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搾取と搾取① 


 あの女は生意気だ!

 


 昭和64年が7日間で終わりを告げた。 

 昭和天皇が崩御した。

  

 全世界が日本の歴史に……喪中に服す。街は静寂に包まれた。

 日本はこれから、空前のバブル期に迎う事を誰が、予想しただろう!


 平成元年2月24日、大喪の礼の儀で報道各局と全世界のメディアが注目した。 

 バブル経済に浮かれまくり、私は友達のアキラと

 長野県車山スキー場に来ていた。

 

 その頃、空前のスキーブームで、この頃、スキー場では、BGMはお決まりの

 ユーミンか、当時……究極の女子大生殺しの歌と言われていた。

 竹内まりやだった。

 

 遊び疲れた帰り道に、「ねぇアキラ~私ね、

 3月から葬儀屋に転職しようかなって、思ってるのよ、」

 「ん?アキラが突然なんだよ!雪妃、血迷ったのか?」

 

 「だってお正月にね、お雑煮食べながら、高島暦見てたら、

 適職が葬儀社か、弁護士だったからさ~

 ……弁護士?お前の頭じゃ逆立ちしったって、無理だって、」


 22歳になった私は、結婚の約束をしていた彼氏と、酷い別れ方をした。

 婚約を破棄して、やけになっていたのは事実だ。

 

 確かに私は、受験勉強を全くしてこなかったし、数学大嫌いだもん!

 私の数学嫌いは有名で、この問題を解けとか?

 あの上から目線は、新種の脅迫よ!


 「雪妃!相変わらず決断力早いな、うん!もう決めたの、

 落ち着いたら、また連絡するから、アキラも頑張ってね!」

 お互いサンキュウと言って別れた。

 

 『私に取柄があると言えば、勇逸ちょい美人な事だった。それしかなかった』

 

 初日

 

 

 平成2年ホワイトデーに、葬儀屋の門を叩き、事務所で、

 「おはようございます。今日からお世話になる……秋元 雪妃です」

 よろしくお願いします。」

 

 事務所内がざわつく、男社会に22歳の私が入社したからだ。

 いやらしい視線を感じる。私の全身を目で犯す! 

 一目でわかる、変態親父ども、

 セクハラと言う言葉が、まだない頃の話だ。

 

 事務所の奥のソファーに足を投げ出して分厚い本を読んでる、田島って言う

 おっさんがいた。どうやら私の教育係らしい。朝から酒臭い。

 その後、間もなく定年退職する沢田さんが、私に声をかけてくれた。

 

 「おっ姉ちゃん、新入りか、はい秋元です。今日からお世話になります。

 俺、沢田……来週定年で辞めるけどね!一応よろしくね」

 「秋元君、あの田島さんて、何故待機かわかるか?

 いえわかりませんけど…」

 「あの人ね、花屋、料理屋、住職のキックバックを誤魔化したから、

 ペナルティーで留守番になったんだよ。現場でも酒飲んで問題ばかり起こして

 周りから、煙たがられてんだよ。幹部にも目をつけられてるし、

 しかも慶王ボーイだぜ、えっあれで?…自分の耳を疑った」

 

 背任横領しても堂々と生き残れる時代どころか、本人は開き直る始末!

 当時、40代ぐらいの営業は、容姿でスーツさえ来てれば、

 先ず疑われる事はなかった。


 平成の始め頃は、ネットやSNSとスマホ、PCもない時代、

 急な葬儀で頼れる物は、タウンページか近所の町会長ぐらいしかなかった。

 その頃は、緑色の電話ボックスと、まれにポケベルしかない。

 まさにバブル絶頂期だ。


  

 発生


 

 契約病院から入電があり、「おう新入り、女だからって容赦しねーぞ」

 田島がドライ用意しろ?と言ってきた。

 ドライ?何ですか?それ、お前そんなことも、わかんねーのかと怒鳴る。

 

 寝台車を運転しながら、田島が怒鳴り散らす、

 入電後30分以内到着らしい。「すっ飛ばせー急げー」

 「そう言う事なのね、なら話早いわ!」

 私は車の運転には自信があった。ライセンス持ってるし

 「おーい、信号赤だぞ、えっ急ぐんじゃないんですか」

 私の目にはぎりぎり黄色にみえましたよ!先制ジャブよ!

