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第零話 異世界への入り口

「もう三月だってのに何だよこの寒さは!!真冬並みじゃん!!」

いつになったらコート無しで登下校できるんだか、と艶やかな黒髪の少女が叫ぶ。鋭い緋色の瞳は病的なまでに澄んでいる。

「本当に今年は春が遅いねえ。ウグイスの声もしないし。」

20歳ほどの女性が少女にブルーベリーの紅茶を勧めた。その勧められた少女は半ばため息をつきながら乾いた喉に紅茶を流し込む。

「佳織って紅茶淹れるの上手だよねえ・・・。」

喉にだけ春が来たみたい。そんな感じだった。

誰もいない閑静な喫茶店のカウンターをはさんで二人の女性は会話を楽しんだ。

誰もいない喫茶店―――――それは唯一の安息の場だった。

瞳が赤いだけでなく普通の人には見えないもの――――例えば霊のような―――が見えるだけで周りから敬遠され続け友達など学校には一人もいない。親にも気持ち悪がられて捨てられた。そして佳織に引き取られて今の自分がある。

そんな忌まわしい回想を捨て藤波飛鳥は佳織に話しかけた。

「佳織、あれ何?」

飛鳥は随分使い込まれた木製の扉を指差した。一つだけ異彩を放っている。

「ああそれね・・・・。」

洗ったカップを拭きながら佳織は

「異世界への入り口かな?」

いたずらっぽい笑顔で言った。怪訝な表情をする飛鳥に言った。

「行ってみる?」

『行ってみる?』この言葉ほど飛鳥の好奇心をくすぐる言葉はない。小さな子供のように眼をキラキラさせながら、

「うん!」

満面の笑みで返事をする。

「じゃあ今日は閉店ね。」

カップを拭き終わった佳織は戸締りをするとその古ぼけた扉のノブに手をかけた。

「うわあ。」

目の前に広がる異世界に飛鳥の眼は釘付けになった。

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