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その10 『タヌキとキツネがやってきた日』

5月21日 木曜日。

本日の「タヌキ堂」はとても静かです。

「……」

「……」

店内は私とキツネさんのみ。

タヌキ様は用事があるとかで本日はお店に来ないかも、とのコト。

まぁ実際この「タヌキ堂」に関してはほとんどキツネさんに任せているんで、

今日みたいに静かな日だとキツネさん一人でも大丈夫なんだとか。

…私の存在を否定された気がしたけど、あくまでお客さんが少ない場合であって

それは確証されないから本日のバイトを命じられました。


で。

来たはいいけど夕方になるとお客さんがいなくなってしまったのでキツネさん監視の下、

再度紅茶にチャレンジです。


最後の一滴まで。


前回よりは手つきが安定してきたけれど、やっぱりどうしてもキツネさんのようにはいかず。

それを口にしたら「当たり前じゃないですか。 私は毎日何年も淹れてきたのですから」と

自分の上司っぷりをアピールしてきた。

そして今回淹れたのは3人分。

まず1杯目を試飲用としてキツネさんがジャッジメント。

残りの2杯は私とキツネさんのティータイムへと。


本当に静かで平穏だ…学校とは違って。


大体今週くらいから。

これ以上深く巻き込まれるのは嫌なのであえて有希ちゃんと君島トオルについては

日記への書き込みを最低限に留めていました。

まぁ昨日君島トオルと強制お茶会inファーストフード店でしたが。

これはもぅ諦めるべきなのかいやそうじゃないとか内心葛藤があったけど、今日とある

出来事を目の当たりしたんで良い機会、書いてしまうことにします。

そしてこれは今日のティータイムのネタ。


どこかで書いたっけ?

