。暴力・アルコール中毒・借金の三重苦で、マイラが数年前までずいぶん苦労していたのを知っていた。死んだ時は不謹慎にも喜んでしまったが、その後半端じゃない借金が発覚したのには温厚なイリスも頭に血が上った。しかも、その借金を返すために働きつめたマイラの母親は体を壊して亡くなってしまった。

 それを思えば、マイラの男嫌いももっともな話だ。

 当時あまり力になれなかったことを悔やんで同居しようと思ったこともあったが、今のイリスにはその話に乗れないわけがあった。



 

 夫が出て行って、3年の月日が経った。

 フィラディア王国の南にあるのどかな街・ソラドラ。そこで幼い頃から共に育ってきた幼馴染である夫と、これ程長い間顔を合わせないのは初めてだった。

 母が営んでいた魔法具屋を引き継ぎ、結婚前から一人で生計を立てていたので経済的に問題はなかった。だが、15で婚約し、成人と認められ結婚を許される16歳になると同時に結婚したイリスにとって、夫は自身の多くを占める存在だ。

 その夫がいなくなって、3年。夫との思い出を糧にしても、その空虚な穴が目立ち始めていた。

 

 ―――耳の奥で、今も消えない言葉がある。

 

 夫は出て行く前に、2年待っていてほしいと言った。そして、その後、「でも」と続けた。

 『もし2年で戻らなかったら、その時は忘れて』

 その言葉がセリアの耳の中で反響する。声は心地よいのに、言葉は嫌な感じで不協和音を鳴り立てた。

 約束は2年だった。だが、その約束の日はちょうど1年前にやって来ている。

 出て行った男なんて忘れなさい。そう言った女性がいた。男は浮気する生き物だから仕方ないさ、とも。もうとっくにどっかに女でも作っているよ、諦めな、どうせ帰って来たりしない、なんてあけすけな物言いをする人もいた。いい人紹介するわよ。そう言って見合いさせようとする人もいた。イリスは次の冬で20歳になる。初婚には少し遅い年齢だが、そうは言っても女としてはまだまだ咲きはじめと言って構わない年齢である。状況的には夫に捨てられたようなものでも、イリスを妻にと望む人はいた。

 けれど、イリスはそれらを受け入れられなかった。

 夫は浮気などしていない。離婚する気もないのだから、再婚するなんて以ての外である。そう言っては、静かに夫を待ち続けた。3年もの月日を、たった数か月共に暮らした家出、一人静かに。

 でも、イリスにだって限界はある。

 そして、今が、限界だった。

 もう待っていられない。

 だから―――


 マイラ、とイリスは幼馴染の名前を呼びかけた。

 表情で気づいてしまったのだろうか、旧知の彼女は魅惑的な笑みを途端険しい表情に変えた。

 だけど、イリスの言葉は止まらない。ここ数年で一番晴れやかな顔で言う。


 「あたし、夫をむかえに行ってくる」





キャラクターが多いので簡易紹介。

増えてきたらまとめます。


主人公:イリス

19歳。既婚。魔法具屋経営。 

義務教育卒で学はないけど、頭は切れる方。ただ、天然が入っているので、螺子が緩むと大ぼけかます。自称温厚。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