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第一話 月の精あらわる 後編

   

 アンジーは何も言えず立ち尽くしていた。

 そんな彼女を、キャサリンと取り巻きの少女達はクスクスと見て笑っている。

「あなた、学校をお辞めになったんじゃなくて?」

 キャサリンは片眉を上げて意地悪く聞く。

「それとも、仕事を探しに来られたのかしら?」

 そして声に出して笑い出した。

 アンジーは呆然としていた。彼女は何も変わっていない。まるで二年前にタイムスリップしたみたいだ。

 あの頃の自分に戻った気がした。いつもキャサリンの目の敵になって、嫌がらせを受けていたあの頃の・・・。忘れたくても忘れられない記憶だ。

(だから、学校には来たくなかったのよ。)

 黙り込んでいるアンジーに痺れを切らしたのか、キャサリンは命令でもするかのように大声で言った。

「お帰りなさい。ここは部外者は立ち入り禁止よ。」

「あんたになんか用はないわ。わたしはクリスに用事があって来たのよ。」

 キャサリンの高飛車な言い方に、ついカッとなってアンジーは反論した。

   

 キャサリンの目が獲物を見つけた蛇のように輝いた。

「嫌だ、恐いわ。急に大声を出したりして。」

「キャサリンさん、気を付けた方がよくってよ。」

「そうよ、暴力でも振るわれたら大変だわ。」

 彼女の取り巻きも調子に乗ってアンジーを馬鹿にして笑う。

 アンジーは真っ赤になって振るえてた。

 いくらアンジーが反論しても数で負けてしまう。

 数人で、彼女を取り囲んで攻撃されたら、彼女の声など掻き消されてしまうのだ。

 アンジーは諦めて嵐が去るのを待つことにする。キャサリン達も、その内飽きるに決まってる。

   

「キャサリン。」

 その時、誰かのよく通る声がした。

   

 アンジーが振り向くと、建物の影からクリスが出てきた。

  

 キャサリン達もそちらを見る。

 クリスはアンジーを見ることなく、真っ直ぐキャサリンに近付いた。

「君、こんな所で油売ってていいの?」

「何のことかしら?」

 突然話し掛けてきたクリスを、キャサリンは警戒して睨む。

「君のこと捜して、校長が校内を歩いていたよ。赤い顔してたけど。」

 クリスは彼女から目を反らさず言う。

「どういう意味なの?」

 キャサリンは眉を吊り上げてクリスを見た。

「さあ、僕には分からないな。ただ、校長は手に答案用紙を持ってたみたいだけど・・。」

 そこでクリスは、キャサリンを眼鏡ごしに見据えて笑った。意地の悪い笑みだった。

   

「ほら、この間のテストだよ。君が僕に答案を売ってくれと言った・・・」

「きゃああぁぁぁぁ!」

 突然、キャサリンが大きな悲鳴を上げたので全員が驚いて彼女を見た。

 彼女は取り乱したように騒ぎ出す。

「大変だわ。先生がわたしを捜されてるなら、お会いしなくてわ。皆様ごきげんよう。わたしはこれでっ。」

 そして、あたふたと校舎に向かって走る。その姿は上品でも何でもなかった。

 ポカンとしていた数人の少女が、キャサリンの消えた後を呆然と見送っている。それから、彼女達も気まずげにその後を追って行った。

   

 アンジーは声も出なかった。

 キャサリンのあんな顔は見たことがない。彼女は思い出してニヤニヤしてしまう。

   

「アンジー、笑ってる場合?」

 クリスが彼女を見てた。

「あらっ、わたしがいること、気付いてたの?」

 アンジーは嫌みっぽく聞いた。

(あんた、さっきはわたしを無視してたでしょ?)

