十八話 狼人祭
十八話 狼人祭
「ピーー」
夕暮れの気配が漂う部屋にやかんの沸き立つ音が鳴り響く。そしてバタバタと廊下に足音を鳴らし癇癪を起こした女が俺に躙り寄る。
「なんであんたはこんな簡単なことも出来ないのっ!!」
女は俺の胸ぐらを掴み壁へと押し付ける。
俺はその恐怖のあまり目を逸らしてしまう。
「どうして双子の弟が出来て貴方には出来ないの!」
「この出来損ないっ!!」
「お母さんやめて!!」
激昂する女を見て必死に俺の間に入る弟。
次の瞬間俺の頬を何がかすめた。
女が食器を投げたのだ。
「今日はご飯抜きよ!部屋で勉強の一つでも出来るようになりなさい!」
俺は血の伝う頬を押さえ自分の部屋へと後にする。その間も弟は「ごめんなさいごめんなさい」と謝っていた。俺はそれを背に泣きじゃくる弟を置いて部屋へと帰る。
弟は何も悪く無いのに...不出来な兄ちゃんが悪いのに...
そこで俺の目からは大粒の涙が溢れた。
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「にいちゃん!!!」
耳元で大きな声が鳴る。
「ぶぁ!!」
情けない声を上げ、飛び起きる俺の前には弟の姿があった。
「何度も起こさせないでくれよ。今日はヴィタの旦那の狼人祭だよ?早く準備して応援に行こう。」
「そうか、そうだったな。」
「わるいなゼス。」
兄のアルバスは弟のゼスが作った朝ごはんを平らげ外に飛び出る。
「ん?兄ちゃん泣いてるの?」
アルバスの後に続いて外に出たゼスはアルバスの目から流れる雫を見て問いかける。
「何だコレ、多分あくびでもしたんだろ。」
「ゼスそんな事よりも早く行ってアイツの応援でもしてやるか。」
「それヴィタの旦那に聞かれたら怒られるよ兄ちゃん。」
「分かってるよ早く行くぞ。」
アルバスは会場へと歩き出しゼスはアルバスの後を追うように歩み始めた。
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むにゅり。
誰かに頬を摘まれる。
「ヴィタもう朝よ。貴方、今日大会に出るんでしょう?」
「うん。」
そう今日はあの狼人祭。
何のつもりか分からぬままグリエルの罠に引っかかった僕はやむを得ず格闘大会の参加を余儀なくされていた。
「もう起きるよ。」
アルナに起こされた僕は重い体を起こし寝起きの顔を洗いにおぼつかない足取りで庭の井戸へと向かう。
「どうしてだ...体は元気なはずなのに酷く疲れてるな、」
ヴィタは水面に映る自分の姿を見て意気消沈する。ヴィタの体は万全な状態だがローバとの二日間における訓練によってヴィタの心は疲弊し切っていた。
「ローバの奴...張り切り過ぎだよ。」
「もう、、」
あの人最後なんてとぼけ顔で「やり過ぎちゃった」なんて言い放ちやがった。
でも確かにいい経験はさせてもらったし、この分ならグリエルに何とか喰らいつけ所まで来れたと思う。
「それは正攻法ならだけど、、、」
ヴィタの頭にはあの時のグリエルの企みを含んだ表情が浮かび上がる。
「・・・」
「もう逃げちゃおうかな。」
このまま行けば面倒臭くなること確実だ。それならもういっその事逃げてしまった方が楽なのでは...