 

 20分で到病院到着、遅いわねーと総婦長に嫌味と小言を言われる。

 あとで知ったけど、ドライとは、ドライアイスの略らしい。


 ゼクの洗礼


 

 ストレッチャーで病室から霊安室にご遺体を安置して、

 ご遺族様は号泣している。

 間髪いれずに担当ドクターが、病理解剖ゼクション

 通称ゼクの営業を 始めた。途中で小耳にはさんだ話だけれど、

 医者として納得できません。今後の医学の為に、

 同じ病気で苦しんでいる人がいます。

 こんな時に、と思いながら、これって………言葉がでない。

  

 故人様を 解剖室に移動して衣類を脱がし、裸にして、身長、体重を計り 

 ホワイトボードに記入して解剖医を待つ、

 ここまでが通常の葬儀社の仕事かと思いきや、「おい、術衣に着替えろ」

 と田島が言ってきた。「ええっ私が~……?いいから早く、

 あのー女子更衣室は?あーねーよ!その辺で着替えろ、

 えっでも、早くしろー」

 「なんだよ~、スケスケのTバックじゃねーのかよ!」

 田島が怒鳴りまくり、調子にのる。

 

 病理解剖臓器の取り出しと、終了後の縫合を葬儀社が手伝う事を、

 なんとなく理解していたが、まだブラック企業と言う言葉がない頃の話だ

 その後、女性解剖医が到着した。

 

 あっ今日は、新人さんなのね、よろしくね!

 病理課の末吉です。初めまして秋元です。よろしくお願いいたします。

 挨拶を交わし、女性の葬儀屋さんて、珍しいわね!

 「あなたゼクは初日かしら、あっはいそうです。じゃあ見てて…」


 担当ドクターが入院からの経緯を説明したが、解剖室中の会話に背筋が凍る。

 「あんたまた殺したの?今月これで何人目よ」この言葉を聞いた時、

 衝撃以上の残酷な言葉が見つからなかった。

 担当医沈黙説明も、しどろもどろに……「最善は尽くし…当たり前でしょ~」

 怒号が響く、病院は病理が一番力がある事を知る。


 

 丁重に合掌してゼクが始まり、メスを走らせ、胸の上から左足大腿骨まで開ける

 脂肪と筋肉血液が交じり合い、人間特有の臭いが解剖室に充満する。


 こ、この臭いは、鼻が曲がるどころか、今まで嗅いだ事が無く、

 私は、呆然と見るしかなかった。

 不思議と吐きそうな感覚は無く、人は死ねば、皆こうなるんだ!

 自分に言い聞かせた。 


 剖検用ハサミで、横隔膜の高さを計り、次に心臓を取り出し、重さを計る。

 肺を取り出し、ホルマリンを注入して、通常の2~3倍にする。

 ホルマリン注入の際、もちろんガスマスク等、用意が無く、目から涙と

 鼻水が止まらない。

 

 次に腸間膜を開けるが、大便をステンレス製の皿に移し、ホルマリンで洗い、

 解剖医に確認してもらう。

 それにしても、ホルマリンはマスク無しだと、相当きつい。


 その後、膵臓、腎臓、男性の場合睾丸を内側から取り出し、内臓中身は空に

 大腿骨(左足)の骨をむき出しにして、粉塵が飛び地散らないよに、

 神経と脊髄も 中身を丁重に取り出す。

 これで終わりかと思ったら、頭蓋の脳も取り出すらしく、故人の右耳内側から

 左耳内側まで、メスの刃先を裏にして、ストライカーで切れ込みを入れる。

 何故刃先を裏にするか、縫合時、頭部を目立たなくする為だ。

 そしてノミと金槌で、頭蓋を開けて、ドクターが脳を取りだす。


 この時点で、体の中は 空洞化状態になり、臓器の取り出しは終わるが、

 その後、縫合に移る、体内に器具がないか確認して、体中の血液を絞り出し、

 パッキンで復元して、場合によっては、一部戻る臓器もあるので、

 解剖医の関心事の際に確認する。

 

 葬儀社スタッフは、基本、死語厳禁、アイコンタクトで作業する。

 縫合の際、綿手、ゴム手、綿手を両手に、計3枚装着して縫合をする。

 