   

 彼は、無表情で眼鏡を上げると息を吐く。

「当たり前だろ?君って本当に馬鹿だね。」

「なんですって。」

 アンジーがクリスの服を掴まえようと手を上げると、彼はさっと逃げた。

「で、何しに来たのさ。僕に会いに来たんだろ?」

「あんた、聞いてたの?」

 アンジーは驚いてクリスを見る。だが手は彼を掴まえようと動きを止めない。

「うん。」

 彼は彼女の攻撃をスルスルとかわして応えた。

「信じられない、すぐ助けなさいよ。」

 彼女は向きになってクリスを追い掛けた。

「助けてやったんだから、別にいいだろ。それにアンジーがそんな簡単にやられるとは思わなかったし・・」

「もう、本当にむかつく!一発叩かせなさい。」

   

 しかしクリスは彼女から遠くに逃げていた。

「嫌だね。あ、弁当ありがとう。じゃあね、アンジー」

 クリスはブンブンと弁当を振って校舎へと帰って行く。

 いつの間にか弁当を奪われている。アンジーは驚いて悔しがったが後の祭りだった。

   

   

   

 町の中を漂う潮の香りに誘われてアンジーは埠頭に来ていた。

 彼女は普段、昼間に外を出歩かない。今の時間帯はお店の中で忙しくしている。

 今日は母の言葉に甘えてゆっくりすることにした。

 もうすぐ、この町最大のお祭りがある。

その為か街中も港でもいつもより活気があった。

   

 港の中は沢山の船舶が停泊している。


小さい港町だが外国からの船も多い。

 船と港を沢山の人が行き交って仕事をしているのが見えた。

(ベンおじさんもいるのかしら。)

   

 働いている人々を避け、埠頭の中を移動して行く。

 春の暖かい風と煌めく波が心地よい。

 いつしかアンジーは懐かしい記憶を思い出していた。それは彼女の父親が亡くなる前のこと。彼女がまだ十才の頃のことだ。

 彼女の目に沖の方を渡る白い船が見えた。

   

(・・あれは、カモメ号に似てるわ。)

 船は太陽の光を浴びて輝く波間に隠れて見えなくなった。

 アンジーは船を探して目を凝らす。こうしていると本当にあの日みたいだ、と思いながら。

   

   

 アンジーの父親はこの港町で、小さな漁船の船長をしていた。

 船の名前はカモメ号、小さなアンジーが付けた名前だ。元々の名前は違うが、父はアンジーが付けた名前を採用してくれた。

 彼は体の大きな陽気で明るい人だった。アンジーは父の冗談によく大笑いしたものだ。

 彼女の赤毛も父親譲り。やっぱり彼女は父似だ。

   

 アンジーはいつも、朝になると帰ってくる父を、母とクリスと迎えに来た。そして一緒にアパートに帰っていた。

   

   

 アンジーは周囲をぐるりと見回した。あちらこちらに昔の自分の姿が見えるようだ。

   

 彼女は埠頭の行き止まりに来ていた。

 ここは、アンジーにとって悲しくて辛い思い出と、優しくて温かい思い出の、両方がある掛け替えのない大切な場所だ。

   

 父が亡くなったのはアンジーが十才の夏だ。

 その年はこの港に沢山の嵐がやって来た。

 その日も大きい嵐が町を襲っていた。父は家族が止めるのも聞かず、港に船を見に行った。必ず無事に帰って来ると言って。

  

(だけど父さんは帰って来なかった。)

   

 知らせを受けてアンジー達はこの場所に来た。そして海に向かって、大きな声で彼の名を何度も呼んだ。

   

 悲しくて辛い思い出だ。

   

 あの嵐の後、アンジーは毎日この場所に来ていた。いつか父親が帰ってくるような気がして、毎日ここで過ごしていた。

 他には何もする気が起きなかった。

 いったい、何日そうしていたんだろう。

 ある日アンジーは気が付いた。彼女の後ろに、いつもクリスがいてくれたことに。

 アンジーに付き合って、毎日側にいてくれたことに。

 アンジーはクリスに抱き着いて思い切り大声で泣いた。

 彼も小さな体を振るわせて泣いていた。そして彼女にこう言った。

「姉ちゃん、やっとこっち向いてくれたね。」

 それから涙の溜まった目を歪めてエヘヘと笑った。

   

 優しくて温かい思い出。

  

 あの時は小さなクリスに救われた。それは確かだ。

父親の死を受け入れることが出来たのも、あれが切っ掛けだったから。

   

