異世界編 その2『状態把握』
目を覚ました。
そしたらそこは…
っていうかそこにはキツネさんがいました。
「キツネさん、ここどこですか?」
なので聞くことにしました。
「小鳥さんが倒れてしまったので、私が医務室に運びました。
倒れた原因は医者の方が来てから検討、ということで」
ハイ、と渡されたのはお茶…この世界の紅茶を受け取る為に体を起こす。
意識を失う、なんて初めてな体験だったけれどもう二度と体験しなくて良いし。
すんごく気持ち悪かったんだから。
まぁ今は多少ダルさが残るけれどもう問題ないし。
「ふぅ…目が覚めるとキツネさんの紅茶ですか」
「目が覚めるのにも気分転換にも良いではありませんか」
「あ、流せってことですね」
そのまま適当な会話をしていると、ドアが開かれた。
入ってきたのはやたら白いワイシャツを着ているオジさん。
その白さが不自然過ぎてちょっと引いたがそれよりも全体を見ると動き易そうな服装。
兵士の格好でもないし給仕の格好でもないし…誰だろう。
「目を覚ましましたか、管理司書長殿は」
「えぇ、もう大丈夫なようですよ、こうしてお茶しながら会話も普通にしてますし」
キツネさんは誰だかわかっているようで会話を交わしいている。
というか管理司書長殿ねぇ…案内役の兵士も司書長殿って呼んでたし役職で呼ぶのが
普通なのかココは…。
「キツネさん…」
誰なのこの人。そんな視線(合図)を送る。 軽く頷いてくれたので伝わっただろう。
「この医務室の医師、ヤンリさんです。 先程まで所用で医務室を空けてたのですよ」
「何、軍の宿舎まで病人の様子を見に行っただけさ。 仮病だったんで蹴飛ばしたけどな」
「…」
随分な見た目と反するオジさんだ。
爽やかだけど実際は真っ黒じゃないか、この人。
「さてと」
ヤンリさんは近くの机…コップや紙束が置いてあったり。多分この人の机なんだろう…から棒状のものを取り出して口にくわえ、長袖を肘まで大雑把に捲りあげると私がいるベットに腰掛けた。
私は手にしていた紅茶をキツネさんに預ける。
「調子はもう本当に良いんだな?」
「まだ体が少し重く感じますけど、歩き回れるくらいには大丈夫です」
「倒れた原因に心当たりは?」
「うーん」
異世界にやってきて呼び出されて水晶の間にいって勇者の本書いてって言われて…。
まぁ異変を感じたのは水晶の間に入ってからだよね。
「ミレシアン様に呼ばれて水晶の間に入った途端、すんごく気持ち悪くなったんです」
「ふむ」
「で、用事が済んで退出したすぐ後に気持ち悪さに限界が来ちゃって倒れたんですけど…」
「自分でも原因はわからないと」
だって倒れたこと自体初めてだし。
コクンと頷く。
「いくつか原因らしい事項が浮かぶがなぁ…管理司書長殿は『魔術』は使えますか?」
「まじゅつなんて…ないですね…」
きたきた魔法、じゃなくて『魔術』か。
ファンタジーな異世界出身じゃないですからーソンナノアルワケナイジャナイデスカ。
普通にそんなキーワードが出てくる時点で逃げ出したいがもうここが『ファンタジーな異世界』だもんな。
キツネさんの方を見る。
あぁなんか諦めな表情だな。だよね、一週間も前からココにいるもんね。
ベットに腰掛けていたヤンリさんはもう一度自分の机に向かい、何かを引き出しから取り出すと
引き返してきた。
「ちょっとコレ、手の平に乗せてくれ」
差し出された物を受け取り、見てみる。
材質が水晶っぽいが普段見かけるようなツルツルなヤツじゃなくてゴツゴツしてて
とてもじゃないけれど商品的価値がなさそう。
「乗せるだけでいいんですか?」
「『其の輝石を示せ』」
呪文のようなモノが唱えられた瞬間、体中からナニかがズルルと蠢いた。
原因だと思う手の平の石を投げ捨てたかったが体は固まったように動いてくれなくて。
気持ち悪さに冷や汗が額ににじむのを感じ、ほんの数秒だったけれど随分と長く感じた時間に
開放され肩のチカラを抜いた。
手の平から無色の水晶が転がり落ちる。
私の様子をじっと見詰めていたヤンリさんは口に棒状のモノをくわえたまま転がった水晶を拾う。
「ふむ…体が軽く感じないか?」
「え?」
指を動かし、腕全体を動かす。 シーツで隠れている足も軽く動かす。
あれ?
