11 面接官
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「店長、面接の子来ましたよ。バックで待ってもらってます」
「あぁ、白石さんありがとう。今行くよ」
今日の面接は高校生。羊ケ丘は俺の母校。
10年越しの後輩だ。ここは1つ先輩らしく社会の大海原へ導いてあげるとしよう。
応募された情報をノートPCに表示しバックヤードへ向かうと、少し緊張した表情の女子高生が待っていた。
「お待たせしました。どうぞ、おかけください」
「…失礼します!」
豊平有希さんね。
高校2年生。快活そうな感じだけど、ちょっと緊張してるかな。
「実は僕も羊ケ丘だったんですよ」
でた。隙あらば自分語り。あぁいや、みなまで言うな。わかってるって。
男は年を取るとすぐに自分の昔話をしたがるがそれをありがたがる後輩などいないのだ。
これはただ場の空気を和ませるための前菜。食前酒。女子高生と共通の話題が地元の高校トークくらいしか思いつかなかったなんて悲しい現実は誰も見たくないだろう?
最初は緊張で言葉も詰まっていたけれど、しばらく話していくうちにだんだんと落ち着いたようだ。
何か好きな漫画とかあればもうちょっとリラックスした会話ができそうだれど。
「漫画とかは読みますか?」
「あ、はい!『テイキュー!!』がすきです!!!!」
めっちゃ食いついてくれた。
テイキュー!!は週刊誌で連載中のテニスを題材にした青春漫画だ。個性豊かな登場人物達おりなす群像劇的な作品で今や世界中で大人気となっている。スポーツ×青春は少年誌の王道だ。
「羊ケ丘はアルバイトOKなんでしたっけ?」
応募者が高校生の場合、アルバイト未経験という人も少なくない。
学校によっては禁止されてたりするしね。幸い羊ケ丘は学業に支障がない限りは特に何も言われないようだけどテスト期間はシフトを調整できるようにしておこう。
シフトに入れる時間を確認したあとは簡単に仕事内容の紹介をする。
書店の仕事と言っても他の小売業と内容はそう変わらない。
接客、品出し、清掃といったごくごく普通の仕事だ。
扱う商品の形が決まっているので品出し作業は比較的単純で、今は在庫もデータで管理しているから売場を聞かれて探すのも比較的簡単では無いだろうか。著者の名前の読み方だけは初見じゃ看破できないけれど…。
そんなこんなで過去のアルバイト経験を聞いたり、時給や仕事内容の説明もしたところで今日の面接は終了となった。
うん、悪くない。
目を見て話せるし、ちゃんと質問に返答できる。
何を当たり前、と思うなかれ。人は緊張すると自分でも何を言っているか分からなくなってしまう。面接と関係ないような質問も、実はちゃんと会話のキャッチボールができるかどうかの見極めにつながる大事な判断材料だ。
その点豊平さんは頭の回転が早い。緊張している中でも質問に対して辻褄の合う返答をしてくれた。土日も勤務可能とのことだしかなりの逸材じゃないかな。
「では面接はこれでおしまいです。ありがとうございました」
「こちらこそ!ありがとうございました…!!」
アルバイト希望で来てくれたとはいえ、近所に住んでいるとなれば立派なお客様だ。
年に数回しか来店しなくとも、その家族、友人、はては未来のお子さんがもしかしたら来店してくれるかもしれない。
ゆえにうちは面接に来てくれた人には併設しているカフェのサービス券を渡ししている。
もし不採用になってしまったとしても、大事なお客様には変わりないのだ。
「あ、そうだ。これよかったら使って下さい。ウチに併設されてるカフェのサービス券です。お友達にもお渡しして構いませんよ」
「え、いいんですか?ありがとうございます!!
私カフェの方は何度か来たことあるんですよ。オシャレでそれでいて落ち着くから大好きです!」
「それは嬉しいなぁ。個人的なおすすめはオレンジブランマンジェ。もし食べたことなかったら試してみて?」
ウチのメインは書店だけれども、カフェスペースとステーショナリー売場も併設された複合型書店。事業部は違えども同じ会社が運営していて時々交流がある。こうやって継続的に誘客するのはお店の責任者として大事なお仕事の一つである。
さて、事務所に戻って採用に向けて手続きを進めようか。