 母もあれから前向きになれて、父が嵐から守ったカモメ号を売って食堂を始めることが出来たのだ。

   

 今ではこの場所は、彼女にとって父親そのものになっている。父の死を象徴するのではなく、陽気で明るかった父を思い出せる場所なっているのだ。

   

 それもクリスのお陰だ。

  

 だけど―――

   

(「姉ちゃん」と言って笑った、あの可愛い男の子はどこに行ったのよ。)

 アンジーはクリスの無表情な顔を思い出して、複雑な気分になった。

   

   

   

 食堂に戻ろうと歩み始めたアンジーは、見慣れた背中を見つける。

 広く大きい背中、彼女が見間違えるはずがない。

「ベンおじさーん!」

 アンジーが大声を出すと人影が振り返る。

「アンジーじゃないか。」 彼女の大好きな人、ベンが驚いていた。

 アンジーはベンの横に走り寄る。

「アンジー、何でこんな所にいるんだ?」

 ベンは不思議がっている。

「ふふ、おじさんに会いに来たのよ。」

「ええっ?」

 アンジーの言葉にベンは大きな声で叫んだ。心なしか、顔に大量の汗をかいてるようだ。

「冗談よ。」

 アンジーは剥れる。

(何よ、そんな反応しなくてもいいでしょ。)

「ねぇ、まだお昼じゃないの?」

 彼女は気を取り直して聞く。

「ん、これから昼だよ。」

 ベンはアンジーを見て笑った。彼女の大好きな笑顔だ。アンジーは満面の笑みを浮かべて彼に話しかけた。

「じゃあ、一緒にお店に行きましょうよ。」

   

   

   

「アンジー、随分ゆっくりしてきたのね。」

 お店に戻ると母のメアリが、厨房の中から目敏く彼女を見付けてきた。

 店内はちょうど昼時で物凄い人だ。メアリは汗をかきながら魚を焼いている。

「早くこっちに入って、手伝ってちょうだい。」

「分かったわ。」

 アンジーは急いで厨房へ向かった。

 すると、メアリがハッと驚く。アンジーの後ろにいるベンに気が付いたようだ。

「あ、港でベンおじさんに会ったの。おじさんも、お昼だから一緒に行こうって誘ったのよ。」

「そう・・・」

 メアリは、ぼんやりと返事をした。魚を焼く手が止まり焦げ始めている。

「母さん、魚。」

 アンジーが慌てて言うと驚いて我に返った。自分の手元を呆然として見ている。

「あら、やだ。焦げちゃったわ。」

 メアリは暫く焦げた魚を見ていたが、アンジーの後ろを見てにっこり笑った。

「まあ、いいわ。これはベンさんに食べてもらうとしましょ。」

 ベンが微妙な顔で笑うのをアンジーは不思議に思って見ていた。

   

「ねえ、ベンおじさん。」

 アンジーは昼食を差し出しながら彼の前に立った。

「なんだい?」

 気のせいか、ベンはそわそわしている。

「祭りの日なんだけど・・・」

「アンジー。」

 ベンは彼女を見て優しく微笑んだ。

「俺は、その日仕事が長引きそうなんだ。アンジーとは約束できそうにないな。」

「どうして?お祭りの日よ。皆早く仕事を終えるはずよ?」

 アンジーはベンの言うことが信じられない。

「そんなこと関係ない現場だってある。仕方ないんだ。おじさん一人の仕事じゃない。母さんから休みを貰えたんだろ?友達と楽しんでおいで。」

 ベンは彼女の頭を小さな子供にするように撫でながら言った。

 アンジーは無性に腹が立ってきた。子供扱いが癇に障る。

「わたしには一緒に祭りに行く友達なんていないわ。おじさんが来るまで、わたし広場の噴水のとこで待ってる。」

 ベンがアンジーの肩に手を置く。

「アンジー、俺は・・」

 だが、彼女は最後まで言わせない。断りの言葉なんて聞きたくない。

「わたし、ずっと待ってるから!どんなに遅くなっても待ってるから。」

 アンジーはそう叫ぶと厨房に逃げ込んだ。そして、誰の言うことも頑なに、聞かなかった。

   

   

   

   

   

   

