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15/29

 長い髪の毛を片手で後ろに回すと、ヘアオイルのフルーティーな香りが車内に広がった。

 タクシーの窓から見える道は人で溢れていた。店の窓には『ゴールデンウィーク』の文字が大きく掲げられている。

 バッグからスマートフォンを取り出し、画面をつけると周囲が明るくなった。新しい通知には何も表示されていない。

 息を吐き、スマートフォンをバッグにしまった。

 事務所の前で降り、ビルを見上げると、窓が太陽の光を強烈に反射していた。

 

 撮影を終えてメイク室に戻った。

「詩織さん、今日はこれで終わりです」

 双葉のペットボトルを差し出す手に力が入っていた。

「ありがとう。お疲れ様」

「長かったですね。大丈夫ですか?」

 双葉が顔を近づけた。

「大丈夫よ。心配かけてごめんなさい。もう大丈夫」

「そうは言いますけど。詩織さん頑張り過ぎちゃうから」

 吹き出した。

「先生からも同じことを言われた」

「先生ですか?」

 双葉は首を傾げた。

「あ、病院にかかってるんですか?」

「いえ、違う先生。安心して」

 双葉は首を傾げたまま、口を尖らせた。

 

 事務所を出てタクシーに乗り込む。行き先を伝え、メッセージアプリを開いた。画面には二十六日の日付と「中森照彦です。よろしくお願いします」と表示されている。

 信号が赤になり、タクシーの前をたくさんの人々が移動していた。

 スマートフォンには白い棒線が文末に留まり点滅している。手が膝に落ちた。

 ホーム画面には「18:00」と表示された。短いメロディが鳴り、スマートフォンに「中森照彦」の文字が表示された。

「うわっ」

「どうしましたー?」

 タクシーの運転手が低い声で聞いた。

「あ、いえ、大丈夫です」

 シートから軽く腰を浮かせ、また座った。

『お忙しいところごめんなさい! 報告したくて』

 写真が数枚添付されていた。子どもたちと一緒に写る照彦と、粘土の作品の数々。追加のメッセージが届く。

『例の授業の作品が完成しました! みんなとても気に入っています。詩織さんのおかげで大成功です』

 指で唇を押さえた。前の座席に取り付けられたモニターには広告の映像が流れていた。

 指が画面をスライドする。

『ご報告ありがとうございます。みんなとても素晴らしい作品ばかりで感動しました。少しでもお役に立てたなら嬉しいです』

 送信ボタンをタップすると、すぐにメッセージが送られてきた。

『またシーグラスを拾うときにはお願いします!』

 口から笑い声が漏れた。

『もちろんです。その時はあのTシャツを着て伺います』

 今度は画像が送られてきた。メモ用紙に鉛筆で描かれたクラゲのTシャツ。その下には手書きで「クラゲ愛好会」と書かれていた。

「うれしい」

「どうしましたー」

 ルームミラーにはタクシーの運転手の目が映っていた。

「いえ、大丈夫です」

 素早くスマートフォンの画面を下に向けた。窓の景色は線となって通り過ぎていった。

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