17 名寄さんと既刊出し
さて、昨日に引き続き今日もシフトが入っている。
昨日は桑園さんから返本を教わった。
出勤前のバスの中で昨日メモした内容にもう一度目を通す。
ー雑誌はバーコードの近くに雑誌と書いてあるもの。
ー書いてなければ書籍
ー買い切り書籍はシールで見分けるべし。
覚える内容はシンプル。
ペーペーの私に早速教えてくれるあたり返本は比較的難易度が低いお仕事なんだと思う。
最寄りのバス停に到着し、搬入口にある従業員用の出入り口を通ってアルバイト用のロッカーに学校の鞄をしまう。
更衣室でスカートからチノパンに履き替えてエプロンをつけ、いざ今日のお仕事スタートだ。
(今日は大学生の名寄さんと一緒に研修って言われたけど…確か店長はきかんだしをやるよ、って言ってたよね。きかん、ってなんだろう…?)
そんなことを考えながらバックヤードを出て名寄さんが作業中のコミック売場へ向かう。
確か名寄さんは大学生だったよね。
背が高くてモデルさんみたいなカッコいい女性だから売り場にいてもかなり目立つ。
すぐに見つけて改めて挨拶する。
「お疲れ様です。先週入社しました豊平です!今日はよろしくお願いします…!」
「よろしく、名寄玲です。主にコミック売り場を担当してるわ。今日は既刊の品出し作業ね。わからないことがあったら遠慮なく聞いてちょうだい」
毛先をアッシュグレーに染めたウルフカットと、切れ長の目元がなんともイケメン(女性だが)である。
「はい!ありがとうございます!」
「さて…さっそく教えていこうと思うのだけれど…まず、新刊って言われて言葉の意味はわかるかしら?」
しんかん…新刊!
大丈夫…これはあってるはず!
「えと…新発売の本、でしょうか…?」
「そう。具体的には発売してから30日以内の出版物を新刊と呼んでいるわ」
ふむふむ。
「ではその反対で30日間を過ぎたら何ていうかわかる?」
新発売だから新刊。
新の反対は…えーと…
そうだ旧!
ってことは旧刊?
「旧…刊…?」
…なんかあんま耳なじみ無い響きだけど。
「救急搬送されそうな響きね。私も最初は同じ考え方をしたわ」
ってことは旧刊は違うのか。
だとすると…えーと…
…あ!店長が確か「きかんだし」って!
「あ!きかん、です!」
「そう。新刊に対して、発売日から30日以上経過した出版物を既刊と呼ぶわ」
き…記…奇…どれだろ。
…既!これか!既刊だ!
「それで、今からやる仕事は、売れた既刊の補充注文で入荷してきた本を売場に出す作業ね。
うちの場合、搬入されたときの段ボールのここに「注文」と書いてあったらそれは既刊しか入っていないわ。」
段ボールの側面に貼られたステッカーが貼られていて、そこに注文と書かれていた。
「ってことは新刊の場合はこのステッカーに「新刊」って書いてあるんですか?」
「ええそうよ。時々段ボールではなくプラスチックバンドとビニールで梱包されて入荷する場合もあるけれどその場合は中に紙が入っていてそこに新刊と書かれているの」
「なるほど…。わかりました!」
既刊と新刊の見分け方はステッカーを確認、とメモ帳に書き留める。
「では実際に箱を開けてみましょうか。
カッターは持っている?」
「はい!あります。開けますね」
そう言って段ボールを梱包するガムテープに切れ目を入れて開封する。
「なんか、紙が入ってます」
「えぇ、それが納品書。この箱にどんな商品が入っているかを示す帳票よ。
納品書は後でまとめて保管するから捨てないようにね」
「はい!」
名寄さんと一緒に10箱程ある段ボールを一度すべて開封し、先に中から納品書だけを抜き取る。
そして運送時の衝撃を吸収するための緩衝材が本と一緒に入っているのでそれをゴミ袋に詰めていく。
「納品書をすべて抜き終わったら、シュリンクと呼ばれるビニールのカバーをかけていくわ」
そう言って名寄さんは四角い腰の高さぐらいの機械を指す。
「この機械に本を通すの」
側面の投入口へ本を入れると、反対側の側面からビニール掛けされて出てきた。
「機会にセットしたビニールのフィルムが熱で収縮して本にピッタリくっつくのよ」
名寄さんはシュリンクがかかった本を私に手渡してくれた。
おぉ…まだあたたかい…。
「それじゃあ、この段ボール1箱分の本にシュリンクをかけていきましょうか」
「はい!」
本を1冊ずつ投入口に入れ、
反対側から出てきた本を移動式のラックに積み上げていく。
単純作業。だけどなんだか楽しいかも!
それに名寄さん、落ち着いた雰囲気で丁寧に説明してくれてとてもわかりやすい。
大学生ってことは二つか三つ年上…だと思うけど、めちゃくちゃカッコいい!!
そんな感じでひたすらシュリンクをかける作業していると
ふいに名寄さんが口を開く。
「そういえば、あなた店長のこと好きなの?」
奇襲!不意打ち!死角からの一突き!
な、な、なんですと?
「えぇ!?て、てんちょを!?な、なんのことですか!?」
「いや、たぶんみんな気づいてると思うのだけれど…」
私まだ入社して1週間も経ってないないんですが!?
ば、バレてる…!?
「い、いや別に好きとか…そんな…!」
「いつも見てるわよね。店長が事務所から売り場に出てきた時だけ、目で追ってるもの」
えぇ!?追ってる!?
完全に無意識だった…。けど、言われてみると確かに…。
「ち、ちなみにみんなというのは桑園さんや他のアルバイトさんたちも…?」
「そうね…全員が気づいているかはわからないけれど、桑園さんは真っ先に言ってたわ。
あらあら、ゆきちゃんは店長が大好きなのねぇって」
さすがお母さん。
なんでもお見通しってことか…!
「…そんなにわかりやすい…でしょうか…?」
「あら、否定しないのね。まぁ私はあなたのことよく見てたから」
「な、なぜ…?」
「んー、可愛いから?」
んな!?
「ふふ、冗談よ。…あ、可愛いと思うのは本心よ。見てたのはたまたまね。初日説明に可愛い子が来てるなーと思って眺めてたら、あなた、やたら店長を目で追っているんだもの」
目で追ってる…。うぅ…気を付けよう…。
私ってそんなにわかりやすいのかぁ…。
「店長、ああ見えて意外と人気だからね。頑張って?私は豊平さんのこと応援してるわよ」
「は、はい!…が、がんばります?」
あたふたしながらシュリンクをかける私。
この後も名寄さんからの口撃がちょいちょい続きながら初めての既刊出しを進めるのであった。
名寄さん…恐るべし…。