 港町最大のお祭りの日の夜、アンジーは祭りのメイン会場の広場にいた。

 ベンに告げたように広場の噴水で彼を待っていた。

 今夜の彼女は精一杯のお洒落をしている。

 見事な赤毛は、少しのほつれ毛を残しアップにして白い花を飾っており、その髪が映えるように花と同じ白いドレスを着ていた。ドレスの上には同系色のストールをふんわりと巻く。唇にはほんのり薄くリップを引いていて、いつもより大人びて見えた。

 しかし、アンジーの顔色は冴えない。楽しみにしていたお祭りなのに心が沈んでいた。

 理由はこの前のベンの言葉だ。彼の返事が何度も頭のなかで甦る。

 その度にそれを否定してきた。

(ベンおじさんはきっと来てくれる。)

 そう信じて待つしかない。そして彼が来たらこの間の態度を謝ろうと心に決める。

(あんな子供っぽいことしてたら嫌われちゃうよね。)

 彼女は後悔していた。悲壮感を漂わせ辺りを見回す。

 周囲は祭りと人々の熱気で華やいでいる。どの顔も楽しげに露店などを覗いていた。

 彼女のいる噴水周りは大道芸をしていることもあり特に人が多い。

 アンジーはベンを目で捜すが彼が来る気配はなかった。

   

「アンジー。」

 どのくらい、時間が経ったのだろう。彼女の前に誰かが立った。

 アンジーはノロノロと顔を上げた。ベンでないことは分かっていた。

「クリス・・・」

 クリスは走って来たらしく息を切らして咳き込んでいる。髪の毛は乱れており額に汗をかいていた。

「父さんは来ないよ。」

 アンジーは何も言わない。

「待っても無駄だから。」

 彼は苛立つように再度言った。それでも彼女からは反応がない。

「いい加減にしろよ。」

 クリスが怒ったように叫ぶ。

「何よ。あんたに言われる筋合いはないわ。」

 遂に、アンジーが声を出した。彼女は怒りの為、体を震わせている。

「あるだろ。僕の父さんだぜ?アンジーのしてることは気持ち悪いんだ。」

 彼は吐き捨てるように言った。

「気持ち・・悪・い・?」

 彼女は目を見開いている。その目からは今にも涙が零れそうだった。

 クリスは驚いてアンジーを見た。

「あ、ごめん。言い過ぎた。そんな意味じゃなく・・て」

「クリスの馬鹿!」

 アンジーはその場から逃げるように走り出した。  クリスがすぐに追い掛けて来る。

「待ってよ、アンジー。」 彼女はその声を無視して走る。だが、人混みの中に見知った顔を見付けて足が止まった。

 後ろから追い掛けてきたクリスが急に止まったアンジーの背中にぶつかる。

「どうしたのさ、アンジー?」

   

   

 彼女の前方にベンがいた。

 彼の横にはメアリがいる。メアリは浮かない顔をしているがベンは彼女に笑顔を向けて話し掛けていた。

  

 その姿はとても親密に見える。お似合いの二人だった。

   

「あの、アンジー?」

 クリスが彼女を気遣うように声を掛ける。

「あんた、知ってたの?」「うん・・・」

 アンジーはクリスを振り返った。

「みんなして、わたしを笑ってたの?馬鹿な子だって?」

 彼女は涙が溢れてきた。「違うよ。馬鹿になんかしてない。」

「嘘つき。いつもわたしを馬鹿にしてるくせに。」

 彼女は再び走り出した。今度はクリスに捕まる気はなかった。

   

   

   

 アンジーは港の埠頭に来ていた。ここは祭りの会場ではない。だから人影も疎らだ。

 ごくたまに、男女の二人連れを見掛ける。

 アンジーは彼らを避けるように歩く。今の彼女には、恋人同士を微笑ましく思うゆとりはなかった。

   

(よくよく考えれば母さんの態度は変だった。それにベンおじさんは私に困ってたわ。)

 アンジーは泣きながら歩く。アパートに帰る気にはなれない。

 いつしか父の思い出の場所に着いていた。

 彼女はぼんやりと海を見る。街灯に照らされているので恐くはない。

 少しずつ気持ちが落ち着いていくのを感じていた。   

 その時だった―――。

   