 その際、左右の皮膚と頭部に、寸分の狂いやズレが、絶対にないように、

 指の腹の先に全神経を集中させ、僅かな小傷なども細心の注意を払う。

 縫合終了間際に担当解剖医に、確認して頂く。

 

 理由は皮下脂肪が蒟蒻みたいに、滑るからだ。それと感染防止の為、

 その後、ご遺体を綺麗に洗い、大型タオルで水分をふき取る、

 口、鼻、性器、肛門に綿化を詰める。髪の毛はドライヤーで乾燥させて

 ブラシで綺麗に整える。 縫合糸は、テーピングとガーゼで隠す。

 この作業を出来るだけ、最短時間で終わらせる。


 その理由は、次の解剖が控えている場合が多いのと、24時間、

 いつでもやる。夜間は欠伸も気を付ける事、

 故人名は絶対間違わないようにする。

 例;高沢=高澤、裕美=ひろみ、等


 解剖室から出る際に、足でドアをオープンする。故人様を通路側に寄せて

 解剖スタッフの、着替えや、妨げにならないように注意する。

 その後、ご遺族様とご対面の儀、担当先生からの説明後、

 死亡診断書の誤字脱字を確認して、自宅若しくは、斎場に安置する。

 

 ゼクが終わったら、末吉先生が、

 「秋元さん、あなた、なかなか動きがいいわね!」

 末吉先生、とても勉強になりました。

 私の時は是非来てと言われたけど、

 「これってお褒めの言葉なのかな!」

 私は、複雑な気持ちになった。また次回機会があればと伝えた。


 

 賭け麻雀


 一段落して事務所に戻って目を疑った。馬鹿幹部と、ごますり部隊が

 安酒飲んで、賭け麻雀?

 土日は朝から競馬、これが昭和の段階の世代かと思い………

 上司に、”ごますり” へっぽこチーム! 怒りが収まらなかった。

 並みの人間なら切れて辞めると思うけれど、生憎、私は、

 どんな酷い虐め、意地悪にも、耐えられる自信があった。

 おうご苦労、ごますり部隊に言われたが、それから私の反抗が始まる。

 

 翌日からゼクに毎日行かされた。自分達がやりたくないからだ。

 

 ゼク再び 


 ある日、全く新規の契約病院で発生したから、”なるはや”で向った。

 連日のゼクで、私は1か月もすると、病理ドクターに、顔を覚えられ、

 自分では、医科大を卒業しないと、決して出来ない事に、

 密かに、優越感に浸る時もあった。

 

 『しかし、初心忘れるべからず 初心時々忘れるべからず!

 金の亡者、住職の言葉を思い出した。』

 「気を引き締めないと、いけないわ!」


 その病院でも解剖医がカルテを見て、院長の息子に、

 「cancer って言うんだガンは~帰ったら、親父に言っとけ~と怒鳴る」

  医者は職人だと思った。

 

  ゼクが続き、珍しく若い解剖医が担当した。

  いつも通り、作業をしていて、大腿骨を取り出して、

  確認お願いしますと……見てもらい、若いドクターが

  クスクス笑い始めて、「解剖助手が先生!何か?」

  突然、ガハハハッ~と笑いが止まらなくなり、私が

  「あっあのー、私なにか、不手際とか?ありましたか」

  

  「いや~ごめんごめん、僕ね~先週アメリカから帰国したんだよ」 

  「今、気がついたよ、日本はこうやるんだ!」

   大腿骨の骨の両側をストライカーで、切込みいれて

   輪切りみたいに、するんだ。」

   「このやり方、たぶん東大でしょ!あっはい」そうです。

  

   「ちなみにアメリカでは、輪切りじゃなくてね、縦に長方形で

    四分の一ぐらいにね!」

    「すみません先生、あっ気にしないで、大丈夫だから」


    「西洋医学と東洋医学の違いはここにあるのか」

    少し得した気分になった。   


  現場にて


 

  翌日、真心寺にて、祭壇撤収の作業に行った。

  出棺後、トラックを客殿につけて、祭壇の撤収をするが、

  諸先輩方は、口だけで1ミリも動かない!