「ヴィタおはよう!」
家の門から顔を出すダイスがこちらに手招きをする。
「ダイス何だって僕の家に来たんだよ。」
「うん、何か俺とルーナが狼人祭の格闘大会に参加することなってたみたいでさ、ヴィタを参加するって話だったから一緒に行こうと思って。」
まぁグリエルが入れたらしいからな、、
「分かったよ。すぐに行くから待ってて。」
ヴィタは急いで井戸の顔に被り、駆け足でダイスの元へ走る。
「ルーナは先に行ってるって早く行こう!」
「はいはい。」
そうして僕らは走って村の中心部へと駆け出した。
「なぁヴィタがこんな大会出るなんて意外だよ な。」
「僕は出たくて出てるわけじゃ無いけどね。」
「そうなんだ。じゃあ家の決まり的な感じ?」
「どう言う意味だよ。」
「どうってヴィタの両親のディルックさんとアルナさん二人ともあの大会で優勝してるだろ?」
「えっ、父さんの事は知ってたけど母さんまで優勝してるのは知らなかった、、」
「そうなの?じゃあ何で参加したのさ、、」
「それは...気まぐれでやるって決めちゃったんだよ。」
「ははっ」
「もう後悔してるけどな。」
「じゃあ俺と当たったら時は手加減してね。俺優勝狙うから!!」
「もし僕と当たったらね。」
ダラダラと話す二人はあっという間に祭りの会場へとたどり着いた。
祭りでガヤガヤと賑わう村は美味しそうな屋台がいくつも並び、その中には昼間にも関わらず酒に溺れるおじさんや村を離れていた凄腕の狼人が帰省したりなど今日にしか見れない珍妙なものばかりが多くいた。僕らはそんな中、人混みを掻き分け、格闘大会の舞台へと向かう。
しかし混雑する人混みの中、僕は足元とられ前に立っていた人にぶつかってしまった。
「ん?」
「すっすいません!!」
僕はぶつかってしまった人を見て声を荒げる。僕がぶつかってしまったのは翡翠色の髪色をした小柄な女性だった。
「ん〜いいのいいのこんなに人が居るんだから気をつけなぁ〜よ。」
女性はのんびりとした優しい声で慌てる僕を諭し、屋台の串肉を咥え、優しく微笑む。
「何やってんだよヴィタ。」
「いや転びそうになって、この人にぶつかった。」
「だいじょふだいじょぶ怪我なんかしてないから〜」
「本当にすいません。」
頭を下げる僕を見て何を思ったのかその女性は口に咥えた串肉を僕に差し出した。
「ほーらこのこれあげるから元気だしなぁ〜」
「いや、別にそれは要らないです。」
「なっ!こんなにおいし〜のに〜〜」
「じゃあすいません急いでいるので失礼します。」
「は〜いじゃあね〜」
女性はぷらぷらと僕らに手を振り人混みへと消えていった。
「しっかし人が多すぎるな。」
「全然前に進まないな。」
「そうだね。」
再び会場へと急ぐ二人だったが前の集団に足止めを喰らっていた。その集団では誰かが揉め事をしているようで荒げる声が聞こえる。
「ヴィタがそんなことするわけないじゃない!」
揉め事が起きている集団の中から微かに聞こえた声は僕らの目をパチクリとさせた。
「ん?今声ってルーナ?」
「多分そうだね。」
ダイスは大きくため息をする。
すると畳み掛けるように再度聞き覚えのある声が聞こえた。
「嘘じゃ無い!本当に俺はアイツが抽選箱に名前を入れるのを見たんだ!!」
今度はキリアンだ。あの集団の中でなんか起きてるな。
しかも確実に僕関連で、、
ヴィタとダイスは目を合わせると急いで声のありかへと急いだ。そして僕らが集団を掻き分け一番に目にしたのはやはりルーナとキリアンの姿だった。
「ヴィタは絶対にそんな事しないわ。」
「何でそう言い切れるんだよ!!」
キリアンは幼馴染のルーナに信じてもらえず声を荒げる。
「それはヴィタは極度のめんどくさがり屋だからよ!!」
「抽選箱にコソコソ名前を入れるような真似、ヴィタはそんなめんどくさい事しないわ!!」
「なっ!!」
ルーナの声は祭の会場に響き渡った。
しばしの静寂のあと、周りの野次馬の中から共感の嵐が生まれる。
「そうだそ〜キリアン〜ヴィタはそんなめんどくさそうな事はしないぞ〜」
「そうよ私はヴィタのめんどくさがり屋を信じるわ!!」
「キリアン!!それは本当にヴィタだったのか?」
周囲はヴィタの怠惰な性格をしってか大声でヴィタを庇護する。
