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黝ずみの狼  作者: hazuki
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十五話 凶運

十五話 凶運


今日もカーブと旧訓練場で属性訓練に励んでいる。傍では僕を横目にこれから暴走するであろうカーブをザンスが見張っている。

「よし、やるか。」

ヴィタは自分の頬を叩き、ダラけた脳みそで思考を始める。

まず属性の訓練とは自分を理解すること。能力は人によって異なるため、自分自身で身につけなくては行けない。現状の闇属性についてはっきりしていることは3つ。

1 .闇属性は他の属性のように自身に身体能力の強化ができない。

2.現在使える攻撃手段が少ない。

3.闇属性は少人数戦が得意な属性だが、自身で身体能力の強化を施せない為、複数人を相手にするのは得意では無い。その為に今後は一定以上の防衛、防御手段を得なければいけない。


自分の闇属性について把握していることはこれぐらいか、まずは攻撃の手段を増やそう。この先も攻撃手段が一つしかないのは心許ない。


僕は目の前にある木製の的に闇属性の攻撃を放つ。手のひらで生成された黒いモヤはゆっくりと空を侵食するように染め上げてゆく。


そう、この黒いモヤとは暴猪を殺した謎の攻撃だ。

正直、使いずらいったらありゃしない。僕がこのモヤについて知っていることはたった一つ。このモヤは触れた相手にあらゆる現象を付与する。詳細までは定かではないがその付与する現象の中には人体にも強い影響が出るものもあるだろう。


そうしている間にゆっくりと空を侵食していく黒いモヤは木製の的を包み込んだ。黒いモヤに触れた的は不可思議にも霜を帯び始め、周囲には焼け焦げる匂いを漂わせた。そしてモヤが散る頃にはドロドロと腐り落ちた的がそこにあった。

「何だよそれ、」

横から覗いていたのかカーブは腐り落ちた的を見て唖然とする。

「何だろうね、僕にもわからない。」

僕はその様を見て自分の属性の攻撃性を恐れた。


「ヴィタ、少し良いか?」

その強張った顔をしたヴィタをみてかザンスが口を開いた。

「今のお前の攻撃を細分化してみろ。」

「細分?何だって?」

「俺の目からは見たお前はただ属性を吐き出しているように見える。的の状態から見てお前もそう思うだろう?」


確かにザンスに言われて気づいたが、この不思議な現象は闇属性特有の状態異常の付与と合致している様に伺える。


「使い分けるんだ。お前の属性は引き出しが多い、それ故に単純なものがなく、いくつもの能力が複雑に絡み合っているんだ。」

何だかパッとしないな顔をしたヴィタにザンスが言い放った。

「お前は少し変だな、俺の経験則上、お前みたいに能力の引き出しの多い奴らはその分、要領が良く上達が早い。何をそんなに難しく捉えているんだ。」

「すいません、、」

確かに難しく捉え過ぎていたのかも知れない、でも許してくれよザンスさん!生まれてこのかた数十年、能力なんか目覚めたことないんだよ!

「ヴィタ、カーブを見てみろ。アイツは上手くやってる。」


「纒雷」

人獣化したカーブは体に雷を纏わせ、身体強化をする。

「遠雷」

カーブは離れた所から雷を落とす。


ザンスの言う様にカーブは僕と違い、属性を上手く扱えている様だ。

すると僕が見ていることに気付いたのかカーブはこっちを見て鼻で笑った。

「ふんっ」

「分かりましたよ!やりますよ!」

「お、おう。がんばれ。」

カーブへの苛立ちを押し殺し僕は訓練を再開する。


まずは攻撃の細分化だな。さっきの的の様子を見て分かったのは、霜、燃、腐の三つの状態異常だ。これらが僕の能力の一部だろう。


僕は体内に巡る魔力を右手へと集め始める。


付与(アサイン)


付与、自身の体に状態異常の効果を付与する。


それは三つの中の状態異常の一つ、触れたものを凍結状態へとする冷却能力。


「凍瘡」


状態異常の効果を付与され右手は冷気が流れ出る。

「出来た、、」

驚きで胸が高鳴る僕だったが集中が途切れぬ様、冷静さを保つ。

「やっぱりこれが正解か、」

僕が今したのは(能力の言語化)だ。僕の中で絡み合う複数の能力を引き出すにはこれが手っ取り早いようだ。気に食わないが参考にしたのはカーブだ。カーブの様に能力名を言語化した方が頭でイメージがしやすい。

しかしこれには大きなデメリットがある。それはあたかもアニメやゲームの技名を叫んでいる様な気持ちに襲われることだ。これはとても恥ずかしい。


そんな気持ちに襲われながらも冷静さを保ち、僕は冷気を放つその手で地面を触れた。すると地面は手が触れた面に合わせ、霜がたつ。


「すげぇ、、!」

僕は初めて自らが起こした超常現象に興奮が湧き立った。この世界に生まれ数年が経ちその中で様々な不可思議な現象に遭遇した僕だったが、それは僕とかけ離れた別の何かだとそう思っていた。しかし改めて認識させられた。僕はこの世界の住人だ。


その後は興奮冷めやまぬまま次の能力を発動する。


付与(アサイン)

「火傷」


すると右手からは冷気は消え、熱気を感じる。僕は足もとにある折れた枝をにじり締める。すると焦げ臭い匂いが周囲に漂い、木の枝はたちまち焼け焦げた。二つ目の状態異常の効果は焼却能力、この効果は受けたものを焼き上げる。


そして三つ目の状態異常。


付与(アサイン)

「孕毒」


この状態異常を付与すると手のひらにある焦げた木はドロドロ溶け腐り落ちた。この状態異常の効果は魔力で生成した特殊な毒を与える効果でこの毒を受けたものは内部組織から崩れ、最後にはドロドロとした液体なる。