  船頭が多くて、漕ぐ人がいない状態だ。


  いい大人が駄々こねて、まかり通る時代になってしまったのね。

  事務所に戻り、4時50分ぐらいから安酒飲んで、賭け麻雀が毎日続いた。

 「おい秋元~!飲みにいくから、金貸せよ?田島が言う」

 

 「先輩方にお金を貸すくらいなら、その辺にいる援助交際してる

 女子高生に心付け渡した方が、よっぽど、世の為になるかと思いますが、

 お前は、やる気あんのか~、やる気がないのはお互い様ですよね~」

 

 「あー言い返してしまった。私の負けだ

 しかし、ここまで仕事の嫌いな奴ら、初めて見たわ!」

 

 「トップブリーダーでも調教できない犬がいるものね!」心の中で呟く。


 四季報


 毎日、毎日、安酒と賭け麻雀、この文化水準の低さはどこからくるのか?

 こんな人たちと一緒になりたくないので、

 私は、一人夜間待機中、会社四季報やイミダス、政治家の本や漫画

 新聞3大紙も乱読した。

 大型社葬を施行するには、自分の知識磨きを肝心だ!


 何故、四季報かと言えば、日本の社会では、一部、二部上場企業には、

 必ず、重役クラスの出身大学や、派閥の縦社会があり

 それと労働組合執行委員長、役員の名前を即答出来るのが、

 私の狙いだった。


 神道


 日本の宗教は8割が仏教、1割が神社、1割がキリスト教の葬儀に分類される。

 そこで神道を徹底して、勉強し。「御霊写し、遷霊祭、玉串奉奠をするのか」

 故人名が、男、女で紹介方法が、違うのも、神道の特徴だ。

 又、仏教にも、各宗派があるが、神道系列には、天理教、大山ねずの命、

 等があり、私は、宗教者には、質問しまくった。

 半年ぐらい経った頃には、神道系列を完全に理解していた。

 特に司会担当は秋元に、任されるようになっていた。

 併用して、家紋や水引のルーツ、会葬礼状の住所、字、大字も

 理解した。

 いつしか、「私の見積もり書には、〇〇一式と言う文字や、

 ご安心ください。全部やりますから」その大雑把な言い方は

 なくなっていた。

 

 似非、関西弁を借りれば、「それ!当たり前やろ」


 除夜の鐘

 

 それから月日が流れ、冬になり巷はクリスマスと年末年始の話題ばかり、

 私の人生は2年前の婚約解消で、レールを外れまくっていた。


 大晦日、運悪く夜勤になり、まさか今からゼク?紅白歌合戦が終わり、

 明けまして~おめでとうございます~テレビは盛り上がり、

 病院から入電があった。

 来る日も来る日もゼクだ。

 除夜の鐘を聞きながらの夜中のゼクは実に、乙なもので、

 夜中に2件もゼク施行して、終わったら朝になっていた。

 

 寒さで手がかじかむ

 私は、外へ出て澄んだ冬の空気をたっぷり吸い込んだ。

 いよいよ、新年か

 ドトールコーヒーを飲み、タバコを吸いながら、ふぅー帰ったら、

 一杯やるかな、今年はきっと良い年になりそうかな!

 

 昔読んだ、フランスの小説に、ワインは女性が一人で飲むと、

 不幸になると一説があったけれど、

 だったら私が変えて見せる。

 運命よ、そこをどけ、私が通る道だから!


11件


 正月明け、出社して夜勤を4人でしていた。夕方契約病院から

 発生電話が止まらず。

 当時大手病院と8件契約していて、各病院からの発生が集中して、

 3人別々に営業に行く。

 

 はい!ゼク有りですね、承知しました。私一人でどうしろって

 事務所に電話して、井桁さん、2連続ゼクなんで、

 次、発生したら内線お願いします。

 わかりました。他病院も重なって発生してるから、

 

 何故4人勤務で3人のローテーションを組むが、

 理由は必ず本丸には、災害時の無線と同じで、

 固定電話係を置かないと、統括ができないからだ。

 私は、一晩で3件、仕事を取り、日程をずらしながら、何とかこなした。

 当時、火葬場への電話は全て録音されており、ダブルブッキングや、

 ニアミスを防ぐ為だ。


 気が付くと、いつの間にか、一人で、何でもこなせるようになっていた。

 結果一晩で、11件発生した。二流、三流の上司や社員なら、

 これだけやったんだーと、どや顔でもするだろうが、

 これは、はっきり言って何の自慢にもならない。

 

