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07 救世主は本屋さん

DM男がいなくなったのを確認し、大学生のお兄さんと一緒にコンビニの駐車場へ出た。


「えーと、親御さんに連絡とかつきます?」


今日はお母さん日勤だから、暗くなるまで帰ってはこない。

一応電話は入れたけれど、この時間なら夏奈のほうが気づいてくれる可能性は高いと思う。


「母は夕方まで仕事しているので、この時間は出ない…と思います。でも、自宅は近いので歩いて帰れます…。近所の友達にもメッセージ送ったので気づいてくれれば来てくれると思います」

「わかりました。さっきの男、知り合いって感じじゃなかったと思いますが…」


顔も思い出したくもない。けど、同級生とかじゃなかったのは間違いない。


「えーと、今日学校の帰りに急に声をかけられて…。知り合いじゃないです」

「ですよね…。あ、すみません。私カネヒラといいます」


そういってお兄さんは財布から名刺を取り出し渡してくれた。


ーーーーーーーーーーーーーー

株式会社メイティ―ブックHLD

店舗事業部 雨宮書店 店長

兼平 啓介

ーーーーーーーーーーーーーー


あまみや…書店。あ!知ってる、あそこの本屋さんだ。

っていうか大学生かと思ったらもっと大人だった…。


「あ、ど、どうも…」

「あまり深く事情はお聞きしませんが、身の危険を感じるようならすぐ警察に相談した方が良いです。

お友達が来るまで、私はコンビニの中にいますのでもしまたさっきの男が来たら中に逃げてきてください」

「あぇ…えと…お気遣い頂いてありがとう、ございます」


正直、この提案はありがたい。

今は男の人が近くにいるっていうのがちょっと怖い。


そうこうしていると、メッセージに気づいてくれた夏奈からちょうど返信が来た。

コンビニにいることを伝えるとすぐこちらに向かうと言ってくれる。


「あ、あの。今、友達から返信があって10分ぐらいで来れるそうです。なのでここで待ってます」


「連絡がついてよかったです。わかりました。では」


兼平さんはそういってコンビニへ入っていった。

まだ少し手が震える。


それから十数分経ち夏奈がコンビニへ駆けつけてくれた。

部活の休憩時間にメッセージを見た夏奈は、顧問の先生に言って練習を早退して駆け付けてくれたらしい。事情を話すと夏奈は驚くのもつかの間目に涙を溜めながら私に謝ってくる。


「うわ…マジか…ごめん有希。本当にごめん。あたしが配信に誘ったばっかりにこんなことになっちゃって…」

「ううん。違うよ!夏奈のせいじゃない!!そりゃお互いちょっと無防備だったけどさ…夏奈が悪いんじゃないよ、だから謝らないで?」

「ごめん、ありがとう。しばらくはなるべく一緒に帰ろう?あたしパパとママにも相談してみる。有希のこと二人とも本当に大事に思ってるから、何かあってからじゃ遅いもん」


夏奈の両親は私が家に遊びに行くといつもニコニコと話しかけてくれて、晩御飯食べて行きなと誘ってくれる。何かと私のことも気にかけてくれる大好きな二人だ。


「ありがとう、夏奈。でもあんまり心配かけたくないから本当に気にしないで?それに夏奈の顔見たらなんか元気出てきた!」

「…ほんと?…有希は私が守るから!」


イケメンか!


「んーそれはもうちょっと身長伸びてから言ってほしいかな?笑」

「あー!身長は禁句!!もうー!!」


ちょっと無理やりだけどいつものテンションに戻す。


「あ、夏奈ちょっと待ってて!」


私はコンビニの中へ。

店長さんへちゃんとお礼が言いたい。


「あ、あの、友達来てくれたのでもう大丈夫です!

今日は本当にありがとうございました…!兼平さんがいてくれて助かりました!!」


「いえいえ、羊ヶ丘の学生さんはよくウチのお店を利用してくれますから。困っていたらほっておけませんよ。」


世の中、いいひともいるんだ。

さっきは怖くて泣きそうだったけれど、今は何だかよくわからない気持ちで泣きそうだ。

でも、この感じ…嫌じゃないな。


「あ、あの…こ、今度本屋さん、遊びに行ってもいいですか!?」


「えぇ、ぜひご来店ください。お待ちしてますね。」


そういって店長さんはほんのりと笑ってくれる。

その顔を見た途端、私の心臓の鼓動が早鐘を打つ。なぜか急に恥ずかしくなった私はガバっとお辞儀をすると店長さんの顔を見れないまま夏奈のところへ戻る。


(あ、あれ!?ど、どうしちゃったんだろう…!)


「どしたの?顔赤いよ?」

「な、なんでもない!帰ろっ!」


そういって夏奈は私を家まで送ってくれた。


家に着くと、急にどっと疲れが押し寄せてきた。

自分の部屋に入ると、ブレザーを床に投げ出しそのままベッドに倒れこんだ。


「はぁ…。疲れた」


しばらく枕に顔をうずめて深呼吸をする。

目の前が真っ暗になると、追ってきたDM男の声を思い出しそうになった。

やだやだ、今日のことはもう忘れるんだって。

楽しいことを考えよう。そう、楽しいこと…。


ベッドから体を起こした私は、なぜか少し緊張しながらブレザーのポケットにしまった名刺を取り出す。


「兼平啓介さん…か」


もし…もし、あそこに兼平さんがいなかったらどうなっていただろう。

想像するだけでも悪寒が走る。脳裏に浮かぶのはニヤニヤと私に話しかけてくるDM男の姿。

顔にはモザイクがかかったようにぼやけているが、粘りつくように話しかけてくるその声は嫌でも頭の中で連続再生される。


私はたぶん男性が得意ではない。幼くして父を亡くしているというのもあるけれど、同級生以外の男性と話す機会があんまりなかった。特に年上の男性ならなおさらだ。


ただ、最後に兼平さんにお礼を言った時の、彼の表情、声を思い出すとなぜか安心できる。

同じ年上の男性なんだけれど、こうも違うのはどうしてだろうか。

あそこのコンビニによく来るのかな。本屋さんの店長ってことは頭がいいのかな。そんなことを考えていると自然と心臓の鼓動が早くなる。


(もう一度…会って。もう一度ちゃんと、顔を見てお礼が言いたい…)


っていうか、家に帰ってから気づいたのだけど、あたし名乗ってないよね。

助けてもらったのに…。


「そうだ!!!」


ベッドから勢いよく起き上がるとスマホを開きブラウザアプリを起動する。

検索する文字を入力。


雨宮書店 アルバイト


ホームページの中に採用情報と書いたリンクを見つける。

光の速さでタップすると「募集中」の文字が。


(よし!これだ!!)


豊平有希、中学を卒業して免疫を獲得したかのように思われたが…。

実に2年ぶり。そう、恋の予感である。

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