10 いざ、面接
「どうぞ、おかけください」
「はい、失礼します…!」
ついに面接当日。
昨日の夜、夏奈と電話しながらちょっとだけ練習したんだ。
おかげで名前と生年月日はちゃんと言えるようになった。…ってそりゃ言えるわ。練習せんでも。
応募先の会社の社長の名前とか聞かれたらどうしよう…。さっきウィキペディア見たけど忘れちゃったよ…!
「本日は面接にお越しいただきありがとうございます。店長の兼平です」
今日の兼平さんは紺のスラックスに薄いグレーの襟付きシャツとカーディガンを羽織り眼鏡をかけていた。
わぁ……!眼鏡…めっちゃいい!しかも黒ぶち!!
「では、さっそくですが面接を始めましょう。色々お話を聞ければと思うのでリラックスしてくださいね」
「…っはい!豊平有希です!よろしくお願いします…!」
なんか急に緊張してきた…!
「よろしくお願いします。…履歴書、拝見したんですけど豊平さん羊ケ丘なんですね、実は僕もです」
なんと!兼平さん、先輩なんだ!
うぅ…一緒の学年で学校生活送りたかったよぉ…!
「え!そうなんですか!?」
「だいぶおじさんの先輩ってことになるけどね。…相変わらずプールの水冷たい?」
「冷たいです!暑い日はいいんですけどね…最初入るときはいつもひゃぁっってなります」
うちの高校。水道の水が夏でもすごく冷たい。なんでも地下水をくみ上げていてプールを含む一部の水道に使っているらしく、飲むと冷たくておいしいのだがプールとなると毎回修行のような冷たさだ。ってか店長2013年卒ってことは…28歳!?見えないんだけど!
「懐かしいなぁ…」
そう言って店長は履歴書をしばらく読み込む。
変なこと書いてないよね?っていうか証明写真全然盛れてないから見ないで…!
「っと、すみません。いきなり脱線してしまいました。えーと、それでは志望動機があれば簡単にで良いので教えてください」
きたきた!これは練習したよー!
「はい、実は通っている高校の帰り道にあるので時々本を買いに来たことがあるんです。広くて居心地がよくて、いい場所だなーと思いました。あと私の家は母子家庭で決して裕福ではないので、将来に向けて少しでも母の助けになればと思い応募しました」
嘘じゃないからね!?
私のお父さんは私が物心ついたころに病気で他界している。小学校へ入学するころにはお母さんとの暮らしが当たり前になっていたけれど、この歳になってわかる。お母さんマジすごい。
だから、少しでも助けたいのだ。高校の学費だって奨学金があるとはいえ決して安くない。それに将来しっかりと仕事に就いて少しでもお母さんを楽にするには社会経験は積んだ方がよいのだ。
「なるほど。ご家族想いで素敵ですね」
「っ…!いえいえ…」
やば。なんか…密室&この距離で褒めらるとちょっとドキッとする……。
「羊ケ丘ってアルバイトは問題ないんでしたっけ?」
「はい、それは大丈夫です。先生にも確認しました」
これも本当。この前先生に聞いて、進学費用のためって言ったらアルバイト許可申請書をくれた。採用されたら書かなきゃね。
「わかりました。履歴書を見る限りだと今回が初めてのアルバイトのようですが短期バイトの経験とかもないですか?」
「はい、今回が初めてで…すみません、レジ打てるかちょっと不安です…」
「大丈夫ですよ、ちゃんと研修期間もありますし先輩と一緒に練習すれば1週間くらいで誰でも打てるようになるので安心してください」
「ほんとですか!ちょっとだけ安心しました…!」
レジはほんとに心配。
だってうちパソコンとかないし。
レジとパソコンって似てるよね?え?全然違う?でもほら、なんかカタカタカタッターーン!ってイメージじゃない?どっちも。
今度夏奈のノートパソコンで練習してみようかな。ッターーン!って。
「お仕事内容は大まかに、午前中のお仕事は開店前に搬入と品出し、開店してからはレジと売り場の清掃や商品の補充です。慣れたら他にも色々やることはあるんだけど基本は今言った業務が中心ですね」
なるほど。そこはイメージしてた仕事内容と概ね合致している。
そして、そろそろ来るはず。
面接と言えば…!
「何か質問とかありますか?」
きた!これ、ちゃんと考えてきましたとも!
ここでしっかりと就職への熱意と関心を金平さんにアピールするのだ。
「あ、えーと…私本は時々買うんですけど…そんなに詳しくなくて…。なので作品の名前とか、会社名?あ、出版社か、…の名前とかも全然知らないのですが…」
お客さんの探してる本の場所とか、パパッと答えられないとだめなのかなぁ…。
「それも大丈夫です。知識の暗記が必要なわけではないですし、それにだんだんいやでも覚えていきますよ」
ほんと!?
もし受かったら、頑張って覚えよう…!
「ちなみに漫画とか読みますか?」
「読みます!」
「好きな作品あります?」
ありますとも!
それはもちろん…
「『テイキュー!!』です!!!!!」
「…て、『テイキュー!!』かぁ…。今劇場版が公開中で盛り上がってるよ)」
「そうなんですよー!!もう3回観に行きました!!!個人的には4DXで上映してほしいぐらいなんですけど、あぁでも駅前のシネコンは画面がめっちゃ大きくて迫力がすごかったです!!!」
あれは良かった!
お小遣いがなくなっちゃうから3回しか観てないけど…本当は何回でも観たかった。
「……あっ!す、すみません……私つい……」
「いえいえ、お好きなんですね本当に。うちのお店にも『テイキュー!!』好きな人たくさん来ますよ」
あ、それは知ってる。私の数少ない本屋さんへの訪店も『テイキュー!!』新刊購入のためだった。
「実は私も買いに来たことあります!ポストカードが先着でついてくるって聞いて学校行く前に」
「あーあれはすごい好評だったねぇ…」
なんて雑談交じりに色々話を聞いてくれる店長さんはなんだかとても話しやすい人で、気づいたら最初の緊張なんて忘れていた。
その後、時給やシフトの話もして30分ほどで面接は終了。
「では、以上で面接はおしまいです。合否については1週間以内にご連絡しますので少々お待ちください」
「はい、ありがとうございました!」
手ごたえは…あった…と思う。たぶん。
本の神様…!(今日初めて知り合いますが)どうかわたしを採用してください!!!