 朝、呑気に出社した社員には、どうしても、あたりは強くなる。

 労いの言葉や、挨拶なんて二の次で、人間関係が超悪かったが、

 悪いなりに、チームワークが生まれる瞬間だった。

 

 仕事が終わり、アパートに帰り、風呂上がり、ストレッチをして

 ビールを飲み、深い眠りについた。


 馴れ馴れしい


 私はどっぷりと、葬儀屋に染まり、淡々と仕事をこなす日々が続いた。

 ある日、夜勤明けでNHKのニュース速報で、破門されたヤクザが

 新大久保のパチンコ屋で25か所めった刺しで、死亡したニュースを見た。

 夜勤泊りは発生なくても、まず熟睡は出来ない。

 1時間ぐらいしたら、ある住職から紹介の電話が鳴った、まさか?

 あっ秋元くん、ニュースやってる?

 「ひょっとして、滅多刺し……ですか?」はい見ましたよ。

 じゃあ迎え行ってよ。わかりましたと言ったのはいいが、

 諸先輩方は、恐れをなして、尻込みして行かない、チキンめ!

 

 僕、行きます!一番若手の藤本が手を挙げた。

 「藤本、行くのはいいけど、社会人は、僕は禁止!

  あっすみません…… 秋元先輩!行くよ」

 

 幸い、契約病院ではなく、解剖終了後の処置の予定だったが、

 解剖医かアシスタントか知らないけれど、


 「ねぇーちょと手伝ってよ~何をですか?

 本当は出来るんでしょ~ゼク、お宅の会社有名じゃーん、頼むよ~」

 馴れ馴れしく、話かけてきた。

 藤本、処置道具だして、仕方ないと思い手伝った。ただ働きだ。

 解剖終了後、缶コーヒーを2本貰ったが、「これって報酬?

 たぶん御中元の残りじゃないですかね!」が言った。

 

 暫くして、故人の内縁の妻が来て、韓国人と知り、終始号泣していた。

 それから自宅マンションに搬送したら、営業担当が参ったよ、

 家賃2年間未払でだとさ、でも自宅で葬儀をした。

 どこの葬儀社も同じかと思うが、その手の人は、前金が条件だ。


 互助会の弱点


 葬儀業界は、葬儀社と冠婚葬祭互助会に分類される事が多く。

 その違いは何か、冠婚葬祭互助会は生命保険に似ている。

 毎月の掛け金で、葬儀一式賄えるのが謳い文句で

 パートの主婦やアルバイトが、私服で営業をかける。

 万が一の時は入会しておくと安心よ!全部出来るから、

 〇〇さんが言うなら、せっかくだから入会しとこうかしら

 と言う感じで、契約する。

 

 互助会は昭和の頃に毎月、500円掛け制度があった。

 例えば、毎月1000円以内なら、お財布にも安心よ、と思いこませる。

 しかし平成になり、夜間電話を、オートコールにした為、

 会員からクレームが多く、夜間、葬儀社に依頼が増加した事もある。

 

 特に互助会系列は、寺院や自宅、マンションの葬儀を酷く嫌う傾向がある。

 内装幕やテントを張ったり、いわゆる大工仕事が、出来ないからだ。

 下請け業者に、お任せすればいいじゃん!と言われるかもしれないが

 有料なので、内外装費が膨れ上がる仕組みだ。

 だから尺寸法を理解出来なければ、話にならない。

 

 しかも葬儀請求額は○○万円を優に超える話もよく聞く。

 今は式場が主流ですよ、冷暖房完備で、遠方の方も宿泊出来ますし、

 巧みに、誘導する。

 

 月久の掛け金で、全部出来るんじゃないの、見積もり額とこんなに違うなんて

 勧誘した人は、友達をなくすタイプだと否めない。

 しかも病院指定葬儀社には絶対頼んではいけませんとか、高額請求される等

 根も葉もない噂を流し、ホームページに記載してある。

 これは病院指定になれない業者が、同じ土俵では到底勝ち目がなく、

 悪あがきと言ったとこだろうか?

 葬儀社にしてみれば所詮、互助会だから、社員にはノルマがあり、

 週に1度、新会員の契約を取れないと、社員は減給対象になる。

 テレビCMで、有名芸能人を使用するのも、よくやる手口よね!