「ヴィタ良かったね。なんか庇われてるよ。」
ダイスは僕の肩を優しく摩り慰める。
「恥ずかしいからやめて!!」
ヴィタはらしくもなく顔を赤らめ、僕は羞恥に晒される。
「それにキリアン!あんた最近おかしいわよ!!」
「なっ、何がだよ!!」
「キリアン、グリエルと絡んでから様子が変だわ!」
「俺の何が変なんだよ!!」
「まずその「俺」って言うの何よ!前みたいにオイラって言いなさいよ!!」
「うっうるさい!今頃自分の事をオイラなんて言えるか!」
周囲の様子を見てキリアンは形勢が悪いと判断したのかその場から走り去った。
「なっ待ちなさい!!」
ルーナはキリアンを追いかけるそぶりをするがダイスが腕を掴み踏みとどまった。
「ルーナいったい何があったの?」
状況を知りたくダイスが問いかけるとルーナはキリアンに言い足りなかったのか捲し立てるように話し続けた。
「ダイス聞きなさいよ!キリアンのやつ私たちを大会に仕向けたのをヴィタだって言うのよ!そんなおかしいじゃない!!」
「まぁ落ち着きなって、、」
「そんなことコレがするわけないじゃ無い!!」
ルーナは恥ずかしさの余りにしゃがみ込むヴィタを指差す。
「もう辞めて、僕を辱めないでくれ、、」
すると顔を伏せる僕の目の前に二人の影が映り込む。
「そうだぞルーナ。ヴィタの旦那がそんなことするわけねぇ。」
そこにいたの影とは小汚い朱色の狼人の双子、アルバスとゼスだった。
「ようダイス、ルーナ調子はどうだ?」
「アルバスさん!それにゼスさん!」
「ようダイス。」
「じゃあさっきの声はお二人の声だったんですね。」
「ああ俺は女の声も出せるからな、得意なんだ。」
さっきの僕を庇う野次馬はアルバスとゼスの声だったらしい。
変な特技を持っていたものだ。
「しっかしひどい話だな。キリアンのやつ同い年の仲間を売るなんてよ。」
「はい、でもキリアンは普段いい奴なんです。最近様子が変なだけで、、」
「そうなのか?でもあれを吹聴されたらたまったもんじゃねぇないな。」
「はい、、」
ダイスと会話をするアルバスとゼスは次に地に伏せるヴィタに話しかける。
「よっ!久しぶりだな旦那。顔でも伏せちゃって俺たちに会えて嬉しいのか?だって友達少ねぇもんな。」
「このこの〜」
アルバスとゼスはツンツンと指で僕の体を指で刺刺す。
ピキッ
「ん?奴隷の、、いや友人のアルバスとゼスか。」
「か、勘弁してくださいよ〜」
二人はやり過ぎたと思ったのか下手に入るが少し遅かったようだ。
「ああそうだ。僕が今日大会で優勝するから手持ちの金、貯金も全て僕にベットしろよ?」
「僕の友達なら信用してくれるよな?」
「なっ!それはちょっと、、」
ヴィタの予想外からの反撃にたじろうアルバスとゼス。
「ハハハッ!!良いじゃねぇか全部賭けろよ!!」
突然の声に周囲は驚くが聞き覚えある声に僕は苦い顔をした。
「お前はっ!」
アルバスとゼスの背後に現れたソイツは二人を押し除けヴィタを前に姿を見せる。
「ようヴィタ!良い心意気じゃねぇか!自分に賭けさせるなんていいセンスしてるぜ。ハハハッ」
「何のようだよ。」
グリエルを目の前にしピリつく僕だったがそんな様子をつゆ知らずグリエルは紙を投げ渡す。
「何だよトーナメント表をお前に渡しに来てやっただけだろう?文句あんのか?」
グリエルの威圧的な態度に僕ら以外の周囲の狼人も固まり、静まり返った。
「そうか僕にわざわざ渡しに来てくれたのか。ご苦労様。」
「じゃあもう渡したたろ?どっか行けよ。」
グリエルの表情からは僕の反抗的な態度に腹を立てているのか伺えるがやはりこの場では手を出さないようだ。
「相変わらずムカつくなお前。」
「まあいい、この鬱憤も全部大会で色黒つければいい。」
グリエルはそう言い残しその場を後にした。
「ヴィタの旦那...グリエルに目をつけられてんのか?」
グリエルとの会話の一連の流れを見てアルバスとゼスはヴィタに不安げに問いかける。
「うん最近絡んでくるから今日倒そうと思って、」
僕はアルバスとゼスの前だからか強気にものを言ってしまった。
「旦那そんな甘くないですよ、辞めておいた方がいいです。」
「いいってもうやるって決めたから。」
それ以上何も言うなよ...怖いだろうが...
