06 DM凸男
ホームルームが終わり、みんなが帰り支度を始める。
(私もそろそろ帰るかー)
「じゃぁ私帰るね!バイバイ!」
「ほーいまた明日ー」
みんなに手を振り教室を出る。今日、夏奈は部活があるので帰り道は1人。
ちなみ夏奈はバスケ部。小柄だけど俊敏性と意外性がウリのポイントガード。と本人が言ってた。ウチのバスケ部は県大会に出るくらいのそこそこのチームだからああみえて夏奈は体力がある。
バスに乗って少し経つとスマホに通知が表示された。
(DM?)
taktokのダイレクトメールの通知。最近はまた友達の投稿を見るために時々ログインするようになり通知もONにしていたのだけれど、知らない名前からのDM通知をみて嫌な記憶を思い出す。
これは…見ないでおこう。通知もOFFだ。
自宅最寄りのバス停を降りると、不意に前から歩いてきた男に話しかけられた。
「あ、ゆきちゃんだよね?やっぱこの時間だぁ…。」
「あ、あの…どちら様ですか…?」
「なに改まっちゃって(笑) 配信見てたよぉ?何度かDMも送ったじゃん」
DM…!もしかしてあの写真の送り主はこの人!?
うわ、こいつはやばいやつだ。
「わ、私急いでるんで!」
小走りでその場から逃げ出す。
とりあえず、どこか人のいる場所へ。
よし、あそこのコンビニへ入ろう。
自動ドアが開くと流れる音楽が妙に無機質に聞こえる。
私は自分が来た方を振り返る。男は追って…来てない。
(うー…。なんなん怖いって!!)
どうしよう、お母さんはこの時間仕事で電話出られない。
とりあえずかなに連絡。もう部活始まっちゃってるかな…。
メッセージアプリを開いて音声通話をかける。
(お願い出て…!)
コールはなるけど…出ない。他の友達にともう一度スマホを操作しようとした視界に端に、コンビニのガラス越しにあの男が道路の反対側を歩いてるのが見えた。ハッとして眼の前にあった雑誌を手に取り顔を隠す。今年のモーターショーはホットハッチに注目?そんなことどうでもいいよ!
(気づかれませんように…!)
祈るように雑誌をつかむ私の手は小さく震えていた。
どのくらいそうしていただろうか。
ゆっくり顔あげて外を見渡す。あの男は……どこか行ったみたい。よかった。
「はぁ…」
…ビリ。
(あ!)
強く握りすぎて手に持っていた雑誌のページが破れてしまった。
「あ…」
え?コンビニでやまびこ?
私が雑誌のページを破ると同時に聞こえた声に振り返る。
スーツ姿の大学生?が私の手元を見ていた。
「あ、いや、すみません…。
その雑誌、読もうかなって思って」
今気づいたんだけれど、私が手に取ったのは車の情報誌だったらしい。
艶っぽいおねえさんがボンネットにしなだれるように寄りかかる表紙はおよそ女子高生が手に取るとは思えない類の雑誌だ。
「え、あ、ごめんなさい。ど、どうぞ!
っていうか私ページ破っちゃった。
店員さんに謝って買ってきます」
さすがにこれは買い取らないとだよね。って言ってもどうせ読まないし買ったらこのお兄さんにあげちゃえばいいや。
「あー、いやいいよですよ、それ僕が買いますから。
っていうか大丈夫ですか?手震えてるし…顔色も悪いし。救急車呼びます?」
(え?手?)
ふと自分の手を見ると。小刻みに震えていた。
だ、大丈夫だって私!頑張れ!
「い、いえ…大丈夫です。あはははは。
これ、買ってきますね…!失礼します」
雑誌をレジに持っていこうとしたその時だった。
追ってきていないと思ったあの男がコンビニの入り口に立っていた。
「ゆきちゃん。ここにいたんだ。DMの返信もないし探したよぉ?」
「っ!?」
「ちょっとお話したいんだけどだめかな?今日は髪型違うんだね。羊ヶ丘の制服やっぱかわいいなぁ…。」
一瞬で冷や汗が噴き出す。
こいつ…いつの間に。
「あれ?どうしたの?いつもみたく笑ってよー。
そっちのほうが可愛いよ?そうだ、写真撮ってもいい?せっかく会えたから嬉しくってさぁ。」
また手が震えだす。怖い。手足が冷たくなって痺れてきた。
人って本当に怖いとマジで身動きとれなくなるんだね。
「あ、それとも場所変えておしゃべりする?近くに喫茶店あるしあそこいこうか?ほら、おいで?」
私の手を掴もうと男の腕が動く。
逃げなきゃってわかっているのに頭の中が真っ白で声も出せない。
男の手が私に触れようとしたその瞬間、ふいに後ろに居た大学生が私と男の間に体を割って入る。
「あの、すみません。この子のお知り合いですか?」
「は?誰あんた」
「えーと…職場の上司です。彼女のアルバイト先の」
(ち、違う…けど…)
「だ、だから何なんだよ…!お、俺が今有希ちゃんと話してるんだから邪魔すんなよ!!!」
「彼女、今日体調が悪くて。これから親御さんに迎えに来てもらう途中なんすよ」
「は、ハァ…?マジでなんなんだよお前…!」
男が声を荒げる。騒ぎを聞いてかコンビニの店員さんが駆け付けた。
「あのー、お客様、何かございましたでしょうか…?」
「…ちっ…顔出し配信してるビッチのクセによぉ…」
第三者が駆け付けたことで分が悪いと思ったのか、男は速足でコンビニから出て行った。
「店内で騒いでしまい申し訳ございませんでした。ちょっと人違いで声をかけられたのですが、解決いたしましたので」
「あぁいえ、何もなかったのであればよかったです」
店員さんへ事情?を説明しているとレジを呼ぶベルが鳴る。
その音を聞いて店員さんはレジへ戻っていった。
「あのー…大丈夫…ですか?とりあえず私たちも出ましょうかね…?もうあいつもいなくなったようですし」
「…はい」
はぁ…目の前がちかちかする。
私は大学生の後についてコンビニの駐車場に出た。