 警察案件


 葬儀業界も1年経つと、仕事に慣れてきて、ある日、警察に呼ばれた。

 やはり諸先輩方は恐れをなし、私が一人で行った。

 

 刑事が、「ちっ、一人で来やがって、しかも女だと~、使えねーな~」

 「仲間連れてくるから待ってろ~、この~ど素人が~予想通りだ」!

 待っている時間が無駄なので、一人で仏様をストレッチャーに安置した。

 ストレッチャーは左右5段階ぐらいで10cm程度、微調整が出来る。

 もっと言えば、「水は高きより低くへ流れるって、

 理科で習わなかったの?シーツ、綿布、浴衣を綺麗に整え」寝台車に安置した。

 

 暫くすると刑事が来て、「一人でどうやったの?」と真顔で聞かれたから

 はぁ~またか、「プロは一人よ!この警察はパトカードライブなのね!」

 創意工夫って言葉知らないのかしら

 今時、こんな事、若者に言ったら、旧態依然と笑われるかと思うけどね!

 私が、診断書早くして下さい。誤字脱字ないでしょうねと、一言

 警察を後にした。


 医療ミス


 季節は春の装い……桜が満開に近い頃、また病院での発生で向う、

 しかしいつもと様子が違う、到着して3時間音沙汰無し、

 おかしいと思い、非常階段で病棟に行ったら、

 ものすごい怒号が病棟中に、ちょいセレブって感じの、

 奥様と娘さんらしき人が、

 「三田先生なんて、死ねばいいんだわ、こんな病院来なければ~

 パパ~と罵詈雑言と残酷な言葉が飛び交う」

 夜間、守衛のおっさんに聞いたら、あれは医療ミスだと知った。

 

 3時間ぐらい待たされて、霊安室に安置したら、「病院側が差し向けた

 葬儀屋なんかに、誰が頼むかー怒鳴られた」

 ローソクの火だけは気を付けて下さい。

 鍵はここに置いておきますから、説明したら、造花を投げられた。

 私達は何も、悪くないのに?帰り際、部長先生と総婦長に話を聞いた。


 今思えば、病棟の廊下で、私が挨拶しても、目線も合わせず、

 絶対口も、聞いてもらえなかったのに!

 事務所に戻り、上司に報告したが、そうかわかった。後は任せた。

 また逃げるのかと思い、翌日、病理解剖に行ったら、亡くなった原因は

 担当医が手術後、成功と家族に説明したのに、

 若手の研修医に変わり、容態が急変したらしい。

 

 医療ミスではないと判明したが、大阪からきた、親族が大騒ぎに!

 親族の怒りは全く収まらず、その日の午後、お迎えの寝台車が到着した。

 最後お見送りの件を病棟に、連絡して、担当医、総婦長、総出で

 きたのはいいが、故人の長女が、研修医を殴り、眼鏡が壊れ

 「こんなはずじゃなかったんだからねー」と怒りの形相、

 こちらも見送った後、霊安室を施錠して、貴社して上司に報告した。

 

 「えっ医者を殴った~、そりゃ大変だったな~」ご苦労だった。

 私を快く思ってない、ごますり部隊は、私をほくそ笑み

 ざまーみろと言わんばかり、また安酒麻雀に明け暮れていた。

 

 帰ろうと思った時に、総婦長から電話で、「死亡診断書を

 渡し忘れて~どうしましょう!」

 半泣き状態だ、世話が焼けるな~と思いながら、

 施行業者には、個人的に付き合いがあったので、

 電話して、「受付に診断書あるんで、取りに行って下さい」と伝えた。

 長い一日が終わった。


 それから翌週また病院に呼ばれて、今まで私に、口を聞いてくれなかった。

 部長先生と総婦長の態度が一変した。

 殴られた研修医は休み時間だったのか、同僚と楽しそうに、

 ランチを食べていた。

 「反省なくして前進なし」昼下がり、満開の桜が綺麗に感じて、

 露天のたこ焼きが、上手そうだった。

 

 注射器シリンジ


 葬儀社に勤務していると、色々な、夜間電話がかかってくる。

 「お金貸してもらえませんか?」とか、横着な業者が、ほぼ泥酔状態で、

 「えーーと次の友引き、いつだっけとか?」

 たまには10日程度、発生のないことも、屡々、ひたすら寝台洗車

 する日もある。

 今月の、給料は?諸先輩方が、たぶん出るだろって、能天気に?