「アイツ普通に強いんですよ。前に同じ部隊に配属された時とんでもなかったんですから、、」
「ふーん。」
ヴィタはそれを聞き内心泣きそうになりながらも強がったそぶりを見せる。
「ヴィタ、大丈夫?」
ダイスはヴィタの様子を見て思うところがあったのか僕の顔色を伺う。
「うん大丈夫。」
はぁ、もう帰りたいよ、、、何で出るなんて決めちゃったんだよ僕は、、
心の中で泣き言をこぼすヴィタだったが、さっきのヴィタの様子を見て、知らぬところでとある会話が繰り広げられていた。
「なぁ、やっぱ旦那って強いんかな?」
アルバスはゼスに耳打ちをする。
「まぁグリエルの話をしてもあの様子なら相当自信があるんじゃないかな。」
「そうだよな、普通はビビるもんな。」
「旦那も最近属性使えるようになったばかりなんだもんな。」
「うん。」
「やっぱ流石だな!!」
「うん。」
そう、アルバスとゼスは耳元でヴィタの最強説を語っていた。
そんな男共を差し置いてルーナは声を荒げた。
「ねぇ!!まだ話し終わって無いんだけど!!」
「やっぱり私、キリアンの奴を捕まえに行ってくるわ!!」
「良いってルーナ!」
「何よ!!」
ルーナは腕を掴むダイスを睨みつける。
「格闘大会の予選があるだろう?」
「そんなの良いじゃ無い!!」
「ダメだ。掟であるだろ?」
「「敵に背を向けるものは斬首」って言うのが...この掟はこの大会にも適応されるんだよ。」
「はぁ、分かったわよ。」
ルーナは苦虫を噛み潰した顔をしながらダイスに諭される。
そう、僕がこの理不尽な罠に引っ掛からざる負えなくなった最大の理由がコレだ。戦時中にしか意味をなさないこの悪法が大会にも適応されることで逃げることの許されない戦場での掟が僕に牙を向いたのだ。
「で、私たち誰と戦うのよ。」
僕はグリエルに渡されたトーナメンの票を目にする。
今大会での出場者は六名。①グループと②グループに分かれ、試合をし優勝者を決める。優勝者にはその戦いぶりから称号を与えられる。
一回戦①グループ第一試合ダイス対ユーリ
一回戦②グループ第二試合グリエル対ルーナ
二回戦①グループ第一試合???対①勝者
二回戦②グループ第二試合ヴィタ対②勝者
三回線①②グループ第一試合グループごとの勝者
僕と???って人がシード枠だな。???って人はシークレット枠かな?今は誰か分からないようだ。でも問題そこじゃ無い。僕が危惧したのは一回戦目にルーナとグリエルが当たってしまう事だ。よりによって女の子であるルーナが当たってしまうだ。
「やばいな、ルーナやっぱりお前は棄権しとけ。一回戦目にグリエルが相手なんだ村のジジイ共も文句は言わねぇよ。」
「仇はヴィタの旦那が取ってくれる。安心して棄権しろ。」
「そうだよルーナは棄権しなよ。」
ダイスらはルーナの相手を見て顔を青くする。
「いいえしないわ。」
「えっ?」
ルーナの発言に驚きを隠せない一同だったがそれはすぐにはっきりとした。
「あのグリエルってアホと絡むようになってからキリアンはおかしくなったのよ。キリアンに何をしたのか聞き出してあげるわ。」