「何だよこれ、」

ヴィタは手のひらに残った腐った木の破片に驚愕する。

ドロドロの液体となった木の枝は強い粘着力を持ち僕の手から離れ落ちない。手を目一杯に振り回すヴィタだったがが一向にその液体は落ちる気配がない。

「その液体は水で洗えば落ちる。」

ザンスはそう言って僕に水の入った筒を渡した。


そう言われた僕は水をかける。するとその毒は解除されたのか腐り落ちたはずの木は元の焦げた枝に戻っていった。


「次は練度だ。今は体に付与した状態で能力を発動しているみたいだがさっき見せた黒いモヤのように撃ち放つ事も出来るはずだ。」


そうだな能力にはそれ特有の適正な距離があるはずだ。能力が最大限力を発揮するには考えなくては行けない。


そしてザンスはまくし立てるよう言葉を言う

「それにそのスペックならお前も狼人祭に、、」

しかし何かを言いかけたザンスだったが、そこに雷鳴と黄色い閃光が発生した。黄色い線香により阻まれた視界が晴れるとそこには獰猛な獣の姿をしたカーブが立っていた。雷を身に纒うカーブは白目をむいている。それは見るからに暴走状態のカーブだった。でも今回の暴走には妙な点があった。


「カーブのやつ身体強化したまま暴走してない?!」ヴィタは焦りのこもった面持ちでそう言い放つ。そこにいたカーブは暴走前に発動していた「纒雷」を見に纏いながら暴走してしまっていた。

「まずい!離れろヴィタっ!!」

焦りのこもったその言葉で叫ぶザンスだったが身体強化をしたカーブは普段の数倍の速度で僕らへと駆け抜ける。心なしか僕の方へと走り込んでいるように思える。


ザンスは長年の勘からかすぐさま地に手を当て、魔力を流し込む。

「前硫門」

ザンスはカーブの進行よりも早く、僕の前へと立ちはだかり、土の壁を出現させる。

「有難う、」

「いや、まだだ。」

息を吐くのも束の間、カーブは目の前に立ちはだかる壁を飛び越え回避した。さらには僕らに攻撃を仕掛けようとする。


「何だ、知性があるのか?」

普段の暴走時では行わない回避の行動に入ったカーブの姿を見て、ザンスもまたこの暴走がこれまでのものとは何かが違うことを感じ取る。獣へ成り、雷を身に纒ったカーブは立ちはだかるザンスを素通りし、雷を纏った拳で僕を殴りつけた。

不意にカーブの拳を受けた僕は後方へと吹き飛ばされてしまった。僕は揺れる意識の中、追撃を仕掛けるカーブを目にし、回避をするべく体を動かそうとする。


しかし体が思う様に動かなかった。


マジか、これスタンか、、?!


僕は再びカーブの拳を身に受けた。

口の中で血が滲む味がする。今日もカーブのせいで口の中を切った様だ。舌で傷口から流れ出る血を舐める。


今度ははっきりと感じとった。さっきのスタンはカーブの拳が触れる瞬間、それと同時に身に纏う雷が僕へ自動追撃を仕掛けているようだ。これは昨日の暴走の様なただの打撃では無い。カーブは雷で人体の構造を利用した強制スタンを僕へと与える。このカーブの進撃は生半可な行動では避けようがない。地面を蹴り上げ、砂煙の中から僕を仕留めにかかる。


僕は自身の生死を察知してか、無意識にも反撃に入った。ヴィタはすぐさま変態し、魔力を右腕へと流し込む。


付与(アサイン)

「火傷」


人獣化をしたヴィタは火傷が付与された右腕で飛び込んでくるカーブの胸に掌打を打ち込む。メリメリとめり込むヴィタの掌打に反応したカーブの纒雷は大きく火花をあげ、両者共々吹き飛ばれた。

カーブはその場で倒れ込み、ヴィタは雷で痺れた痛みで膝をついた。


ヴィタは初めての属性での銭湯で腰を抜かす。プルプルと震える右腕はカーブの纏雷の恐ろしさを物語っていた。


ほんの数秒の攻防だったのにも関わらずダメージはここまで蓄積されるものなのか、それにしてもまたかよ。


ヴィタは口の中で溢れる血の味で顔色を悪くする。

「大丈夫か?!」

駆け寄るザンスは胸元から小さな小瓶を取り出した。

「なにそれ、」

「これは塗り薬だ。魔力で受けた影響を回復させる効能がある。」

「どうだ?」

「まぁ、少し良くなったよ。まだ殴られた所は痛いけど、、」

「これは魔力の影響を消すだけだ。本来痛みを緩和するものじゃない。ヴィタはすぐローバの所に行ってこい。動けるだろ?」

「うん、ギリギリだけど、」

「すまない、俺はカーブをこのまま訓練を続けさせないと行けない」

「うん、分かったよじゃあ行ってくる。」

そう言うとヴィタは痛む箇所を押さえ、歩き出した。ザンスはヴィタの背中を見て、ボソリと言った。「悪いなヴィタ、ジジイどもに一刻も早くカーブを仕上げろって言われてるんでな、、」

「ほら起きろカーブ、訓練を再開するぞ。」

ザンスはペチペチとカーブの頬を叩き、カーブを起こす。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「纒雷」自身に身体能力の強化をするだけでなく、発動者に触れた相手をスタンさせる。


「遠雷」遠くの場所に雷を落とす。発動からの溜め時間によって威力が変わる。


「前硫門」地面に魔力を流し込むことで発動できる。前方に土壁を出現させることができ、土壁の強度は流し込む魔力量によって変化し、最大では鉄をも超える強度になる。





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