「そんな所で何してるの?」

 誰かが声をかけてきた。   

 アンジーは、ゆっくり振り返る。

 そこには見知らぬ男の子が月を背に立っていた。

   

「ねえ、泣いてるの?」

 彼は何も言わないアンジーに近寄って来る。

 彼女は驚いて口が聞けなかった。

 こんな綺麗な男の子は見たことがない。

 月の光を浴びてキラキラと輝く金色に光る髪。美しい瞳は街灯を映しやはり金に輝いている。顔立ちは女性的なようで少年らしい凛々しさを備えていた。

 そして細く見える体は、薄いシャツごしに透けて以外としっかりしているのが分かる。

「大丈夫?」

 彼女を心配気に見てくる瞳。アンジーは目の前の少年から目が反らせなかった。

 彼は彼女が黙っているので何かを言い掛けて、「くしゅんっ」とクシャミをした。

「そんな薄着でいるからよ。あなた都から来たの?」

 アンジーは彼のシャツの腰に巻いてるジャケットを見て言う。

「その格好、都で流行ってるの?」

 彼はびっくりしたように彼女を見た。そして悪戯っぽく瞳を輝かせて笑う。彼女は心臓がドキンとした。

「そうだよ。都で流行ってるんだ。格好いいだろ?」

 アンジーは胸がときめくのを感じていた。

(あれっ?わたし確か、失恋したばかりよね。おかしいの。)

 彼女は自分の気持ちの変化に戸惑う。さっきまで消えてしまいたい程悲しかったのに。今はなんだか楽しいなんて。

「あなた祭りだからやって来たの?この辺じゃ見掛けないわよね。」

 彼は何も言わない。その表情は分かりにくかった。

 だが、月の光を纏ったように金に輝く髪と、灯を映して揺らぐ金の瞳がとても幻想的で不思議な感じがする。何となく人間じゃないみたいに。

 アンジーは思わず言ってしまう。

   

「分かった。あなた月から来たんでしょう?月の精じゃないの?」

   

 少年は眉を上げて驚いた。それから大声で笑った。

「ねえ、君。周りの人にいくつなのってよく聞かれない?」

 アンジーは顔が赤くなる。そんなこと言うのはクリスだけだ。クリスの顔を思い出して眉をしかめる。

「言われないわ。」

 少年は笑って見てる。彼女のことを知るはずがないのに、分かるとでも言いたげだ。

「わたしは十七よ、あなたは?」

 彼は少し首を傾げる。

「僕も、だよ。君と一緒だ。」

 小柄に見えたが二人の距離が近付くと少年は彼女より背が高かった。

 何となくアンジーは下を向いた。彼はいつの間にかすぐ前にいる。

「お祭りに行かないの?ここは会場じゃないわよ。」 少し離れて欲しくて聞いてみる。彼が本当に行ってしまったら多分傷付くだろうけど。

「そう言う君は?ここで何してるの。」

 だが、少年は彼女の前から動かない。彼に胸の動悸が聞こえたらどうしよう。

「わたしは・・・」

(えっと、何してたんだっけ?)

「ねえ、一緒に行こうよ。せっかく来たんだから、案内してくれない?」

 彼はそう言うとアンジーの手を取った。そして彼女の瞳を不安気に覗く。

「駄目かな?」

 彼女の心臓は爆発寸前だった。顔は髪の毛よりも赤いかもしれない。

   

「ううん、行こう。」

 アンジーは失恋の痛手から立ち直っていた。すっかり忘れてしまう程に。

「ねえ、あなたの名前を教えてくれない?わたしはアンジーよ。」

「僕は・・・マックスだよ。」

 マックスは月を見ると彼女を見て笑った。

「よろしく。」

 彼の瞳に月が映り込んでいた。とても惹き付けられる笑顔だった。

 ずっと見ていたい、彼女はそんなことを考えていた。

   

   


なんとか一話が終わりました。

月の精は人間のことでした。お粗末様でした。

二話以降には、じれじれになる予定なのですが・・。

読んで下さりありがとうございました。


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