観察対象
私はある研究チームに所属し、研究プログラムの実験をするために複数の銀河からランダムに惑星を選択した。
今回はランダムに選択した惑星の中から1つの惑星について、実験観察の途中経過を発表する予定である。
まずはその中身を見ていく。
対象は惑星b24715で、現地では”地球”と呼称されている。
まず、人間という種族をターゲットにし、その生物の”パーツ”の1つである”脳”に注目した。
彼らには規則正しく行動するようプログラムした脳を搭載した。
そして生活する上で必要な作業や食事を実施させていたところ、睡眠という活動が必要だと判明した。
これを取らない場合、通常の活動が困難になり、誤作動ばかりを起こすため、睡眠機能を追加搭載することにした。
この機能の搭載は目に見えて効果が出た。
たちまち誤作動が減ったが、代わりに活動時間と睡眠時間が存在するようになってしまった。
だが、これにより彼らは効率的に作業をこなすことが出来るようになり、安定した生活を継続できるようになった。
しばらく観察すると、今度は別の問題が発見された。
プログラム通りに効率よく、同じ作業を繰り返してはいるが、文明が発展しなかった。
狩りや採集、睡眠を単調にこなし続けても変化が無いのだ。
彼らは長い年月、同一水準の文明レベルを維持していた。先程述べた通り、同じ作業を繰り返すだけで、”変化”が無いためだ。
たまに事故や火事などで偶然何かが発見されて文明が発展することがあるものの、小さな変化に留まるか、滅多に起きない変化だった。
そこで、今回の実験の目玉である”感情プログラム”を追加搭載することにした。
このプログラムは、通常能力以下の力しか発揮しないこともあるが、通常能力以上の力を発揮する場合があるという活動形態を彼らにもたらした。
個体の能力自体は不安定な状態になってしまったが、悪い点ばかりではなく、良い方向にも働いた。
他者に対して羨ましいという感情を持つと、自分も負けじと努力し、試行錯誤を繰り返すことで、他者より抜きん出る者が出始めた。
これにより、現文明よりも発展したモノを作れるようになった。
中にはそのような行動ではなく、他人のものを奪うという手段に出るものもいたが、大筋では文明レベルが無変化状態から変化するようになった。
我々の観察にとっては有害でしかない、倒れているだけの”睡眠”に対しても感情プログラムは変化をもたらした。
”夢”という現象を体験するようになったのだ。
体は活動停止しているが、脳は活動しているために起きる事象で、内容はいつもの生活の記憶を不完全に再現し、あたかも今経験しているかのように感じさせるものだ。こちらの現象はどうでもよい。次の現象が大事だった。
夢の体験の中には、夢での”体験”が"初体験"となるものや、夢の中でしか体験できない事象も起きており、彼らは実体験したこと以外の事柄も体験することが出来るようになった。この体験が想像力を高め、更なる文明発展に影響を与えているようだ。
彼らの生活区域は文明発展と共に一気に広がり、多様性が生まれ、それによりさらに多種多様な文明が出現した。
滅びへ向かうもの、更なる発展を遂げるもの、いろいろあったが、現在は自分たちの惑星の衛星へ自らの足で立ち、無人機であれば更に遠くの惑星へと到達するに至っている。
文明の発展という点では、この感情プログラムは成功したということだ。
他には、生殖活動においても感情プログラムは複雑に働き、多様な事象が発生するが、これも彼らの平凡な日常を非日常にし、想像力を高めたり、生活に起伏を作ったり、衣服を発展させるなど、結果的に文明発展に寄与させている。
食事という活動についても同様に、単に空腹を満たし、活動を継続させるための手段で終わるのではなく、さまざまな感情を引き出す手段の1つに昇華させ、これがさらに農業や産業の発展を促したことで、結果として文明発展に寄与することになった。
彼らは、毎日の繰り返しの作業に意味を持たせることで、変化し続けるようになった。
次からは彼らの内面の変化を見てみよう。