02 JK書店員 豊平有希
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(はぁ……“可愛い”だなんて、急に…びっくりしたぁ…
私、今絶対赤くなっているよぉ…。)
倉庫は薄暗いから赤面してしまったのはバレていないと思うがそれでも急にあんなことを言われて動揺したのは間違いない。
私は豊平有希
高校2年生の16歳。
現代文の成績は中の上。古典は中の下。
“をかし”と聞いて「お菓子?」と素で間違う程度には文学や書物とは縁遠い人生を送ってきた。
本屋さんなんて年に数回行くぐらいでどちらかというとカフェやアパレルショップを友達と冷やかすことのほうが圧倒的に多い、そういうタイプの人間だ。
そんな私が何で書店でアルバイトなんてしているのかというと、
まぁ色々あったのだ。色々。
「はぁ…てんちょ、やっぱり気づいてないのかなぁ…」
幾ばくかのもやもやした気持ちを抱えつつも倉庫から店内に移動してきた私は、参考書売り場にいる桑園さんに声をかけた。
桑園さんはこの書店で10年以上パートさんとして働いているみんなのお母さんみたいな人。
実際に小学生と中学生のお子さんもいて、休みの日に時々家族で遊びに来たりしている。
「桑園さん、お待たせしました!
月刊誌の返本終わったので次のお仕事バッチコイです!」
「あら有希ちゃん、早かったわねぇー。
それじゃあの本を売り場に出してきてもらえる?」
そう言って桑園さんは近くにあった移動式のラックに乗った数十冊の本を示す。
売れて補充注文していた参考書の類だ。
「らじゃっ!」
シュタタタタ!と効果音が聞こえそうな足取りでラックへ向かい、参考書売り場へ移動させる。
大学入試用の問題集や、資格の勉強用の参考書などを棚に差し入れていると桑園さんがニコニコしながら近づいてきた。
「有希ちゃん、今日は水曜日だからいつも以上に元気ね…ふふ」
そう楽しそうに言われると恥ずかしさがこみあげてくるが水曜日でテンションが上がっているのは事実なので否定できない。
「えへへへ…///」
今日この後のことを想像すると自然と相好が崩れてしまう。
そう、今日は水曜日!
土日までまだ2日間残ってるー、とか
不動産屋が休みだー、とか
そんなことはどうでもいい。
「店長も今日は閉店まで居るものねぇー、ふふ」
わわわっ!
く、桑園さん!急になんてことを言うの…!
「く、桑園さん…っ!てんちょに聞かれたら…!」
「あら、店長ならさっき休憩に出ていったから大丈夫よ~」
危ない危ない。ならよかった。
……よかったのかな??
コロコロと感情のジェットコースターを走らせる私に向けて今度は少し険しい表情になった桑園さんがこっそり私に言う。
「…その…最近はもう帰り道、大丈夫そうなの…?閉店までのシフトだと21時ぐらいになっちゃうでしょ…?」
桑園さんがこう言うのにはワケがある。
遡ること3か月前。
ちょうどこの書店で働き始める直前に、ちょっとした事件があったのだ―――