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13 下見に行こう

「じゃぁ明日の11時に有希んち迎え行くねー」

「わかった、ありがと!」


夏奈に無事採用されたことを伝えたら、せっかくなのでカフェでお茶しに行ってみようという話になった。面接のときにもらったサービス券を使わせていただきつつ、ついでに夏奈がアルバイト採用祝いでパンケーキをご馳走してくれるらしい。やった。


あそこのパンケーキ、おいしいんだよねぇ。

ふわふわのスフレタイプのパンケーキで、フルーツと生クリームをふんだんに使っているのに甘すぎないところが良い。そしてなによりオシャレなのだ。ちょっと値段は高めだけれど学校のクラスメイトも頻繁に訪れSNSに写真を投稿する人気スポットとなっている。

パンケーキ、楽しみだ。それに…。


(兼平さん、いるかなぁ…)


自宅の最寄りからバスに乗り、国道沿いのバス停で降りる。

改めて見ると大きなお店なんだなぁと感じる。

本屋さんの隣にはアパレルショップや飲食店もあり、土曜日のお昼時ということもあり駐車場にはすでにたくさんの車が停まっていた。


「今日も繁盛してますなぁ…」


駐車場を抜けて本屋さんの建物に入る。

店内に一歩踏み入れると独特の紙のにおいがしてどこか他の場所と違う空間のように感じるのだ。この感じ、結構好き。


店内のちょうど真ん中にカウンターと大小様々なテーブル、ソファが並べられたところがカフェスペース。同年代ぐらいの女の子グループがすでに何組かパンケーキやドリンクを写真に撮り楽しそうに過ごしていた。


私と夏奈も、先に席を確保しカウンターでドリンクとパンケーキをオーダーした。

先にドリンクを受け取り、しばらく二人で話していると焼きあがったパンケーキが運ばれてきた。


「お待たせいたしました。ストロベリーシナモンホイップと、チョコバナナです」


きたきた!おっきくってふわふわだ。

夏奈がチョコバナナ、私がストロベリーシナモンホイップ。


「おいしそー!有希、途中でそっちもちょうだい…!」

「いいよー、チョコバナナも一口ちょうだい」

「もちろん!」

「とりあえず記念撮影してから…」


写真を撮り、SNSにも投稿完了。

さぁ、いただきますか!

ナイフを入れ、一口大にカットしクリームといちごを載せて頬張る。


「ふわふわだぁ~…おいしぃ…」

「いいなー有希は、これが毎日食べられるんだよねー…」

「いや、タダになるわけじゃないよ!?」

「でもでも、職場にあったら絶対時々食べちゃわない?」


たしかに…。テスト終わりとか自分へのご褒美は必要だもん。


「これ毎週食べてたら太るよね…」

「有希は中学の時から、食べたらその分育つよね」

「うぅ…それは言わないで…」


おなか回りとか気になっちゃう。


「まぁでもその分発育いいからなぁ…有希は」

「は、発育って…!」

「またサイズ変わったでしょ?」


そういって夏奈は私の胸元に視線を移す。


「ど、どこ見てるの!!」

「はは、ごめんて(笑) でも、育ってるでしょ?確か去年の夏がDだったからそろそろEカッp」

「ちょ、ちょ何言ってるの夏奈!!!」


クラスの男子に聞かれたら絶対からかわれるって!

私はあわてて夏奈の発言に自分の声をかぶせ、周囲を見渡す。


よかった。幸い周囲には女の子しかいないようだ。

ほっとしながら視線を戻すと、ドリンクをオーダーするカウンターに紺色のカーディガンを羽織った黒ぶち眼鏡をかけた人影を見つけ急に心拍があがる。


(!?)