なんて馬鹿なんだよ。まぁグリエルは手を抜くって話だったし恐らく大丈夫だと思うけど。棄権するに越したことはない。
「僕も棄権するべきだと思うぞ?」
「そうだよルーナ辞めとけよ!怪我するぞ!」
「きちんと考えろ棄権するべきだ。」
僕を含めダイス、アルバス、ゼスがルーナにその危険を諭す中とある一言が聞こえた。
「棄権したら斬首よ?」
冷徹にも放つその言葉は僕らの背後で聞こえた。
振り返るとそこには先ほどの翡翠色の髪の女性が立っていた。
「棄権は辞めときなさい。死にかけでもローバが居るんだし完治できるでしょう?」
「アンタはさっきの。」
ダイスをも気付いたのか怒りの表情で翡翠の女性に近づく。
「そんなの無茶苦茶だ!」
「そもそも俺とルーナは大会に出ると自分で決めてないんだ!」
「そんなの関係ないわ。掟は絶対。」
「守れないなら有無を言わず死ぬべきね。」
「何をそんな無茶をっ!掟は命よりかは軽いものだろ!」
翡翠の女は目にかかる長い髪の耳にかけ、次の言葉を言い放つ。
「君は何を言ってんの?掟を守れない狼人は戦場で捨て駒にもなれない部隊を危険に晒すだけの不安因子でしかない。」
「掟を守れないない狼人はこの村には居るの価値のない斬首に当たるべき存在でしかない。」
「アンタは何を言って、、」
「君は私達に感謝するべきね。この村が安全なのは私たち戦士が前線で血反吐を吐きながら人間を殺しているからよ。」
するといつの間にか彼女の背後に全身に夥しい怪我を負う大勢の狼人が姿を見せた。
見るからにわかる。彼らは歴戦の戦士達だ。
「そんな残酷な戦場で仲間を繋ぎ止めるのはアンタの言うその残酷な掟。」
「君は知らないでしょ。この由緒ある祭りの大会でこの掟が適応されておるのは私達戦士への畏敬の意味を孕んでいるのよ。」
「そしてあなたは忘れてはいけない。あなたが悠々と生きていけているのは私たちが掟を守っているからだと。」
先ほどとは打って変わって淡々並べた彼女の言葉は酷く心にのしかかる重い現実だった。
「ダイス、私は大丈夫だからね?」
「安心しなさい棄権はいないわ。なんたって私はグリエルに聞かなきゃいけないこともあるからね。」
「よし!わかれば宜しい!
ルーナの言葉を聞き彼女は安心したのか笑みをこぼした。
「今日は皆、祭りを楽しみにきたの!」
「ほらほらみんなも解散解散。」
彼女の号令と共に歴戦の狼人はバラバラと人混みに姿を消えていった。
そうして最後の傷の狼人が姿を消すと彼女はころりと人が変わったように優しい雰囲気を醸し出す。
「ごめんね〜言いすぎちゃったね〜でも私にも立場があるから〜」
「私、君たちの試合。楽しみにしてるよ〜」
「じゃあねぇ〜」
言いたいことを言い終えると彼女は人混みへと姿を消した。
「何なんだよ一体、、」
ダイスは掟の重要さを知り、それは彼の心に深く根を張った。
「気を落とすなよ、一回戦目はお前だからなダイス。」
「分かってるよ。」
「おい、そろそろ時間だぜ?」
「ああ、急ごう。」
あっという間に格闘大会の時間が迫り、僕らは足早に会場へと足を動かした。