 土日は競馬に夢中だ!

 

 朝、珍しく契約外の地方の病院から呼ばれて、多摩西部に向った。

 会社の寝台車にやっと、電話がついた時だった。

 

 途中、珍しくご遺族の様子や内容報告があり、相当な訳ありだとわかる。

 長男は故人様の通帳から、金を引き出し、国民健康保険や生活保護金、

 全部使い込み、入院費も全く支払えない状態だと報告があった。

 話し合いは、病院長、理事長、総務、私が同席する事になった。

 病院に到着後、名刺交換して、孫娘さんが、どうやら薬物を常用してると

 聞き、5,6歳の男の子と、妙な政治家ゴロを連れてきた。


 霊安室で入院費の話を始めたら、娘が突然、目が座り、眉間にしわを

 寄せて、突然切れ始めた。政治家ゴロが止めに入ったが、

 男なら皆、振り向くようなすごい美人なのに……勿体ない

 支離滅裂で注射器を取り出し、行為を始めた。

 これが、違法リキッドってやつか

 すぐさま事務長が最寄り警察に連絡して、御用となった。

 私は、たまたま知り合いのヤクザに電話したら、ドスの聞いた声で、

 あー打たれちまったんだなと一言、私は、電話を切った。

 人生を棒にふるって、こういう事なのね!

 故人様に合掌して、帰社した。


 戒名


 以前、私が、司会担当を任され、故人様はまだ50代、会社役員、

 お子様は大学生の長男様、高校生の長女様、

 気丈にも奥様が喪主を務めた。 

 受注担当が、今回は俗名ですと言われ、ご遺族様との打ち合わせも終わり、

 通夜が終わり、ホールに宿泊するので、夜間の説明をして、式場を

 後にした。

 

 翌朝、住職から、6時ぐらいに電話でたたき起こされた。

 「あっ秋元さん、喪主さんから電話来た?」いえきてませんよ」

 「いや~今、寺にね、泣きながらさー、戒名つけてくれって、電話あってね」

 

 「あっ急遽、戒名つけるんですね、じゃあ白木位牌用意しますよ、

 あっ寺にあるから差し替えで」と言われ、わかりましたと電話を切った。

 

 入れ替わりで奥様から、泣きながら電話があり、

 「あの~何かあったのですかと

 聞いたら、田舎からきた主人の兄弟、姉妹に一晩中説教されて~

 東京の人間は、非常識にも程がある。戒名つけない葬儀なんて~

 これじゃーお兄ちゃんが浮かばれないし、成仏できないーって」

 「わぁ~ぁぁぁー、わぁ~ぁぁー慟哭が止まらない

 家族で私達が大変悪うございましたと謝罪したんですー。」

 電話の向こうでお子様たちのすすり泣く声が聞こえる。

 私は、すぐホール迎いますから、と言って、

 本当は嫌だったけど、運転中にあろうことか、お化粧しながら、

 サンドウィッチ頬張りながら、向った。

 

 受注担当は相変わらず他人事、親族一同、集めて経緯を説明して

 なんとか、その場をまとめた。

 結婚もそうだけど、2人だけの問題じゃないんだなと、心底思った。

 何とか葬儀を終えて、自宅に戻り、ご遺族様の安堵の表情が

 若干だけど、戻った気がした。

 

事件


 平成7年、3月、世間が震撼する凶悪事件が起きた。

 よりによってこのタイミングで?

 私は一晩中、霊安室で見積もりとお客様の応対をしていた。

 

 総婦長より内線電話が入り、救急が大変な事になっているの、と言われ、

 極悪教の仕業だなと、直ぐに予測した。

 最善を尽くしますと伝え、仲間から環状6号線、角筈陸橋、権之助坂も、

 全然動きませんと報告を受けた。

 幸い霊安室には、棺と備品がストックしてある、

 「一人じゃ無理ですよね」アシスタントのおっさんが、すぐに弱音を吐く

 団塊の世代、ため息がでた。

 

 私一人で納棺するわ!自然に体が動いて、とても冷静な私がいた。

 都内は交通網がパニックになり、

 兎に角、仕事を遂行するのに、必死だった。報道とニュースの話題は事件で

 持ち切りだった。夕方、外に出て少しだけ騒ぎが収まり、

 まだまだ油断は出来ないと腹を括った。

 