私と有希ちゃんは互いの家が駅を挟んでいるので「要請」以来、登校の待ち合わせを駅のホームでしてるって。

今日もいつも通りの時間に出て、待ち合わせの場所に行きました。行きましたが。

何故そこに有希ちゃんと君島トオルが派手に立ち並んでいるのかと。


今週の月曜日。

昼休みの時間に何故か教室に取り付けられているテレビに有希ちゃんと君島トオルの街頭インタビューが流れました。

教室で友人とお弁当を食べていた私は「えー」と思いました。

だって。

学校中が祝福してんだもの。


今週の水曜日。

有希ちゃんがあまりの不調に早退した日。 

「あんなに悩むなんて…恋する乙女?」

…実は今日知ったことだけど…どうやら恋をしたことのない(ハズ)の有希ちゃんだから初恋で、

それがあの君島トオルだから戸惑って悩んでいるんじゃないかと思われたらしいです。 

周囲が早退を進めたのもあまりにも微笑ましいのと付き合っているのをからかえないから、

らしいです。マジかお前ら。 


今週の木曜日。

つまり今日。

有希ちゃんと君島トオルの二人を見た瞬間、私は隠れました。 そして時間になっても来ない私を

気にしながらも電車に乗る二人。 私も次の車両に乗り込む。

通勤・通学時間は大変混むので見つかる可能性は低いし、どうせ降りる駅は同じだし。

その後も見つからないよう安全圏からコソコソ登校した私。

そして校門にやっと到着すると、そこで新聞部と放送部の突撃インタビューが行われていた。

案の定昼休みにそのインタビューが流されているし、下校時間には号外だとかいって紙を押し付けるし。

良かった。

何をそんなに盛り上がっているのかはよくはわからないけど、有希ちゃんが私の教室には

来れないと悟り、バイトがあるので一人で帰らせてもらった。



そして平穏なキツネさんとのティータイム。


「真面目に書いたら今度こそキツネさんの言う間女的な感じになりそうですよね」

ハハハ。と乾いた笑いが口から出た。 正直だね、私。

「当の本人は納得してないのでしょうけど、それだけ周囲が盛り上がっていたら…無理ですよねぇ」

「盛り上がり過ぎな気もするけどね。 結局、戸惑っているだけで嫌じゃないんだと思うよ?」

本気で嫌なら有希ちゃん、今も君島トオルを斬り続けているしね。


紅茶にミルクを足す。

キツネさんがこの茶葉はミルクティーにしてもおいしいですよと言ったから試しに。

スプーンでかき回して、一口。 ミルクが多すぎた…。


「まぁこれでラブコメも終わりですか」

私がミルクッぽい紅茶に苦戦しているのをニヤリとしながらのキツネさん。

絶対のその笑いは今の私に向けてますよね。ラブコメに対してじゃないでしょ。

「終わりってか、これで一応落ち着くんじゃないですか?

 あとは有希ちゃんがちゃんと答えを出すだけなんですから」


ティータイムの終わり。

ごちそーさまでした!



日が暮れる頃。

二人組みのお客さんをキツネさんが対応していて、私はお店の前を掃除していた。

そろそろ閉める時間が近いので今いるお客さんで最後にしたいところ。

きっとキツネさんも同じだろう。


チリトリでゴミを回収していたら後ろに人の気配を感じ、振り返る。

「ヒナちゃん」

「あ、タヌキ様お帰りなさい」

「ただいま。 いやー、今日は青春を見ちゃったよ」

…いや、まさかね。

まさかだよね。

口元が軽く引き攣った。



深夜自室にて。


『5月21日 木曜日。 今日は晴天。けれど風がやや強めでお空に雲が流れていました。

 そして有希ちゃんと君島トオルが正式にお付き合いすることになったようです。』


…。

いきなり書いちゃったよ、どうしよう。

ボールペンを持つ手が空中で停止する。

結構無自覚だったけどインパクトが強かったみたいです。


はぁ…とため息をついて書こうとは思っていなかった部屋の新参者について、か。

陶器製の狸と狐。

タヌキ様からのお土産だった。

書くつもりなかったんだけどなー。




青春を見た、と爽やかな笑顔のタヌキ様と共に店内へ。

丁度中ではお客さんが会計をしようとしていたので私は掃除道具を持ちながらレジに。

配膳・ごみ掃除の他に手が空いているのならやってほしいといわれたのが実は会計。

まぁ単純操作だし、頭の中で何度もシュミレーションしたから大丈夫。

「ありがとうございましたー」


二人組みのお客さんを見送り、タヌキ様に先程の話を振る。

「青春って…道の真ん中で夕日をバックに告白でもしている人たちがいたの?」

何ですかそれとキツネさんが言う前に。

「よくわかったねー」

私とキツネさんの目が合う。

…もしや、ですよね。 おそらくそうでしょう…。

「近くで見てたとかじゃなくて遠くからちらっと見ただけなんだけどね」

けれどそれだけで告白とわかったと。


「タヌキ様、多分っていうか絶対それ、私の友人だわ」


このタイミング、そのシチュエーション…漫画な展開はあの二人しかいらない。

というかそれ以外にあってたまるか。

その後。

掃除も終えて帰ります、なところにタヌキ様が「今日行った所のお土産。僕がもらったんだけど、

『趣味』のモノじゃないからねぇ」と押し付けてきたそれが陶器製の狸と狐だ。

畜生、上司だしタヌキ様だし断れない。


そうして我が家、我が部屋にやってきた狸と狐。

出来栄えは素人目にも良いとは思うけど…女子高生の部屋では中々の珍獣っぷりを

晒してくれる。 ハッキリ言おう、浮いている。


例の本にはタヌキ様への「ありがとう」と陶器製の狸と狐は取り合えずな褒めを。

カキカキカキ。

終わり。


本日の書き込みは短い気もしなくもないが、書きたくないこと(学校でのこと)があるんだと感じ取って欲しい。

そしておそらく明日も有希ちゃんとは登校しないでしょう。


だって、全力で逃げますから。


そのためにさっさと寝ることにした私。

お休みなさい。



次のお話でラブコメ編はいったん終了です。


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