今一度補足の説明になるが、私の恋愛レベルは中学生で止まっている。


ゆえに大人の男の人とカフェで一緒に過ごすなんてそれはもうデートのテンプレート中のテンプレートである。…と、文字だけで書けばまるでカフェデートを楽しんでいるような描写なのだが実際のところ相手はこちらを認知しておらずコーヒーをオーダーしているのを遠目から見ているだけ。まぁものは言い様だ。大事なのは同じ空間にいるという事実である。それだけで私の心臓はトクトクと軽快な拍を刻んでいる。


しばらくカウンターの方をぼーっと見ていた。


「おーい、有希ー。どうしたー?追加の注文したいの?」


夏奈の声で現実に引き戻される。


「はっ!?ご、ごめん!ちょっと考え事…」


生返事をしているとコーヒーを受け取った兼平さんがテーブルの合間を縫ってこちらに近づいてきた。な、な、なんで!?こ、こっちに来る…!!


(はわわわわ…!)


と思ったらそのまま私たちの横を通り抜け、書店スペースの方へ向かっていった。

…うん。そりゃそうだよね。コーヒーをテイクアウトしに来ただけでした。

1人で勝手に一喜一憂していると、夏奈が少し興奮した様子でささやいてきた。


「ね、ね、有希、今のお兄さんみた?黒ぶち眼鏡にカーディガンの塩顔ってなんか書店男子って感じでカッコよかったね!」

「そ、そそ、そうだねぇ…」


遠い目をする私。


「どしたの有希?ってかさっき有希もあの人見てたっしょ」

「い、いや…見て…ない…こともない…かなぁ?あははは…?」


えぇ、がっつり見てました。


「なにそれ(笑) …え、もしかして有希の知り合い?」

「知り合い…なの…かな…?」


うん…。面接の練習も付き合ってくれた夏奈には伝えておくべきだよね。


「夏奈、えーと……。今の人がここの店長さん。」

「うそ!?大学生かと思ったんだけど!じゃぁこの前有希が面接受けたのもあのお兄さん?」

「…うん。それと、この前のDM凸事件の時にコンビニで助けてくれたのも店長さんなんだよね…」


夏奈に隠し事なんてできないからね…。


「マジか…!え、じゃぁ有希がバイト始めるとか言い出したのってさ」

「言わないで!わたしもわかってるから!!そんな動機で働こうなんて不純だってわかってるからぁ…」


「なーるほどねぇ…。ってか兼平さんっていうんだ。そりゃ恋愛に関しては万年中学生の有希にとっては王子様になるよねぇ」

「ま、万年中学生って!そんなことないよ!!」


私だって人並みには恋の知識とか?異性とのあれこれとか?知ってるし…!


「ほう?うちのジュン以外とキスしたことあるの?」

「っ!……ない……けど…」


ジュンっていうのは夏奈んちで飼ってる犬の名前。後ろ姿がまんま食パンのコーギー。

夏奈の遊びに行くと、むちうむちうと私にキスの嵐を降らせてくるプレイボーイだ。


「toktakで上裸のムキムキメンズ見せたら茹でダコになるのに?」

「あ、あれは!!しょうがないじゃんあんなの初めてみたんだから!!お父さんすら見たことないんだから!!」

「ごめんごめん。でもそうかぁ…ついに有希にも春が来たかぁ…」


そんな大げさな…。

それにまだ好きとか、恋とか、店長とはそういうのでは無い…と思うけど…。


「でもさ、店長さん独身なの?彼女いるんじゃない?」

「結婚はしてない…と思う。指輪してなかったし。」


恥ずかしながら面接のファーストコンタクトでそこは確認済みだ。


「彼女は?」

「それは…わからない…」

「何歳ぐらいなんだろう。こんだけのお店の店長やるってことは以外とおじさんなのかな?」

「お、おじさんって…!言い方!」

「はは、ごめんごめん。でもさ、有希」


夏奈が急に真面目な顔をして私を見てくる。

え…なんだろう…。


「とりあえず採用されないと何も始まらないかんね?」


……わかってるよ!!!

わたしは残ったパンケーキを口に放りこんだ。


はぁ…本の神様…どうか、どうかお願いします。(2日連続2回目)

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