 粉飾


 一時、三兆円産業と言われた葬儀業界も、バブルの低迷により家族葬が増え、

 途中から会長の馬鹿息子と娘が陣頭指揮をとる事になったが

 現場が滅茶苦茶になる。兄妹揃って、現場を知らないのだから、

 原因は親会社のゴルフ場の経営悪化で、下請けから、資金を搾りとる手法だ。

 どうやら幹部の飲酒と賭け麻雀も誰かが密告したらしく、悪事が次々と

 明るみに出る。

 さぁ~粉飾決算のwill start だ。 容赦ない内部告発の始まりだった。

 どうも事務所内部が盗聴されてるらしいが、犯人はすぐわかった。

 翌週、全員で囲み、そいつを葬儀業界から追い出した。

 

 大した売り上げないのに、幹部がこんなに給料貰ってる?

 堂々と背任横領、都心に一戸建て、メルセデスを欲しがり、

 子供を語学留学させる。はっきり言って、アホ集団である。

 日本人の働き過ぎなんて、絶対嘘だと、確信した瞬間だった。

 

 訴訟


 10年、長野オリンピックの年に、葬儀屋を辞めた。退職金は無い、幹部が      

 使い込んだからだ。こいつら狂ってる。愚かな金の亡者どもよ。

 暫くして自宅に訴訟委任状が届き、常務の山川から喧嘩腰で電話がきたが、

 こいつが一番の悪党だった。その日の夕方、訴訟却下の連絡が来た。

 ”秋元さん、嫌な思いさせてごめんねー、

 謝罪されても、口から出た言葉は本音なのよ!

 そんな事も分からないのかしら、私は呟いた。


 暫くして、会長と山川と田島が死んだと聞いた。ちっとも悲しくない。 

 特に田島は皆に金を借りまくり、踏み倒す常習犯だったから。

 悪党の死になんとも思わない私がいた。


 居酒屋で


 久しぶりにアキラと一杯酒盛りをした。1週間ぶりに家に帰ったが、

 私は四ツ谷事務所に、長く泊まり込んでいた。

 「ああー久しぶりだね!」アキラと久々の会話と、冷えた生ビールと

 タバコが進む。

 生ビール2杯追加で、店員が、元気な声で、はい!喜んで~心地いい!


 大手に就職したアキラはバツイチになり、私は皮肉にも営業部長に抜擢された。

 ただ腐敗した葬儀業界「もう辞めようかな~と言ったら、アキラが黙りこんだ?

 フーン、雪妃、お前、寝言、言ってんのか?」

 私は、強烈にビンタされた気持ちになった。

 「お前の仕事、楽そうでいいなー?」私の愚痴がうざかったらしく、

 葬儀屋なんてどうせ殿様営業だろ、その通りだった。

 アキラに返す言葉がない!

 浅はかで中身のない、私の心は完全に見透かされていた。

 アキラのせめてもの優しさが、心に身に染みる。

 そろそろ店を変えるか、お互い席をたっていた。


 自問自答


 私は、葬儀業界に、憧れを持ち、故人様の人生の物語を、ご遺族様に届ける。

 綺麗ごとではないけれど、この仕事に誇りを持って、やって来た。

 一番の快感を感じたのは、ある大学教授関係の葬儀を担当した時に、

 教授10人ぐらいに呼ばれて、

 秋元さん、葬儀だけは全くわかりません。

 恥をかきたくないので、よろしくお願いいたします。

 三流の偏差値の低い農業高校卒の私は

 有名私立大学教授に頭を下げられた事がある。


 並みの人間なら自画自賛すると思うが、私だけは違うと自負する。

 それは、常に目の前で、怠慢プレーをして来なかったことだ。

 そして、葬儀はその土地柄で、郷に入っては郷に従え通り、

 決して一筋縄では行かない事を、若い内に勉強しといて、よかったと

 心から思う。

 何故なら、宗教者や、日本のトップ企業には、ハッタリは通じないからだ。

 私はこれからも、この仕事を続けるだろう、

 天職だと思うからだ。

 そして、いつか結婚して、子供が出来たら、

 

 私は最後まで諦めずに

 どんな困難にも、逃げなかったわと言うだろう!

           

                               

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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