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18 名寄さん、桑園さんとの作戦会議

書店でのアルバイトを始めて今日で10日目。

なんだかあっという間だ。


まだ緊張はするけれど、桑園さんや名寄さんをはじめみんな優しくて穏やかな人ばかりだから不安は全く無い。


放課後、学校から直接職場に向かった私は、少し早く着いたこともありカフェスペースでお茶をしばいていた。カモミール・オレンジティー。いい香り。


端っこの席で一息ついているとちょうど名寄さんと桑園さんも休憩だったようで、私を見つけると同じテーブルに来て話しかけてくれる。


私のことを色々聞いてくれたり、桑園さんがお子さんの話をしてくれたり。

桑園ジュニアの夢は歌って踊れるVチューバーなんだってさ。そこ、アイドルじゃないんだね。


そんな感じで他愛もない会話をしていた。

そこまでは良いのだ。


「あ、そうだ桑園さん、聞いてくださいよ。」


ブラックコーヒーを片手に、今までほとんど相槌しか発していなかった名寄さんがふと口を開く。


「どうしたのぉ?」

「豊平さん、桑園さんの予想通り、店長のこと好きなんですって。」


爆撃である。

超高高度爆撃。


何を言い出すだろうかこの人は!


「あらあらぁ…まぁ…!」


桑園さんも俄然興味津々である。


「ちょ、ちょっと名寄さん!きゅ、きゅ、、急にな、なにを言ってるんですかぁ!?!」

「あら?違うのかしら?」


否定したい!

けど、できない!


「ち、違……わ……ない…ですけど…でも!」

「でも?」


いや好きとかそういうのかはわからなくて!

どちらかというと恩人であって…!


「す、すごく素敵な人だなぁ…と!」

「ふーーん?

 桑園さん、聞きました?どう思います?」


桑園さん!桑園お母さん!助けてください!


「有希ちゃんは店長のどこがそんなに好きなのぉ?」


僚機による追撃!二投目!投下!


ど、どこが好きと言われても…


「好きじゃなくとも、素敵だと思っているのでしょう?どんなところ?」


お母さんだと思っていた桑園さん。

ゴリゴリである。


「えーと…穏やかで接しやすくて?お父さんみたい…だからですかね…」

「あなたその年でファザコン?」


鋭利な名寄さん。


「ふぁ!?ち、違います!!わ、わたし…母子家庭なのでお父さんっていうのがあんまりわからなくて…。もしお父さんがいたらこんな感じなのかなって。」


あくまで想像。

なんとなく、漫画やドラマで見るお父さんのイメージと店長を重ねてみたことがある。


「ごめんなさい、配慮に欠けたわ。」

「い、いえ、学校でもみんなに言ってますし、そこは全然気にしないでください…!」

「ごめんね、ありがとう。でも、父親なんてそんなに良いものかしらね…。」

「あら?玲ちゃんはお父さんと仲良くないの?」


名寄さんは大学入学と同時に一人暮らし。実家は電車を乗り継いで2時間ぐらいだそう。


「ウチは別に良くも悪くも普通ですよ。時々うざ絡みされるのがイラッとしますけど。」

「どこもそんなもんよぉ。うちの上の子も中学生になった途端にツンケンしてるもの。」


お父さんって、あんまり好かれないものなの…?


「でも、豊平さん、入社直後から店長LOVEよね?一目惚れってこと?」

「えぇ…!?そ、そんなにわかりやすいですか!?わたし…?」


自分の中では、どちらかと言うと店長を避ける…とまではいかないが話すとテンパってしまうので仕事の報告以外でこちらから話しかけることはほとんどない。


「ふふふ…女同士はわかるものよぉ♪」

「明らかに他の人と接するときと違いますよね」


なにそれ!?こわっ!


「ど、どんなところですか…?」


「そうねぇ…例えば普段は話しかけるとまず相手の目を見るのに、店長と話す時はまず少し俯くとか?」

「っていうか豊平さん、すぐ顔赤くなるし」


な、なんですと!?

バレてる…?もしかして…店長にもなんだお前その態度は。このちんちくりんめ。って思われてる?


「な、なんという……え、あの…ってことは店長にもそういうのバレてるんでしょうか……」


それだけは…どうしたら……!?


「店長ならたぶん大丈夫よ。そこまで女の機微を見分けられるとは思わないもの。桑園さんはどう思います?」


「そうねぇ…確かにぃ…。あ、そういえば私店長がここに赴任してきた直後に聞いたことあるのよぉ♪」


「な、何をですか?」


「彼女いないのぉ?って」


「そ、それで!!!店長はなんと…!?!?」


「食いつくわね」


……はっ…!いけない…つい…。


「す、すみません…」


「ふふ……♪曰く、転勤と仕事ばっかりしてたらプライベートの時間での女性との関わり方がわからなくなったそうよ?悲しいこと言うわよねぇ…」


「そ、そうなんですねー……そっかぁ……」


「露骨に安心したでしょ」


ば、バレてる……!


「い、いえ!そんなことは…」


「それで、結局有希ちゃんは一目惚れなのぉ?」


うぅ…そこに戻ってくるのか…!

でも、この2人になら話してもいいかなぁ…?


「え、えーと、実は…」


そう言って私は入社前の出来事をかいつまんで2人へ説明した。LIVE配信で調子に乗ったこと。帰り道にちょっとしたストーカー?の被害に遭ったこと。それを店長がたまたま助けてくれたこと……。


「そんなことがあったのぉ…。今の時代、色々怖いのねぇ…。」

「今はもう、大丈夫なの?」


今のところ、帰り道は平和だ。


「は、はい。一応、防犯ブザーとか、すぐに緊急通報できるスマホアプリとか入れたりしてますし、今のところ大丈夫です。遅い時間に一人で帰るのはちょっとだけ不安になるんですけど…」


お母さんにもきちんと出来事は話した。

夏奈や親しい友人にも共有している。

何かあればすぐに警察や友人に連絡するつもりだ。


「ふふ、でも店長、優男のは知っていたけれどあれは元々の性格なのねぇ♪」

「そうですね。豊平さん、素敵な人に恋できてよかったわね?」


な、なんか恥ずかしい!

っていうかなんか恋ってことになってる!

…けど、自分が素敵と思っている人を褒められるってなんか嬉しくって勝手に頬がニヤけてくる。お前は店長の何なんだって話だけど。


「え、えへへ…そうですかねぇ…?ふへへ…」

「何ニヤついてるのよ…あ、っていうかそろそろ戻らないとですね。」

「あ、わたしも行きます…!」


3人でバックヤードへ進む。

事務所に入ると、いつものように店長が事務作業をしていた。


「ほら、今日はうつむかずに目を見て挨拶しなさいな」

「な、名寄さん…!」


よ、よし…!


「お、おはようございます!お疲れ様です…!」


キーボードを打つ手を止めて店長がこちらを振り返る。

いつもなら、ここでスッと視線を下げるところを…今日は我慢!


「あぁ、豊平さん、おはよう。名寄さんと桑園さんもお帰りなさい。」


戻りましたぁ、と二人は返事をした後名寄さんがこっそり耳打ちしてくる。


「ちゃんとできたわね?明日も頑張って?私、応援してるから」


嬉しいような…恥ずかしいような…。

でも、嫌な気持ちはしない。

とりあえず、今日も頑張ろうと意気込む私だった。


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