「さっきまでのダルさが全くないですね。むしろ軽い?」
寝ていたのがウソなくらい。
けれど二度の「気持ち悪さ」は覚えている。
ウソではない。
「んーやはりなー。 管理司書長殿、かなり重度の魔力拒絶症だな」
ふぁ、ファンタジーな病気ですと!?
医者であるヤンリさん曰く。
人には魔力を持つ者と持たない者がいる。 後者は魔力は空気的な扱いだが前者は
1人につき2つの魔力をもつ。 それは生命と同等の純粋な魔力と自身の属性色の魔力。
魔術の行使には色持ちの魔力、つまりは属性色の魔力が使われる。
では純粋な魔力は何の為にあるか。 ハッキリとは判明していない為有力な説となるが、それは魔力持ちの人間が生きるため、と言われている。
非視覚存在である『回路』…属性魔力が流衍、貯蓄している。体中に張り巡らされている…を生かすための魔力であり、いわば人間の第二の心臓部分である。
…色々ファンタジー来たなー。
さて。私に下された「魔力拒絶症」だけど…上記の設定には2つの魔力が共存しているのが前提。
だけどごく稀に属性色の魔力を持たない、純粋魔力のみを保有する人間もいる。
カレらは魔術行使のための魔力がないため魔術は使えない。
そしてその魔力は心臓としてではなく「貯蔵」として存在する。
回路を持つ人よりも遥かに大きい貯蔵を持つが、その中の魔力は人によって異なる。
しかし貯蔵が満タンになることはない。 それでも満タンになった場合に起きるのが
「魔力拒絶」。 まぁ許容範囲を超えた魔力に耐え切れなくて体に「異変」が起きるのだと。
手が震えたり気分が悪くなったり頭痛が起きたり…。
これでわかっただろう。
私は要するにそのごく稀にいる純粋魔力しか持たない人間で、水晶の間という魔力の吹き溜まりの場所にオルブライト国内で一番の魔力を持つミレシアン様がいたのだ。
入った瞬間に私の貯蔵の許容範囲がオーバーしたようで、気力で耐えていたが
部屋を出たところで倒れた。
「さっきやったのは中の魔力を使い切った『宝珠』でな、管理司書長殿の溜まった
純粋魔力を『宝珠』に籠められる分だけ移したんだ。
今は許容範囲内だから「異変」もないんだろう」
「その方法でしか私の魔力って減らせないんですか?」
魔力があっても何も出来ないっていうのなら空にしてしまえば良いけど、何度も
あの蠢いた気持ち悪さを体験したくないし。
「とはいってもなぁ…一般の魔力持ちの人間って純粋魔力が0(ゼロ)になると死ぬって
いうしな、正直言って純粋魔力を空にするのはお勧めできん」
「つまり?」
「満タンになる度に『宝珠』に純粋魔力を移す、それが一番ってことですか」
一緒に話を聞いていたキツネさん。
あ、そういえば紅茶預けっぱなしだったよね…温い紅茶を返してもらう。
「それも一つの方法だけどな、補佐さん。 安全性で言えばそれが良いけど他にもあるんだよ」
温くなったけれどおいしい紅茶を飲みながら、ヤンリさんの情報を聞くことになった。
帰宅。
といっても初めてな「我が家」。
国家管理司書長なんていう大層な役職な私だけど記憶している中での本日といえば…呼び出されて倒れて医務室直行、だけ。
その辺をキツネさんに聞いてみると「小鳥さん、本日の仕事を終えて一休みしていた所でコチラで目覚めたんですよ」らしい。
つまり、現実世界にいた時から私はコチラの異世界に存在していたと、キツネさんの上司で。
一週間異世界の「私」と一緒にいた、とキツネさん。
とっても聞きたいことがありまくりだけど王城内に徹夜用の仮寝室があるがちゃんと城下町の
高級住宅街、城に勤めている人たちの住居の集まりの中に「我が家」があるらしいので
仕事終わりの夕刻のため帰宅することになった。
王城に勤めている人、というのは貴族が多いのは勿論だけど庶民の数も少なくはないらしい。
まぁ給仕さんとか一般兵士とか。 そーゆー人用の合同宿舎もここら一体の中にあるらしく。
私も庶民なんでそういった合同住居かなーとは思ってはいましたが。
「ここが小鳥さんのお宅、です。」
貴族のソレと比べられると確かに質素だけど、立派な2階建ての洋館まるまるとは。
え、ナニ様?私サマ?
「…その辺もちゃんと調べましたので…取り合えず中に入りましょう」
異世界一日目、説明だけで終わりそうな感じです。
説明はなるべく書くようにしてますが全部書くと文が2倍以上になるんで、
小鳥視点で必要なところのみ書き出していく感じで。
そして主人公の小鳥の体質…元々決まっていました。
彼女にとって嬉しいのかもしれませんがね。